インタビュー

KDDIが「未来のローソン」運営で得られた“気付き” なぜ同じビルに2店舗開店? スマホの役割は?(1/3 ページ)

KDDIが運営する未来コンビニ「Real×Tech LAWSON」が6月23日にオープン。KDDI社員が顧客であり、同時に自身が経営者でもあるという両方向からの視点で店舗運営にあたる。KDDIがローソンを通じてコンビニ経営に乗り出した背景と、現状でコンビニが抱えるビジネス上の課題を取材した。

 6月23日、現在JR東日本が中心になって再開発を進めている高輪ゲートウェイシティーに、未来コンビニ「Real×Tech LAWSON 第1号店」がオープンした。これは同エリアの複合ビル「THE LINKPILLAR1 NORTH」に本社を移転したKDDI自らが運営するコンビニで、傘下のLAWSONブランドを掲げて同ビルの6階に居を構える。

 リテールの世界で最新技術を取り入れつつ、JR東日本が高輪ゲートウェイで掲げるスマートシティー構想にのっとり、収集されたデータを店舗運営にフィードバックしたり、地域情報を発信したりしていく。こうした動きを実験的に行い、KDDI社員が顧客であり、同時に自身が経営者でもあるという両方向からの視点で店舗運営にあたる。


高輪ゲートウェイにオープンした「Real×Tech LAWSON 第1号店」

 翌7月からは東京の飯田橋にあった本社ならびに周辺に散っていたグループ各社の社員の高輪ゲートウェイ本社への移転がスタートし、それに合わせて17階に「ローソン S KDDI高輪本社店」という同じくKDDI運営の別のローソン店舗がオープンした。

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 6階にある店舗は誰でも利用が可能な公共エリアに位置しているのに対し、こちらの17階の店舗はKDDI社内にある関係でKDDI社員または関係者以外が利用できない。17階店舗の最大の特徴は「レジがまったくない」という点で、会計は全て利用者が手持ちのスマートフォンに導入したアプリから行う。関係者のみに開放されているということもあり、6階の店舗に比べより“とがった”仕組みが盛り込まれている点も特徴となる。

 今回は、KDDIが運営するローソン2店舗の企画開発を主導したKDDI事業創造本部 LXビジネス企画部 PFビジネスグループ グループリーダーの齊藤俊氏へのインタビューを軸に、KDDIがローソンを通じてコンビニ経営に乗り出した背景と、現状でコンビニが抱えるビジネス上の課題をまとめる。


6月23日に開催したReal×Tech LAWSONのオープニングセレモニーであいさつするローソン代表取締役社長の竹増貞信氏(左)とKDDI代表取締役社長CEOの松田弘路氏(右)

「通常コンビニ」と「社員専用コンビニ」を同じビルに開店した理由

 「KDDI自らがコンビニを運営する狙いとしては、お客さまの立場とスタッフの立場、両方の状態を実践できることに大きな価値があります」と齊藤氏は強調する。

齊藤氏 「自ら運営に入る理由は、より現場に即したコンビニの課題という部分の解像度をより上げていかないと、結局机上の空論の提案になったり、こうなればいいんじゃないかという空想的な話になったりしがちですが、実際に施策を打っていくところをやっていけるのが大きいんじゃないかと思います。

 日本は課題先進国という話がありますが、やはり現場を見ることで課題が浮き彫りになります。お客さまに限らず、さまざまな人が生活していく上で、訪問頻度が高い場所の1つにコンビニがあって、さまざまなシーンで活用されています。

 もともとお弁当や飲み物を買うといった物を買うだけの場所だったのが、いろいろなサービスを受けられる場所であったり、ATMで現金を下ろしたり、ちょっとした医療品を買ったり、本来は銀行やドラッグストアに行くべき場面でコンビニに頼った経験があると思います。そういった日常で使われる場所に目を向けることで、課題がより浮かび上がってくるのではないか……というのが1つの着眼点にあったと考えます」


KDDI事業創造本部 LXビジネス企画部 PFビジネスグループ グループリーダーの齊藤俊氏

 興味深いのは、前述のように公共空間にある通常のコンビニと、社員専用のコンビニの2店舗を同時にオープンさせたことだ。コンビニにまつわる課題といってもさまざまなものがあるが、わざわざ性質の違う2店舗を用意し、それぞれにどのような意味を持たせたのか。

齊藤氏 「6階は一般のお客さまも使われる店舗という点で、将来的には全国のコンビニ(ローソン)に展開できることを見越しながら、ある程度実用的なものを試していきます。実際に運営するなかで課題を見つけ、それに対する打ち手を全国に展開させていくことが狙いです。店員とお客さまの両方の視点からの課題が見えるわけですが、正直なところまだ運営期間が浅く、課題の洗い出しができているかというと、まだまだというのが現状です。まさに運営しながら“気付き”を得ることができるようになると考えています。

 一方の17階においては、オフィスワーカーに絞られるということで、意図的に狙って始めたところがあります。コンビニといっても全国各地で同じニーズなのか、都市部と地方で違うのではないか……立地によって違うというのは当然あるでしょう。オフィスワーカー特化型の店舗という特徴づけがされた店舗ですが、こちらはオープンして日が浅いながらすでに6階と異なる利用傾向がだいぶ見えてきており、その特徴をより生かしたものを作っていきたいなというのが今後の目標です。

 現状で見えている傾向としては、(レジなし店舗でスマートフォン必須という特性から)混乱を予想していたものの、さすがにKDDI社員なのでリテラシーが高く、『並ばなくていいのでストレスがなくなった』といった声を聞いています。少なくとも快適さは受け入れられたので、このスマートフォンの接点を生かして次のアイデアに取り掛かれればと思います」


KDDI本社内の17階にあるローソン店舗。完全レジレスでスマートフォンを通してのみ利用できる

社員IDとひも付ける構想も より個人に合ったレコメンドにも期待

 齊藤氏によれば、次のアイデアの1つとして「社員IDとのひも付け」を挙げており、例えばスマートフォンのアプリを通じて福利厚生を提供したり、従業員のヘルスケア情報をもとに食事傾向などからよりパーソナライズされた形でレコメンドを行ったりと、ある意味で社員だからこそ許される、より踏み込んだサービスを検討しているという。

 17階の店舗では専用のアプリが用意され、店舗に“チェックイン”することで買い物を開始できる。買い物は商品のバーコードをカメラでスキャンすることで登録を行い、最後にアプリ上でまとめてオンライン決済することで会計を済ませる。支払い方法としてはクレジットカードの他、au PAYが利用可能だ。

 アプリ上では前回の買い物履歴なども表示されており、例えば飲料やスナックなど毎日購入するような定番商品はわざわざバーコードをスキャンせずとも、アプリ上のアイコンをクリックするだけで登録が可能。その他にもクーポンや、前述のようなレコメンド機能も用意しているため、一種の買い物支援のような仕組みにもなっている。アプリ上に仕掛けを追加していくことで、前述の齊藤氏が言うようなアイデアを順次盛り込んでいけるというわけだ。


専用アプリが導入されたスマートフォンをチェックイン用のタグにかざすことで“入店”した状態となる

17階の店舗内には、このように入り口付近を中心に複数箇所にチェックイン用のタグが存在する

専用アプリのホーム画面。前回までの購買記録から定番商品はワンタップ購入が可能で、他にレコメンドや各種クーポンが表示されている

商品登録はカメラでバーコードを読み込む

レシートは電子レシートの形で用意される
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