「いまだにSuica/PASMO使えない」駅へ行ったら、「問い合わせが多い……」と駅員さんも苦労していた事情(2/2 ページ)
つい先日、筆者はスマートウォッチ「Google Pixel Watch 4」に登録したモバイルSuicaを使用し、東京から地方へと向かった。そこで改札を通れない事態に陥る可能性があることを知った。想像もしていなかったこの事態、一体なぜか――?
ローカル線でICカードが使えない背景――2つの課題が存在
なぜ、これほどまでに普及した交通系ICカードが、ローカル線の主要駅でさえ利用できないという状況が続いているのだろうか。その背景には、主に技術的な制約とコストの問題という2つの大きな構造的課題が存在する。
交通系ICカードのシステムは、改札機での運賃計算をわずか0.15秒以内という極めて短時間で正確に処理するように設計されている。この速度と精度を担保するためには、サービス提供エリアを限定する必要がある。特に、ローカル鉄道では、改札を通らずに複数の路線や他社線に乗り入れる(エリアをまたぐ)ケースが頻繁に発生する。エリアを限定しない場合、運賃計算のパターンが飛躍的に複雑化し、数千万から数億という膨大なパターンが発生する可能性がある。
これは、現在の改札機器やシステムの処理能力、さらにはICカードのチップ内蔵メモリの容量を技術的に超えてしまう。結果として、システムを安定的に稼働させるため、意図的にエリアを限定せざるを得ないのが現状だ。会津田島駅のように、複数の会社をまたいだ接続区間では、その複雑性はさらに増すことになる。
もう1つの決定的な要因はコストだ。交通系ICカードを導入するには、改札機器の設置やシステム開発に巨額の初期投資が必要となる。さらに、システムの維持管理コストも高額であり、約7年ごとにはシステムの大規模な更新費用が発生する。乗客の少ないローカル線にとっては、運行経費の補填や既存施設の改修・更新といった他の優先事項に比べ、非常に重い負担となる。
国土交通省によると、交通系ICカードの導入が進まない課題は費用面にある。駅の改札機更新やICカードとの接続システム開発といった高額な導入費用に加え、利用回数に応じた手数料などの維持管理費用が継続的に発生し、事業者の重い負担となっている。特に維持管理費用は公的支援の対象外であることも指摘されている(出典:国土交通省「交通系ICカードの普及・利便性拡大に向けた検討会とりまとめ」資料)
費用対効果の観点でいえば、利用者の少ないローカル線では、多額の導入コストをかけても、利用者の増加や人件費削減といったメリットを享受しにくく、費用に見合う効果が得られないと判断されがちだ。そのため、多くの赤字を抱えるローカル鉄道では、ICカードによる利便性向上とシステムの導入・維持よりも、既存路線の維持に資金を充てることが優先される。
進化するスマートウォッチとは裏腹に、時計の針が止まったままのアナログ駅が存在
ローカル線鉄道でICカードが使えないのは、運賃計算の複雑さからシステム的にエリア限定が必要であることと、多額のシステム導入・維持コストに対して、利用者の少ないローカル線では費用対効果が見合わないことが、現在の主要な原因であるといえる。
筆者は事前に情報を得られたからこそ、トラブルを回避できた。しかし、多くの利用者が知らずにICカードで乗車し、現地で複雑な精算手続きに追われているようだ。東武鉄道も、公式に「野岩鉄道および会津鉄道方面までご利用の場合は、IC乗車券(PASMO等)はご利用できませんので、予めご利用される区間の乗車券をお求めください」と利用者に注意を呼びかけている。
東武鉄道は、FAQページで野岩鉄道および会津鉄道方面へはIC乗車券(PASMO等)が利用できないと注意喚起している。利用者は、予め該当区間の乗車券を別途購入する必要がある(出典:東武鉄道「よくあるお問い合わせ」のページ)
進化するスマートウォッチとデジタル進化の最前線とは裏腹に、まるで時計の針が止まったままのアナログ駅を象徴するかのようなローカル線がいまだに存在している現実をハッキリと見せつけられた。デバイスがいくらスマートになり、生活のあらゆる側面がデジタル化されても、日本の交通インフラの一部、特にローカル線においては、いまだにアナログな仕組みが維持され続けている。
首都圏在住者や、首都圏の広範な鉄道網を常日頃利用する人々にとって、「交通系ICカードが利用できない駅」の存在は、今や非常に珍しく感じるだろう。日常生活においてICカードはあまりにも当たり前の存在となったからこそ、今回のように日頃頻繁に訪れない場所、すなわちICカードが導入されていない地域の駅で、いつものように使おうとして困惑するという事態に陥る
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