抜本的な革新──「SH505i」開発秘話(前編)

使い勝手のいいソフトを実現するためには、優秀な企画が素晴らしいユーザーインタフェースを考えるだけでなく、それを実現するソフトウェア開発力、ストレスなく動作させる高速で高機能なハードウェア設計が不可欠だ。抜本的なユーザーインタフェース設計を実現した背景には、シャープ開発陣の絶え間ない努力があった。

 携帯電話の使い勝手を大きく左右するのは、1つはユーザーインターフェース関係のソフトウェアの出来だ。どんな優れた高速で高機能なハードウェアを搭載しても、扱いやすいソフトがないと宝の持ち腐れである。

 ところが、いくら優れたインタフェースを考えても、変更点が多ければ多いほどソフトウェア開発の負担は高まる。「SH505i」は、優秀な企画とそれを実現するソフト・ハードが力を結集して作り上げた端末だ。

ベースから革新──統一感とダイレクト操作を重視したソフトウェア


商品企画部
伊藤謙一郎係長

 「なぜそこまで? とか言われながら。かなりカンカンガクガクの議論をしながらやっと作り上げたインタフェースです」──。

 「SH505i」の企画を担当した伊藤謙一郎氏(パーソナル通信第1事業部商品企画部 係長)は、開発の苦労をこう話す。「SH505i」では、従来からのインタフェースを一新した。

 「開発に着手してからほぼ1年くらいかかっている。基本的なところやキーとなるところは、ベースから設計し直して作り込んだ」と、ソフト開発を担当した石谷高志氏(パーソナル通信第1事業部ソフト開発部 係長)は当時を振り返る。

 使いやすいインタフェースの実現には、優秀な企画と、それを実現するソフトウェア部隊の両方の力が必要だ。ソフト開発の効率を重視した端末が多い中、負担が増えても刷新を図ったあたりに、SH505iへの力の入れようが見て取れる。

 “直感的に使えること。取扱説明書を見なくても使えること”。それが変更点の中心となる。決定キーを押すと現れるメニューを見ると、「あれ、設定項目が案外少ないな」と感じるだろう。メニューが分かりやすく階層化されていると、多機能であってもそう感じる。従来のインタフェースに新機能の項目を加えたのではなく、カメラ時代に合わせて作り直した「SH505i」の面目躍如の部分だ。

 メールボタンとアドレス帳ボタンは、ページ送りに割り当てられた。各種設定はメニューから選択式で行うだけでなく、ダイレクトキーがふんだんに用意されている。例えばカメラ起動時は、[1][2][3][4]キーで動画や文字読み取りなどモードが変更でき、[#]キーで撮影サイズを変えられる。


ソフト開発部
石谷高志係長

 「今回、カメラのダイレクトキーでのモード切り替えなど、“ダイレクト操作”をテーマとして取り組んでいます」(伊藤氏)

 最初はメニューを見てじっくりと。慣れてきたらダイレクトボタンで変更。初心者に不安を与えず、上級者も面倒でないインタフェースは、実は開発サイドではいやがられる。動作検証の際に、機能へ到達するパスの数は2乗、3乗で利いてくるからだ。

 携帯初──インクリメンタルサーチが可能なアドレス帳も、ソフトウェア開発部隊が頑張った部分だ。「ソフト的にはかなり苦労したところ。最後の最後まで商品企画部と交渉したんですが、これは譲れないということで、かなり工数をオーバーしながら実装した」(石谷氏)

快適な操作感を実現するハードウェア

 SH505iの凝ったソフトウェアを支えるのが、ハードウェアだ。多機能化に伴い、動作がモッサリした端末が多い中、SH505iのレスポンスの良さは抜群。このクイック感にはハードウェアの作り込みが利いている。


技術部
陣之内宏基主事

 「一新されたMPU(マイクロプロセッサユニット)では基本クロックが速くなり、さらに高速化するためにキャッシュメモリを追加したりJavaのアクセラレータを入れたことで、スピードが格段に速くなった。開発当初、『今よりももっと速くしてくれ!』と要求され、できる限り速くする形でチューニングした」と、SH505iのハードウェアを担当した陣之内宏基氏(パーソナル通信第一事業部 技術部主事)は話す。

また、新規デバイスとなった液晶系、カメラデバイス、メモリ系において高機能かつ速度的にも快適な動作をさせるため、MPUは新規開発の大きなテーマとなった。約1年間の開発工数をかけてチューニングを行い、かなりのレベルまで仕上げられている。

 しかし高速になったMPUの動作周波数は、ノイズという形で携帯電話の無線部分に影響を与える。MPU速度と無線周波数が近くなってきているためだ。「ヒンジに入っている中継フレキからの輻射ノイズを抑えたり、キー側の基板から液晶側の基板上の液晶モジュールやカメラにアクセスする信号の高周波輻射を抑え、無線特性を良くした」(陣之内氏)といった工夫がSH505iでも取られた。

 高速な動作の実現にはソフトウェア部隊も工夫した。「ユーザーの操作を受け付けるタスクと、実際に仕事をするタスクを分けて、ユーザーの操作はとにかく素早く受け取る仕組みにしている。カメラでXGA画像を撮影すると、すごく重いJPEG圧縮処理は裏の圧縮に専念するタスクに行わせて、表側はいつでもユーザーの操作を受けられるようになっている」(石谷氏)