清水寺の「5Gが入らない」をどう解決した? ソフトバンクが挑んだ景観保護とアンテナ設置の裏側
舞台からは見えてはいけないが、舞台は見通せなければならない。ソフトバンクが清水寺の境内に建てた基地局は、その相反する条件を満たす場所を探すところから始まった。8月19日に報道公開された現場で、通信をどう改善したのかを聞いた。
ソフトバンクは8月19日、京都・清水寺の境内に2026年2月に設置した新しい基地局を報道関係者向けに公開した。清水の舞台の周辺では、かつて通信速度が5M~10Mbps程度まで落ち込むこともあった。現在はSub6帯の5Gをつかめば100~200Mbpsが出る水準まで改善したという。
新設した基地局には、ピークシーズンに100台を超える端末が同時に接続する。接続数を記録する基地局のカウンターでは140台程度に達したこともあるが、それほど混み合った状態でもSub6帯をつかんだ端末は100Mbps程度の速度を保てるという。
そもそも清水寺の境内は音羽山の中腹にあり、市街地から続く坂を上った先に広がる。本堂は崖地に張り出す「懸造(かけづくり)」で、名所の清水の舞台は深い谷に面する。地形に遮られる舞台の周辺には、市街地側から電波を届けにくい。
新局の設置前は、坂の下側にある基地局から、遠くまで届きやすい700~900MHz帯のプラチナバンドを中心に電波を吹き上げる形でカバーしていた。この方法でも電波は届くが、舞台の周辺は電波の弱い「弱電界」になりやすく、通信容量も確保しにくい。利用データからも品質の悪化が確認できていたと同社は説明する。
トラフィックの増加はコロナ禍明けのインバウンド回復と重なる。空港や観光地で通信量が増え続けており、清水寺周辺の対策は同社にとって長年の懸案だった。
最大の難所は設置場所の選定だった
壁になったのは場所探しだ。この地形で舞台をしっかりカバーするには、舞台を直接見通せる位置と高さが要る一方で、舞台から見て景観を乱す存在になってもいけない。この相反する要求を満たす適地はなかなか見つからず、今回の場所は寺側との協議の末に固まった。近くに電気と光回線が既に通っていたことも後押しし、ソフトバンクに担当者は「願ったりかなったり」の場所だったと振り返る。
この場所の提案を清水寺側から受けたのは2025年10月で、工事は2026年2月。通常のリードタイムより大幅に短い日程だったが、寺側も工事を前向きに受け入れたという。着工前にはバルーンを12mまで上げ、舞台側からの見え方を写真で確認した。完成時の高さは14.9mで、確認した位置よりさらに約3m高くなると説明し、景観面で問題ないという合意を寺側から得た。
工事は人通りが途絶える夜間に限られ、期間は約1週間だった。搬入路が狭く10トントレーラーが通れないため、通常は1本もののコンクリート柱を2分割して運び込んだ。地中には埋設配管があり、傷つけないよう当初は手掘りで位置を確かめながら掘り進めた。真冬の深夜、近くの駐車場でライトをたきながら柱を積み替える作業が続いた。
高さ14.9m、アンテナ2本を横に並べる
完成した基地局はコンクリート柱型だ。柱から配管、機材カバーまで京都市指定の景観色のこげ茶に塗り、周囲の樹木に紛れるよう仕上げた。実際、筆者も清水の舞台から基地局を探してみたが、見つけられなかった。無線機そのものに塗装するのではなく、塗装済みのカバーをかぶせる方式のため、その分コストは上がる。
省スペース化の工夫もある。基地局に電力を引き込む受電盤は通常1.5m程度の板状になるが、メーカーの協力で小型の機器2つに分けて設置した。無線機の架台はソフトバンクのオリジナル品で、柱との間の空間にケーブル類を収納し、配線が目立たないようにした。
アンテナは2本で、通常の上下配置ではなく、特注の金具で同じ高さに並べた。樹木の遮蔽(しゃへい)を避けて舞台への見通しを確保するには、全ての周波数をできるだけ高い位置から吹く必要があるとエリア設計部門が判断したためだ。
搭載する周波数は900MHz、1.7GHz、2GHz帯と、Sub6帯の3.4GHz、3.5GHz、3.9GHz帯だ。今後は700MHz帯も追加する。ミリ波は搭載していないが、これは対応機種を持つ利用者が少ない上、樹木が多く距離もあるため届きにくいと判断したためだ。
Fast Access対応端末は上りで3倍超の差
公開に合わせて、Fast Accessの速度比較も実施した。Fast Accessは同社が2026年4月に発表し、6月に提供を始めたサービスで、対象料金プランの契約者の5G通信に他の5G通信より多くの電波帯域を割り当てる。利用には5G SA(スタンドアロン)方式に対応したSIMと端末が必要だ。今回の基地局に固有の機能ではなく全国の5Gエリアで共通に適用されるが、多数の端末が同時につながる清水寺のような観光地は、効果を体感しやすい場面といえる。
当日12時35分にソフトバンクが境内で測定した結果では、対応端末が下り445.0Mbps・上り78.2Mbpsを記録した。非対応端末は下り354.9Mbps・上り24.4Mbpsで、特に上りに3倍以上の差がついた。同社が普段の目安として挙げた100~200Mbpsを非対応機種でも上回っているように、速度そのものは人出や電波状況によって変動する。Fast Accessの効果も同様に変わるとソフトバンクは説明している。
土産物店が並ぶ参道は改善途上
舞台の周辺はカバーできた一方、土産物店が並ぶ参道側には改善の余地が残ると同社は認識している。理想は通りごとに電波を吹き付けるか、店舗内に小型基地局(スモールセル)を置く形だが、設置場所の確保が難しい。現在は基地局を増やせる場所の現地調査(サーベイ)を進めている段階で、実際に建てられるかどうかは未定だ。
場所探しの難しさは、清水寺周辺に限った話ではない。近隣では過去に、いったん建てた基地局を住民の景観への懸念で撤去した事例もあった。京都市は全域に景観条例を適用しており、市街地では工作物の高さや色、建物からの突き出しに細かい制約がある。ソフトバンクは2020年頃から「今の条例だとなかなか5Gの設備を置けませんよ」と京都市に直接相談を重ね、個別協議で許可を得ながら基地局を設置してきたという。
同社が重点エリアとして次に挙げたのは京都駅だ。景観条例はビルに対しても厳しく、屋上からの突き出しや壁面からの張り出しが制限される。施工会社と設計を工夫しながら、個別の協議を重ねて対策を進めるとしている。
(取材協力:ソフトバンク)
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