NTT、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの宇宙戦略を解説 衛星や空飛ぶ基地局で「圏外」はどう消えるのか(2/2 ページ)
日本の通信網は地上から宇宙へと広がり、主要4キャリアが非地上系ネットワークの商用化を急速に進めている。2026年にはNTT、ソフトバンク、楽天が動きを見せ、山間部や離島をカバーする超広域接続が実現する。災害時の孤立を防ぐ「レジリエンス」を鍵に、本記事では国内4社の具体的な取り組みとその戦略を解説する。
ソフトバンク:HAPSとマルチ衛星によるユビキタスな移動体通信
ソフトバンクは、「Ubiquitous Transformation(ユビキタストランスフォーメーション)」という構想を掲げ、地上網とNTNをシームレスに統合することを目指している。その実現手段として、HAPSと複数の衛星サービスを組み合わせたハイブリッド戦略を推進している。ソフトバンクは、地上セルラーの圏外の手段として、このHAPSと衛星通信を組み合わせていく戦略を取る。
ソフトバンクは「ユビキタストランスフォーメーション」を掲げ、地上網と非地上系ネットワーク(NTN)の統合を推進。HAPSと複数の衛星を併用するハイブリッド戦略により、地上圏外を解消する通信環境の実現を目指す
戦略の柱となるのは、高度20kmの成層圏を飛ぶHAPSだ。2026年内に、米Sceye(スカイ)の気球型機体を活用したプレ商用サービスを開始する。HAPSは、直径200km程度の範囲をカバーできるため、離島の通信確保や、上空を飛ぶドローンへの通信提供に適している。特に注目されるのは災害時の活用だ。地上基地局がアクセス不能な場合でも、HAPSを上空へ派遣することで、迅速に通信サービスを復旧させる。さらに、機体にカメラを搭載して被災地を対空監視し、リアルタイムで画像を解析・提供するソリューションも構想している。
衛星通信においては、Starlink Businessに加え、日本では同社のみが扱う「Eutelsat OneWeb(ユーテルサットワンウェブ)」を併用するマルチ衛星戦略をとる。OneWebは、帯域確保が可能でセキュリティに優れた閉域接続を提供できる点が特徴だ。ソフトバンクはこのNTN網を、子会社化したCubicのプラットフォームを通じて「モビリティIoT」市場へとつなげようとしている。コネクテッドカーやトラック、農機・建機などが圏外を走行してもつながり続ける環境を構築し、将来的な自動運転の支援や車両のリモート監視における不可欠なインフラとしての地位を狙っている。
ソフトバンクはStarlink BusinessとOneWebを併用。子会社Cubicを通じ、建機や車両などの「モビリティIoT」市場へ展開。自動運転や遠隔監視を支える、圏外のない不可欠なインフラ構築を目指す
楽天モバイル:巨大アンテナとMNO主導で挑む面積カバー率100%
楽天モバイルは、米国の「AST SpaceMobile」(以下、AST)と提携し、「Rakuten最強衛星サービス」の提供準備を進めている。2026年第4四半期(10~12月)のサービス開始を目指すこのプロジェクトの最大の特徴は、宇宙空間にある衛星から、市販のスマートフォンに対して直接電波を届けることで、理論上の面積カバー率100%を達成しようとする点にある。
楽天モバイルは米ASTと提携し、2026年末に「Rakuten最強衛星サービス」を開始予定。衛星から市販スマホへ直接通信を行うことで、国内の面積カバー率100%実現を目指し、圏外の完全解消を推進する方針だ
技術的な優位性として強調されているのが、衛星のアンテナサイズだ。巨大なフェーズドアレイアンテナを採用しているため、「衛星からスマホに電波が直接届きやすい」そうだ。従来の衛星通信では、スマートフォンからの微弱な電波を受信するために専用の大型設備が必要だったが、ASTの商用衛星「BlueBird Block 2」は、アンテナ面積が223平方メートルというテニスコート一面分に匹敵する巨大アンテナを搭載する。これが、市販端末での直接通信を可能にする鍵となっている。2025年には、低軌道衛星と市販スマホによるビデオ通話に国内で初めて成功し、その実効性を証明した。
また、楽天モバイルは「MNO主導」の運用体制を自社の強みとしている。同社は、衛星と地上網を接続する「ゲートウェイ」までの地上設備を自ら管理・運用するため、災害時などの緊急事態において、特定の被災地域に通信帯域を集中させるといった柔軟な制御を迅速に行える。この制御は、MNOである楽天モバイル自身の判断で行えるため、被災地域に電波を集中させて通信帯域を増強するといった緊急対応を迅速に行える点を強みとしている。さらに、ゲートウェイを国内数カ所に分散設置し、衛星の高速移動に伴う周波数ズレを補正する機能を組み込むことで、高度な接続品質の維持を図っている。
四者四様のルートで目指す新しい公共の姿
国内4キャリアのNTN戦略を見渡すと、目指すべき災害レジリエンスの強化やカバレッジの拡大というゴールは共通しているものの、そこに至るアプローチは異なることが分かる。
NTTは、IOWN技術によるインフラの完全自前化と光通信へのシフトで、中長期的な技術覇権を狙う。KDDIは、Starlinkとの強力な連携による即時性の高いサービス展開で、実利的なエリア拡大を優先する。ソフトバンクは、HAPSと複数衛星を組み合わせたモビリティIoT市場への注力により、産業イノベーションを狙う。そして楽天モバイルは、巨大なアンテナ技術とMNOとしての柔軟な制御力を武器に、市販スマホでの完全カバレッジという理想の実現に挑んでいる。
2026年以降、日本の空と宇宙には、これらの異なる思想に基づいた通信網が重なり合うことになる。この新しい公共インフラが、いかにして私たちの生活の安全性と利便性を変えていくのか。各社の取り組みが社会に実装される段階へと移るにつれ、取り組みの恩恵を受けられる場面が増えるのかに注目したい。
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