Galaxy AIは7割が活用も、「Googleとの差別化」や「無料化の継続」が課題か 万博で語られた展望(2/2 ページ)
大阪・関西万博で開催されたサムスン電子とQualcommの合同講演で、Galaxy AIユーザーの70%以上が機能を活用していることが明らかに。しかしGoogleのAI技術への依存度が高く、独自性の確立に苦心している実情も浮き彫りになった。
過去6カ月で利用者は2倍、でも3割は未使用
講演で示されたサムスンの調査によると、Galaxy S25シリーズユーザーの70%以上がAI機能を活用しているという。過去6カ月でAIを頻繁に使うユーザー数は約2倍に増加し、急速な普及が進んでいることが明らかになった。
利用者の内訳を見ると、回答者の50%以上が「生産性向上」を最重要機能として評価。具体的には、議事録の自動作成、翻訳機能、文章の要約などを業務効率化のために活用しているという。
さらに40%のユーザーは「クリエイティブな活動」にAIを活用。写真編集の「消しゴム機能」で不要な被写体を除去したり、動画から雑音を取り除く「音声消しゴム」を使ったりと、専門的なスキルがなくても高度な編集作業を楽しんでいる。SNS投稿の文章作成支援も人気で、キーワードを入力するだけで自然な文章を生成してくれる機能は、若い世代を中心に支持を集めている。
一方で、約30%のユーザーはまだAIを使っていない。この「AI未体験層」の存在は、サムスンにとって大きな課題だ。講演でソン氏は、彼らがAIに距離を置く理由を3つに分析した。
第1が「実用性への疑問」。AIが本当に自分の役に立つのか、単なる技術デモンストレーションではないかという懸念だ。第2が「使いやすさへの不安」。複雑な設定や操作が必要ではないか、技術に詳しくない自分でも使いこなせるかという心配。第3が「安全性への懸念」。個人情報やプライベートなデータがAIに渡ることへの抵抗感だ。
これらの懸念に対し、ソン氏は「AIを機能ではなく体験として提供する」というアプローチを強調した。例えば、サイドキーの長押しという簡単な操作でAIを起動できるようにしたり、音声で自然に対話できるインタフェースを開発したりと、技術的なハードルを下げる工夫を重ねている。また、オンデバイスAIの推進により、データがデバイスから出ないことをアピールし、プライバシーへの懸念にも応えようとしている。
しかし、70%の利用率を誇る一方で、30%が未使用という現実は、AI普及の難しさを物語っている。2026年以降も基本機能は無料継続の見込みだが、新たなプレミアム機能については有料化の可能性もあり、この未体験層をどう取り込むかが課題となる。
日本研究所の貢献「記憶にない」
講演後のグループインタビューでは、日本での開催ということもあり、記者から日本市場に関する質問が出た。
日本市場について「重要視している」と述べた一方で、サムスンリサーチジャパンで開発されGalaxyに搭載された機能について問われると、ソン氏は「記憶にない」と回答。同研究所では言語対応を中心とした研究開発を行っているとのことだが、グローバル展開における日本独自の貢献や、日本ユーザー向けの特別な機能開発については言及されなかった。「全世界でワンチームとして開発している」という説明にとどまった。
ユーザーの生活に「静かに浸透する」AIを目指す
両社が描く将来像について、ソン氏は「アンビエントAI」というコンセプトを提示した。これは、スマートフォンを中心にPC、ウェアラブルデバイス、IoT家電が有機的に連携し、ユーザーの生活に「静かに浸透する」AIを目指すものだ。
具体的には、ユーザーが明示的に指示しなくても、AIが状況を理解して必要な情報や機能を提供する世界を想定している。例えば、朝起きたときにその日の予定と天気に基づいた服装の提案、移動中の交通情報の自動通知、会議前の関連資料の自動準備などを挙げた。「AIがユーザーに反応するレベルを超えて、ユーザーが反応しなくても実生活の中に溶け込む」というのがソン氏の展望だ。
キム副社長も同様のビジョンを共有し、「スマートフォンは世界人口の71%が保有し、1日の使用時間は4.5時間に達する。この最も個人的なデバイスが、AI体験の中心的なハブとして機能し続ける」と強調。その上で、ウォッチ、リング、自動車、ロボットまで、あらゆるデバイスにAIが搭載され、統合的な体験を提供する未来を描いた。
ただし、その実現時期や具体的な製品展開については言及がなかった。技術的なブレークスルーや新機能の予告はなく、現状の延長線上にある改善にとどまった印象だ。サムスンは確かにモバイルAIで先行しているが、GoogleやAppleとの競争が激化する中、AIインタフェースの主導権をプラットフォーマーに握られれば、スマホメーカーは「土管化」するリスクがある。70%という高い利用率に安住することなく、ハードウェアメーカーならではの真の独自性を示す必要があるだろう。
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