ソフトバンクは本当に好調なのか、イー・モバイル、ウィルコムの今後は:2008年の通信業界を振り返る(2)(3/3 ページ)
2008年も1月から11月まで連続で純増1位を続けたソフトバンクモバイル。11月に100万契約を突破したイー・モバイル。そしてWILLCOM COREの立ち上げを前に苦戦するウィルコム。それぞれの強みと弱みが交錯した2008年を、前回に引き続きジャーナリストの石川温氏と神尾寿氏に語ってもらった。
ウィルコムは一日も早くWILLCOM COREを立ち上げてほしい
ITmedia ウィルコムについては、今年は大きなニュースがあまりなく、我慢の1年だったように思えます。2009年のWILLCOM CORE開始を前に、つらい時期でしたね。
石川 ウィルコムはDDIポケット時代に300万契約を切っていたこともあるので、それを考えると今は1.5倍程度のユーザーが居るわけですよ。まだまだへこたれませんよ(笑)
神尾 まるで「氷河期世代は不況に慣れている」みたいな負け惜しみっぽいですね(笑)
石川 「ウィルコムミーティング」みたいな、PHSの音質だからこそしゃべれるといったようなサービスも始まっていますし、通話に特化して頑張るといった部分は他キャリアにはできないところだと思います。実際HONEY BEEも家電量販店では最も売れている端末と言われているくらいなので、そう考えると底力はあるのかなと。
神尾 それを底力と言って良いのかは分かりませんが、しぶといなと思います。確かに氷河期世代のようなしぶとさがある。
しかしウィルコムは、PHSの分をわきまえないといけないと思います。というと、語弊がありますが、やはりPHSは非常に古い技術なんですよ。サービス開始は1995年ですからね。PDCなど、当時の携帯電話キャリアが用いていた通信方式は、もはや市場にほとんど存在しないわけですよ。そう考えると、PHSはものすごい長老な訳で、第一線で競争するには無理がある。ですから、とにかくWILLCOM COREを頑張ってほしい一方で、現行PHSの競争のベクトルは変えていかなければならないと思います。スマートフォンだとかデータ通信では明らかに不利なのですから。
私は、端末としての「WILLCOM 03」は魅力的だと思うのです。だからこそ、あれにイーモバイルやドコモのHSDPAを入れたいと思う。これは本音ですよ。あの端末を、高速な3Gインフラで使いたいのです。
石川 そのあたりが、先日報道されたドコモのMVNOなのかもしれないですね。
神尾 私はウィルコムのマーケティングのセンスは評価していますし、その時々で、いいポジションが取れる強さを持っていると見ています。音声定額だってウィルコムが先にやったわけですし、スマートフォンの流れだってウィルコムが作ったのだから、そこはきちんとモバイル産業の歴史として評価されるべきだと思います。ただ今の彼らは、もう持っているカードが古過ぎてしまっていて武器がない状態です。それなりの戦いしかできないことをもっと自覚すべきだと思うのです。
HONEY BEEはもっとラインアップを作っていいと思いますし、売れるかどうかは分からないですが、かつてドコモが開発した腕時計型PHS「Wristomo」のような音声専用の小さな端末を作ったっていい。FRISKのケースくらいの大きさのPHS端末が出て、バッテリーの持ちがよく連続で100時間以上通話できたら、ケータイのバッテリーが切れたときの緊急用で持ってもいいかなとか思うんですよ。
石川 いろいろなアイデアがあると思うんですよ、今のウィルコムには。アイデアがあって、PHSの分もわきまえていて、こんな商品もあるだろう、あんな商品もあるだろうと。例えばキングジムの「ポメラ」みたいな端末にW-SIMが付くといいですね、といったようなアイデアもあると思うんですが、恐らくそれを商品化できない大きな壁があるんじゃないかという気はしますね。はたから見ていると。
神尾 PHSの技術的な寿命の壁は大きいですよ。正直、今から現行のW-SIMに投資しようというメーカーはほとんどないでしょう。PHSは、もう終わりなのが分かっているわけですから。W-SIMのコンセプトが、ちょっと遅かったという気がしないでもないですね。あれが2000年頃に登場していたら、とても広がりが持てたでしょう。
正直なところウィルコムは、もうPHSに投資するなとまで言いたい。まずはWILLCOM COREに全力投球する。その上で、ビジネスは続けなければいけないのだから、現行PHSでは音声定額を中心に今のユーザーを守りつつ、低消費電力・低価格が生かせる別のビジネスにアプローチしてほしい。例えば、本田技研工業や日産自動車向けに提供しているウィルコムのテレマティクス用データ通信サービスは、通信速度が遅くても料金が安いという優位性をうまく生かしています。ああいう形での新ビジネスへの挑戦は、とてウィルコムらしくていいと思いますね。
石川 やはり「WILLCOM D4」でPHSを使うっていうのが苦しい訳ですよ。でもポメラにW-SIMは合うと思います。ポメラの需要っていうのは必ずあるし、恐らくテキストベースの世界というのはまだまだあるだろうから、そう考えるとあれにW-SIMが載っていればどれだけいいかと思いました。多分飛びついたユーザーも居たと思いますし。PHSだから、あの大きさだから、あの省電力性だからできる何かっていうのは、まだまだあるんじゃないかという気がします。
神尾 音質に関してはウィルコムもハーフレートを採用するなど、特別いいとは言えなくなってきているものの、消費電力が少ないというのは今でもPHSの有利なポイントなので、そこはアリだと思うんですよね。アイディア次第でまだ勝負はできます。
石川 三洋電機の「eneloop」で使えるというW-SIMの音声端末のプロトタイプがありましたよね。イメージモックのようなものが。ウィルコムは結構コンセプトモデルみたいなものに面白いものがあるのだけど、商品化されないんですよね。そういうところがもったいないと思います。
神尾 海外から来た人にすると、案外ウィルコムの通信速度でも速かったりするので、使い捨てじゃないですが、海外ユーザー向けにポンと渡して使ってもらえるようなデータ通信端末を作るのもアリじゃないかと思っています。だから百度との協業で始めたレンタルサービスなどは評価できます。電話機型だけではなくて、各地の観光振興用の端末を作ってもいいと思うし、やり方はいくらでもあると思うんです。
ウィルコムの欠点は、もうPHSでは無理なのに、スマートフォンやWILLCOM D4のように、ハイエンドな領域で勝負しようとしていること。そこではもう競争できないんですよ、通信技術の点でPHSの限界だから。それはPHSの技術が優秀で、長続きしたからこそ、すでに勝負できない領域になったのです。
ウィルコムはPHSという技術をとても大切に守り育て、そしてうまく活用して、多様な新サービスや新ビジネスの種をまいた。だからこそ、次のインフラ一新に賭けてほしいし、そこでまたウィルコムのセンスのよさを見せてほしい。
石川 音声定額を導入して、その成功体験にすがってしまったのかもしれませんね。そのしっぺ返しが大きな痛手となって今があるのかなという気がします。
神尾 成功体験もあるのでしょうが、それ以上に、ウィルコムにとってPHSというのは特別な技術なんでしょうね。しかし、技術はどうしても見限らなければいけない時期というのはあるんです。ほかの大手キャリアはもっと早くから古い技術を見限って切り捨ててきているわけです。それが時代の流れですから。
これからは、どれだけ早くWILLCOM COREのネットワークを作れるかが勝負です。また総務省は不本意のようですが、ウィルコムがドコモのMVNOになるというのは、選択肢としてはいいと私は思っています。PHS規格を長く使いすぎてしまった関係上、少なくともWILLCOM COREが立ち上がるまでは苦しい立場だから、ドコモのHSDPA網を期限付きで貸し出す特例があってもいいんじゃないでしょうか。その上でウィルコムが新しいサービスを作るのであれば、ユーザーのメリットにもなるし業界の活性化にもなるわけです。ウィルコムがこれまで新サービス/新ビジネスの創造で果たしてきた貢献を鑑みれば、そういった支援はあってもいいのではないかと思います。
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