提案力を回復しはじめたau──2009年春モデルに見るKDDIの戦略:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
“ユーザーのライフスタイルに合わせる”スタンスから“新たな価値やライフスタイルの提案”へ──。KDDIが発表したau 2009年春モデルからは、ドコモとは違うアプローチで未来に臨むという“攻め”の姿勢に転じる覚悟が感じられた。
独自コンテンツ/サービスは堅調
ここからはコンテンツ/サービス分野も見てみよう。
KDDI独自のサービス/コンテンツは昨年の不調期でも「auらしさ」を下支えしていたが、今回の春商戦向けで新たな機能やサービスを追加。auのオリジナリティや優位性を支える存在として発展している。
auの看板サービスである「EZナビウォーク」は、ユーザーの裾野を広げるためにUIを刷新。新たに追加された「シンプルモード」は従来のメニューよりも大幅にUIが簡素化されており、女性やシルバー層など幅広いユーザーに訴求できそうだ。EZナビウォークの利用者数は現在550万人であるが、今回のUI刷新でさらに成長できるだろう。
もう1つ今期の新サービスで注目したのが、携帯カメラで撮影した写真を使ってオリジナルの動画が作れる「MYスライドビデオ」である。これは写真データと音楽付きテンプレートをサーバで合成するというもので、撮影した写真の新たな利用方法としてユニークだ。MYスライドビデオは今回発表された春商戦モデルはもちろん、LISMO Video対応機種であれば発売済みモデルにもさかのぼって対応するため、当初から対応端末が多いのも特長だろう。
そして今回の発表会の中で筆者が強く関心を抱いたのが、近接無線伝送技術「TransferJet」の試作デモンストレーションである。TransferJetは携帯電話をはじめとするデジタル機器間で、“かざす”ことで高速大容量通信を実現する技術。2008年にソニーが中心となってコンソーシアムが作られ、そこにKDDIも参加している。利用形態はおサイフケータイに実装されているFeliCaに似ているが、「認証・決済」分野に最適化されたFeliCaに対して、TransferJetは高速データ伝送に最適化されている。両者はかざすという非接触通信において補完関係にあると言える。
TransferJetはすでに発表済みの技術であり、コンソーシアムにはNTTドコモも参加している。しかし、今回KDDIが「auとして」ドコモに先駆けて、かなり具体的なTransferJetのデモンストレーションを行ったのは興味深い。会場内で話したあるKDDI関係者は「(おサイフケータイの)モバイルFeliCaではドコモに主導権を握られてしまったので……」と苦笑いしたが、先進的で将来有望な技術にいち早く着目し、それを具体的なアプリケーションとして参考出展する姿勢にもKDDIの変化を感じた。TransferJetは携帯電話の“次の10年”のトレンドであるリアル連携分野で大きな可能性を秘めている技術だ。ドコモとKDDIが切磋琢磨し、また時には連携しながら、育てていってほしいと思う。
「主張するNo.2」が市場を活性化する
2009年の春商戦を見据えると、携帯電話の学校持ち込み規制に端を発した「子どものケータイ利用」に対する逆風、景況悪化による端末買い控え、さらに2008年後半から問題化している新販売モデルでの投げ売りの悪影響など、市場全体の雲行きは芳しくない。しかしそのような中で、KDDIが未来に対する挑戦的な姿勢を取り戻し、auらしい独自性が回復する傾向が見えてきたのは明るい兆しと言えるだろう。硬直化した市場を活性化し、日本のモバイルビジネスやサービスを進歩させるには、独自の提案力を持つ「主張するNo.2」の存在が不可欠である。
2009年の春商戦が、auの失速と不振が「底打ち」するタイミングになるか。また、今年1年をかけて、KDDIが目先の数字にとらわれずにドコモとは異なる提案をしていけるか。期待をもって見守りたい。
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