KDDIが「未来のローソン」運営で得られた“気付き” なぜ同じビルに2店舗開店? スマホの役割は?(3/3 ページ)
KDDIが運営する未来コンビニ「Real×Tech LAWSON」が6月23日にオープン。KDDI社員が顧客であり、同時に自身が経営者でもあるという両方向からの視点で店舗運営にあたる。KDDIがローソンを通じてコンビニ経営に乗り出した背景と、現状でコンビニが抱えるビジネス上の課題を取材した。
見えてきた課題と全国展開の難しさ
このようにテック方面に注目が集まりがちな6階だが、その本筋は店舗運営を通じた課題解決だ。恐らく、現状でコンビニが抱える一番の課題は「人手不足」で、既に飽和状態と言われ店舗数拡大が過去10年ほどほぼ横ばい状態にある中でも、従業員確保は大きな問題だ。
例えば今回の17階は特殊な店舗で、お弁当等の生鮮品を扱うための制限として最低1人の常駐スタッフが求められるが、基本的にその1人のみで運営が可能だ。6階の店舗ではそうはいかず、複数のスタッフが常時稼働することになる。“テレイグジスタンス”のようなロボット導入はその解決策の1つで、もう1つは従業員の行動追跡による稼働状況の最適化がある。
6階ではお客の行動追跡はしないが、代わりに従業員の行動追跡でオペレーションの効率化を図っているというわけだ。ただ、これを全国展開しようと考えたときに2つの課題があり、1つは“テレイグジスタンス”のような仕組みに慣れるのに時間がかかること、そしてロボットを導入するコストそのものが高いという問題だ。またロボット自体が万能ではなく、例えば通常時は問題ないものの、朝のオープン前の陳列など限られた時間内でのピーク需要には対応できない。この点でロボットはまだ人間ほど柔軟性が高くなく、ピークタイムのために人手を要するというわけだ。
6階店舗はセルフレジが多数設置されている点も特徴で、客層を考えれば有人レジよりもこちらを選んでサクッと会計を済ませる利用者は多いだろう。なるべくセルフレジに誘導することが鍵とはなるが、アルコール製品やタバコを購入できない(一部店舗を除く)という不便さがセルフレジにはある。ビル内禁煙でオフィスビル内にアルコール需要がどれだけあるのか疑問な部分はあるが、コンビニの立地によっては死活問題で、これも技術や規制緩和で順次解決していかなければならない。
17階で導入されているアプリを使った“スマホレジ”の活用もあるだろう。一方で、スマホレジやセルフレジは“万引き”の温床になりやすいなどセキュリティ上の問題もあり、また客層によっては対面販売を好む傾向がある。齊藤氏は「QRコード決済が『いちいちアプリを開くのが面倒くさい』から『積極的に利用する』になったように、スマホレジにも何らかのインセンティブを設けるなど、恒常的に使われる仕組みが必要なのかもしれない」と述べており、6階で受け入れられたとして、これを全国に横展開していくにはまだまだ課題があると考えているようだ。
「よろず相談所」の利用者が増加 オフィスワーカーにニーズあり?
もう1つ、6階の店舗で特徴的なのが「よろず相談所」というコーナーだ。Pontaの愛らしいアイコンが目印のボックス型コーナーだが、通信、金融、ヘルスケアなどの日常の困りごと解決や、単純な行政手続きを越える何かが提供される窓口として設置したという。齊藤氏によれば、これはKDDIやローソンがこれを使って何か本格的なビジネスをしていくというよりも、コンビニそのものの利便性を高めるための仕掛けだという。
例えば、日中の17時までに役所に行かなければならないのに、地方だと物理的に拠点が遠かったりして、そうしたところでのニーズを考えたものだという。実際にオフィスに導入したところ、利用者が増加しており、「移動面で恵まれているオフィスワーカーこそがこの手のサービスを求めていたのでは?」と分析しているようだ。ただ、まだ箱こそあれど今後の展開が未知数の部分もあり、ビジネスとして成立していくかも含め手探り状態だと考えられる。
国内外のコンビニ店舗をテクノロジー視点から取材している筆者だが、コンビニは「コンビニ」という従来のビジネス形態にこだわっている部分が割と大きく、内部からなかなか変革できないジレンマに陥っているという印象がある。商品開発などで優秀な面こそあれど、テクノロジーを使っての店舗運営の効率化やデータによる可視化など実現できていない部分も大きい。また、思い切った店舗運営の変化も行えず、差し迫る人口減少や人手不足の問題に直面しつつある。
一方で、まだ一部ではあるが、KDDIの事例だけを見ても改善できる部分があることが分かる。KDDI×ローソンの取り組みが成功するようなら、今後業界全体を巻き込んで次の展開が期待できるかもしれない。非常に面白い動きだ。
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