クアルコムが日本の携帯電話市場で果たしてきた役割とは──山田純社長に聞く(前編):日本でのCDMAサービス開始10周年(2/2 ページ)
米QUALCOMMを中心に実用化を果たしたCDMA技術を採用する通信方式、cdmaOneが日本市場に導入されて10年。日本が世界有数の携帯先進国にまで発展した影には、QUALCOMMとクアルコム ジャパンの全力のサポートがあった。
苦難の末に採用にこぎつけたCDMA2000 1x
1998年にcdmaOne(米国電気通信工業会/TIAではIS-95として標準化)のネットワークを立ち上げて以来、すでに10年が経過するが、QUALCOMMにとっては「決して、平坦な道のりではなかった」(山田氏)という。
特に1999年ごろには、日本において、第3世代携帯電話のシステムをどの方式にするかという議論が巻き起こっていた。当時、NTTドコモなどは自社で率先して開発していたW-CDMA方式に決定済み。一方、合併を控えていた現在のKDDIも、W-CDMA方式への決定に傾こうとしているという報道がなされた。
QUALCOMMとしては、cdmaOneの発展型である、CDMA2000 1xを推進したい立場にあったが、W-CDMA方式は国を挙げて推進する技術となり、W-CDMA一色とも言える状況で導入が進められようとしていた。QUALCOMMおよびクアルコム ジャパンは追い詰められることとなる。市場は「W-CDMA vs.CDMA2000 1x」という一大戦争のような状況だった。
「CDMA2000 1xは、cdmaOneと親和性が高く、下位互換性を持ちながらアップグレードが可能です。ユーザーの利便性から照らし合わせて物事を考え、すでに設備投資をされたcdmaOneのネットワークを無駄にすることなく、それと互換性があり、より高機能なCDMA200 1xの導入をしたらいかがですか、というメッセージは、KDDIのトップマネジメントを含め、なんとかご理解いただけました。しかし、そこまでに行くには、相当な苦労がありました」(山田氏)
ただ、単純に互換性があり、経済合理性がいいというだけでは、CDMA2000 1xの導入は決まらなかっただろうと山田氏は話す。QUALCOMM側は、CDMA2000 1xが、将来性が高いことを合わせて証明しなくてはならなかった。
「経済合理性に加え、最後の決め手となったのが、CDMA2000 1x EV-DOの存在でした。EV-DOは、すでにその時点でQUALCOMMとしては開発ができていました。CDMA2000 1xのあとには、すぐに1x EV-DOというデータ伝送性能がきわめて高い技術方式があり、それがパッケージでついてくるという技術的なアドバンテージを提示できたことが導入決定の決め手になったと思います」(山田氏)
1999年といえば、時代はまだまだ音声通話とテキストや小さな画像がトラフィックの中心だった。しかし、音声通話の次は必ずや大容量のデータ通信時代が到来すると予想されていた。CDMA2000 1xの導入を進めるには、そのデータ通信を支えるために「どういった技術で効率的なネットワークを構築していくか」を提案しなくてはならなかった。当時のQUALCOMMは、幸いにも半歩先、一歩先を考えた技術開発ができていた。
単純に互換性があり、設備投資効率がいいだけなく、EV-DOのデモをきちんとKDDIに見せられたことで、KDDIは最終判断として、CDMA2000 1xの導入に踏み切った。
パケット通信の定額制を可能にしたCDMA2000 1x EV-DO
KDDIは、CDMA2000 1xを導入したのち、CDMA2000 1x EV-DOを利用したCDMA 1X WINへとサービスを発展させていく。2003年にWINのサービスを開始した際に、業界で初となるパケット通信料の定額制「EZフラット」を月額4200円でスタートさせたことは記憶に新しい。KDDIが他社に先駆けてパケット定額制を導入できたのは、EV-DOの技術的なアドバンテージがあったからにほかならない。
EV-DOはパケット通信に特化した技術で、常に基地局の配下にある多くのユーザーに公平にパケットを配信するようにできている。
“公平”というのは、例えば誰かがPCに3Gモデムをつないで大量にデータ通信をしていた場合でも、同じ基地局エリアで新たに携帯電話でEZwebを使いたいというリクエストが発生した場合には、いままで使っていなかったユーザーのパケットの優先順位を上げて、必ず通信ができるようにしていることを指す。その際、今までデータ通信で大量にパケット通信を使っていたユーザーは、優先順位を下げて少し待ってもらうことになる。EV-DOは、このような交通整理ができる仕組みを備えており、通信の公平性を保つことができる。
実際にデータ通信をしているユーザーは、何も意識することなくネットワークにアクセスできるのだが、この“公平性”をは通信事業者からするときわめて重要だ。サービスを提供する際、大容量のデータ通信を行う誰か1人が、基地局のキャパシティを使い果たしてしまったら、ほかのユーザーが通信できなくなってしまう。そんな状況では、当然ながら定額制は提供できない。
「EV-DOは、トラフィックをきちんと処理するようにつくっていることをずっと説明してきました。KDDIはその裏付けを元に、定額制を導入してもネットワークがパンクせずにユーザーを満足させられると理解してくれたのだと思います」(山田氏)
KDDIはパケット定額制を導入したことで、着うたやその後の着うたフルなど、音楽系サービスを他社よりも先駆けて投入することができ、「au=音楽」という企業イメージをユーザーに認識させることができた。その後定額制は「ダブル定額」と名を変えて、使用量に応じた2段階定額制になり、7割以上のユーザーが契約する人気サービスとなっている。
実は、このようなトラフィック処理の技術を持っていたのは、当時はEV-DOだけであり、W-CDMAには搭載されていなかった。W-CDMAに同じような仕組みが導入されたのは、HSDPAになってからのことだ。
日本でHSDPAが導入されたのは2006年のこと。つまり、すぐれたパケット制御システムを持つEV-DOは、他の通信方式よりも3年近く先を行っていたことになるのだ。こうした先を行く技術開発を常に行っている点がQUALCOMMの強みとなっている。
このように、日本の携帯電話市場を強力にサポートしてきたのがQUALCOMMとクアルコム ジャパンだ。後編では、そのQUALCOMMが今後どのようなビジョンを持って日本の携帯電話市場にコミットしていくかを聞いていく。
※6月25日付けで山田純氏は、クアルコム ジャパン 代表取締役会長に就任しました。
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提供:クアルコムジャパン株式会社
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