コラム

「Pixel 10 Pro」がゲームに向かない理由 AI処理優先の弊害? 17万円台の最上位モデルに見合う性能が欲しい(2/2 ページ)

Googleのフラグシップスマートフォン「Pixel 10 Pro」は、AI機能やカメラ性能の高さが特徴だが、ゲームでは物足りない。高負荷のタイトルをプレイしてみたが、パフォーマンスの低下や発熱が目立った。その理由は、新型GPUに対する最適化不足にある。

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新型SoCとPowerVR GPUの採用が招いた構造的な課題

 なぜこれほどの性能低下が起こるのか。その理由は、一言で言えば新型GPUに対する最適化不足にある。

 どうやらTensor G5で採用したPowerVR GPUという選択が裏目に出ているようだ。Pixel 10シリーズのTensor G5は、従来のArm Mali系GPUに代わり、昨今のスマートフォン市場で採用例の少ないImagination PowerVR系GPUを新たに採用した。

 採用されているGPUは現行モデルの「PowerVR DXT48-1536」となっており、理論値性能はFP32の条件で約1.5TFLOPS(※Floating-point Operations Per Second=1秒間に行える処理能力、1.5TFLOPSは1.5兆回/秒)の性能を持つ。数値的には特別高いわけでもないが、8万円前後のミッドレンジスマホくらいの性能は持ち合わせている。

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PowerVR DXT48-1536の理論性能は1.5TFLOPSとしているものの、この性能を発揮できるクラスタ数や動作周波数は明示されていない。画像はメーカーサイトより

 このGPUはAI処理を優先したGoogle独自の設計思想に沿った選択と考えられるが、上記のようなゲームに向かない。その理由はおおむね以下の通りとなる。

 1つは、GPUドライバーの最適化不足だ。これにより、Googleもゲーム向けの最適化が間に合わず、描画負荷の高いシーンでフレームレートが急落したり、処理落ちしたりする。特にGPUの定格クロックが保守的な設定にされており、現時点ではパフォーマンスを引き出し切れていない。

 Pixelは長期的なソフトウェア更新で改善を重ねてきた実績があるが、現状の落差は単なる初期バグの域を超えており、短期間での劇的改善は見込めないだろう。

 参考までに測定したベンチマーク(Geekbench 6)ではシングルコア2283点、マルチコア4746点。一方でGPU性能を示すスコアは3069点とかなり低い結果だった。

 CPU性能はハイエンドには物足りないものの、シングルコア性能はある程度の水準を維持している。一方でGPU性能は最適化不足からか、2020年のハイエンドチップ「Snapdragon 865」などと同等の低い水準だった。

ベンチマーク結果はお世辞にも高いとはいえなかった

 もう1つが、コンテンツ側の対応の遅れだ。高負荷な3D表現を多用するゲームはUnityやUnreal Engineなど主要ゲームエンジンで開発されていることが多い。これらを用いて開発されているコンテンツがArm Mali系やQualcomm Adreno GPU前提で最適化されており、採用例の少ないPowerVR対応は後回しとなっている。

 そもそもハイエンドスマートフォンでPowerVR系のGPUが採用されるのは2016年のiPhone 7以来となる。近年は廉価帯で採用例がいくつか存在するものの、2020年代以降で10万円を超える価格帯のスマートフォンでの採用事例はない。アプリベンダー側も対応が後回しになるのは致し方ない。

 実際、いくつかのゲームでは「Pixel 10シリーズでは正常に動作しない」などのアナウンスが出ている。開発側も最適化に苦労しているものとみられている。

 要するに、新しいGPUの採用による不安定さ、コンテンツ側の最適化不足に加え、Google自身の調整不足という3つの要素が、Pixel 10シリーズのゲーム性能に大きな制約を与えてしまったと考える。


人気ゲーム「学園アイドルマスター」の提供元は、Pixel 10シリーズを名指しで「意図しない描画をする」と説明した。不具合ではなく「インフォメーション」で伝えるなど、ゲーム側の不具合ではなく、あくまでPixelが特殊な環境という主張だ

17万円スマホに求められる最低限の性能が欲しい

 Pixel 10 Proの価格は17万4900円から。これはiPhone 17 ProやGalaxy S25 UltraをはじめとするSnapdragon 8 Eliteを搭載するフラグシップと並ぶ。このラインは利用者が「あらゆる用途で妥協のない性能」を期待する水準だ。

 たとえGoogleがPixelをゲーミングに不向きなスマホとして打ち出していても、「ゲームが不向きでも最低限は動く」ことは高価格帯スマホの当然の責務である。

 しかし実測では、3Dゲームで5年前のハイエンドスマホ並みという結果。価格と体験の乖離(かいり)は明白で、2025年に17万円で販売されているスマホとは思えないほどパフォーマンスは低い。

 Googleには、発売時点から最低ラインをクリアするチューニングはもちろん、新GPU向けドライバーの迅速な最適化を確実に行った上で製品を出してほしい。ユーザーは端末に高額な代金を支払っている。「アップデートでいずれ改善するはず」ではなく、初期状態から安心して選べる完成度こそが求められている。

 Pixel 10 Proは、卓越したAI性能、高いカメラ性能、長期のOSアップデートという強みも備えている。しかしゲーム用途に限れば、17万円のハイエンドスマホとして最低限期待される水準を満たしていない。これは上位モデルのPixel 10 Pro XLやPixel 10 Pro Foldも同様だ。

 ハイエンドスマホに求められる「万能さ」とは、単にAI性能に優れ、きれいな写真が撮れるだけではない。ゲームでも、動画編集でも、日常におけるあらゆるシーンで安心して高い性能を発揮することを意味する。

 GoogleがPixelをiPhoneと並ぶプレミアムブランドとして定着させたいなら、ストアポイントの付与などでお得感を演出する前に、製品の完成度を追求すべきだ。

 独自のプロセッサを採用したことによるツケは“後でなんとかすればいい”というわけではない。海外ではHuaweiが独自SoCに採用するGPU「Maleoon」は当初多くのゲームやアプリでうまく動かないものがあったが、Huaweiとアプリベンダー双方で描画不良などの悪いユーザー体験を排除していった。同じようなことをGoogleも対応する必要があるように思う。

 現状のTensor G5とそれを採用するPixel 10シリーズは、ゲーム性能だけでなくブランドイメージの課題を鮮明に映し出したと評価したい。

著者プロフィール

佐藤颯

 生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。

 スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。

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