Apple Watchで感じた心地よさと物足りなさ――待たれる“キラーアプリ”の登場(1/2 ページ)
「スマートウォッチは物足りない」と感じていた筆者がApple Watchを使ってみた。購入したのは「Apple Watch Sport」だ。なぜこのモデルを選んだのか? そして改めてApple Watchを使ってみて感じたことは?
「最もパーソナルなデバイスであり、Appleのエコシステムに加わる最も新しく、革新的な製品」――。このように紹介されたApple Watchが発売されてから、約1カ月が経とうとしている。改めて説明する必要はないかもしれないが、Apple Watchは、iPhoneと連動する、いわゆるスマートウォッチだ。形状は腕時計に近く、iPhone側で受けた通知がBluetoothで連携して、腕元に表示される。
“スマート”というだけに、iPhone同様、アプリケーションをインストールして、さまざまな機能を追加できる。常に腕に巻いておけるため、iPhoneのようなスマートフォンよりもチェックする機会が多く、通知に対しても即座に反応しやすい。また、腕時計はファッションアイテムとして、使う人の個性を表すものだ。AppleがApple Watchを「最もパーソナルなデバイス」と称している理由も、ここにある。
物足りないと感じていたスマートウォッチに、Apple Watchで再挑戦
とはいえ、スマートウォッチ自体は過去にも存在した。代表的なプラットフォームが、Androidを採用した「Android Wear」だろう。エコシステムの作り方もスマートフォンのAndroidに近く、このOSを使ったデバイスはサムスン電子、LGエレクトロニクス、ソニーモバイル、モトローラ、ASUSから発売されている。これに対して、Apple WatchはOSからハードウェアまでもAppleが垂直統合的に手掛けるスマートウォッチとなる。この点は、スマートフォンでのiPhoneとAndroidの違いに近い。
黎明(れいめい)期ながら、スマートウォッチはほかにもある。サムスン電子は自社が主導して開発するTizenを採用した「Gear S」などを販売している。大手メーカーだけでなく、いわゆるスタートアップもこの分野には積極的だ。日本では発売されていないが、米国では「Pebble」の存在感も小さくない。アプリはインストールできないが、活動量計を組み込んでスマートフォンと連携するWithingsの「Activite」も、スマートウォッチの一種と見ていいだろう。
筆者も、こうしたスマートウォッチの数々に一度は魅力を感じ、その都度手を出してきたうちの1人だ。フィーチャーフォン時代は海外に渡ってLGエレクトロニクス製の端末と連携する「Prada Watch」を買ったり、ソニーがAndroid Wearを採用する以前の「LiveView」や「SmartWatch2」にも手を出している。サムスンが「GALAXY Gear」を出したときも、わざわざ「GALAXY Note 3」とセットで購入したほどだ。Android Wearは円形のディスプレイに引かれて、「G Watch R」を購入している。
そんな筆者は、当初Apple Watchにはやや消極的だった。いや、むしろスマートウォッチ全体に対して、あまりポジティブではなかったと言えるかもしれない。大きな理由は、スマートウォッチのフォームファクターに限界を感じていたから。本格的にアプリを使おうと思うと画面の大きなスマートフォンの方が便利だし、そもそも腕に装着しているため、操作で両手がふさがれてしまう。電車の中でつり革につかまっているときは、スマートフォンの方が素早く情報を確認できることすらある。
また、時計として見ると、やはり中途半端な感は否めない。多くのデバイスには、腕を上げるとディスプレイが表示される仕組みが取り入れられており、歩きながらサッと時間を確認する分には問題ない。一方で、上と同じシチュエーション、つまりつり革につかまりながら時刻を見ようとした場合、手首のスナップがわずかになってしまい画面は真っ暗なままだ。
本物の時計なら、このようなアクションは一切不要で時間を確認することができる。液晶や有機ELのディスプレイでアナログの時計の盤面を模しているのも、なんだかニセモノくさい。そんな理由もあり、これまでスマートウォッチを買うたびに飽き、すぐにいつもの時計に戻ってしまっていた。Apple Watchも、これらのスマートウォッチと同じになるなら買う必要はないかもしれない……一時はそう思っていた。
基本的には常にディスプレイが消えており、手首をひねってディスプレイを自分に対して正面に向けると時計が表示される。そのため、省電力なのだが、やはり時間は確認しにくい。ただし、画面が点灯するまでの時間が短く、手首の動きに対する反応も非常にいい
だが、やはり新しいものは買って試してみたい。Apple Watchは種類も豊富で、3つのバージョンに、38ミリと42ミリという2つのケースサイズ、それにさまざまな手法で作られたバンドを組み合わせることができ、日々の服装や用途に合ったものを選択できる。これなら、すぐに飽きることはないかもしれないし、選択肢が多いと選ぶこと自体が楽しい。すっかりAppleの戦略にハマり、4月28日に38ミリのApple Watch Sportを購入してしまった。
質感の高さはさすがApple、肝心の機能は……?
幸いなことに、購入に先駆け、Appleが開催したプレス向けのイベントでApple Watchを試着することができた。まず感じたのは、やはり質感の高さだ。アルミケース、ステンレススチールケース、ローズゴールドケース、イエローゴールドケースはどれも高級感があり、従来のスマートウォッチとは一線を画す出来栄えだ。金属素材を使ったスマートウォッチはほかにもあるが、精巧さや精緻さといったものが一段高い印象を受ける。これは、ミラネーゼループのバンドや、リングブレスレットにも感じたことだ。ハードウェアとしての出来栄えは、まさに“本物志向”だ。
それなら、「お前はなぜラバー(フルオロエラストマー製)のSportを選んだのか」という疑問を持たれるかもしれない。ここには、Apple Watchでも超えられなかったスマートウォッチの壁がある。先に述べたように、スマートウォッチは、その特性上どうしてもディスプレイを持たなければならない。一部例外はあるが、アプリをインストールできる多機能なものになれば、ディスプレイは必須の要素だ。外観がいくら高級とはいえ、ディスプレイはディスプレイ。ここにアナログを模した針を表示すると、比較対象が本物の時計になってしまい、立体感がない点がチープに見えてしまう。であれば、思い切ってポップなデジタル時計として持った方がいい。これが、Sportを選んだ理由だ。
38ミリをチョイスしたのは、42ミリだとやや手首につけた時の収まりが悪かったため。これは純粋に美観で決定している。画面が小さくなる分、42ミリよりも操作がしづらいかと思ったが、Appleから借りている42ミリと比べても大きな差はなかったため、この選択は間違いではなかったと感じている。
もう1つの理由が、価格だ。いくら高級志向のApple Watchとはいえ、デジタル機器であることに変わりはない。将来の予定は明言されていないが、iPhoneのようにモデルチェンジが控えていることは間違いないだろう。ディスプレイ、バッテリー、チップセットなどの技術革新がある以上、デジタルデバイスはどうしてもモデルチェンジからは逃れられない。ずっと同じモデルを売り続けるという選択肢もあるにはあるが、ライバルが存在している以上、それも難しいだろう。
高級時計に高いお金を払えるのは、長い間使い続けられるから。数百万円もする機械式時計は文字通り親から子へと受け継がれることもあるし、実際、20万円近くした普段している機械式時計も、すでに10年近く腕の定位置を占めている。セコイ話だが、20万円の時計でも1年に換算すれば2万円だ。
そう考えると、スマートフォンのようなサイクルでモデルチェンジしかねないApple Watchに10万円近いお金を払うのはためらわれる。中身だけを最新に載せ替えるプログラムがあればよかったが、残念ながら現状ではそうした発表はされていない。しかも機能は200万円を超えるApple Watch Editionも、5万円を切るApple Watch Sportも同じだ。一言でまとめると、見かけがデジタル機器然としていることに加え、(ほかに比べれば)コストパフォーマンスがいいことも、38ミリのApple Watch Sportを選んだ理由だ。
では、肝心のスマートウォッチとしての使い勝手はどうか。端的にいうと、機能についは、これまでのスマートウォッチの域を大きく超えているわけではない。通知が取得できるのはほかのスマートウォッチでも同じだし、活動量計のような機能もある。一気に数が増えたのはAppleの製品ならではで目を見張るが、そもそも先に述べているように、アプリを使うならスマートフォンの方が手っ取り早い。電話ができ、丸々1日使ってもバッテリーが切れないのも便利な点ではあるが、Apple Watchの独自性とはいいづらい。アプリの一部は「グランス」として、画面を上にフリックして表示でき、ここには必要な情報だけがまとまっている。とはいえ、これも結局は画面を見るために両手がふさがってしまう。設定している数が増えると、その分フリックが必要になり、必要な情報にたどり着くまでの手数が増えてしまう。
ところが、だ。Apple Watchは実際に使ってみると、心地よいと感じることが多い。上記の“できること”は文字にすると同じに見えてしまうが、そこに対するアプローチが異なっている。代表的なのが、手首をトンとたたかれるようなバイブレーション。これは、「Taptic Engine」によって実現したものだ。Taptic Engineとは「Haptic Feedback」を生み出すリニアアクチュエーターのこと。他社のスマートフォンの一部や、Appleの「Macbook」にも同様の技術が採用されており、触覚的なフィードバックをもたらせる部品である。これによって、ブルブルと震えるスマートウォッチよりも、心地よく通知が届いているのを知ることができる。通知はiPhoneの画面が点灯しているときは、「iPhoneを操作している」とみなしてApple Watch側には表示されない。この点は、きちんとユースケースが考えられていると感心した部分だ。
毎日の活動量を知らせる、アクティビティもよくできた機能だ。歩数や活動量を計測し、それをグラフにまとめてくれるところまではほかのスマートウォッチと同じだが、達成度に応じてバッジを取得できるゲーム的な要素も兼ね備えている。また、座りっぱなしを防止して健康を維持するため、1時間に1分立っていることを促す「スタンド」という機能にも、ついつい頼ってしまう。筆者は原稿を書くときは集中して机に向かうが、没頭しすぎて数時間座りっぱなしというもままある。そうした時に、スタンドで立つことを促されると、ちょっとした気分転換になって作業効率もよくなる気がする。
アプリのUI(ユーザーインタフェース)も、気持ちよく動く。Apple Watchには、「デジタルクラウン」と呼ばれる時計の竜頭を模したボタンがあり、ここがホームボタン兼拡大・縮小ダイヤルとなっている。時計が表示されているとき、1回ボタンを押すとアプリ一覧になり、さらにデジタルクラウンをクルクルと回すと、アイコンが拡大・縮小される。デジタルクラウンのクルクル回す操作は、アプリによってはスクロールでも利用できる。時計サイズに収めるため、チップセットの処理能力はそこまで高くないと思われるが、引っ掛かりも少なく滑らかだ。デジタルクラウンを回転させる操作感もきちんと計算されており、押し心地がいい。
もっとも、現時点で「これは便利で使い続けたい」と思えるキラーアプリはまだほとんど見つかっていない。標準の天気予報や、次の電車の発車時間をグランスで教えてくれる「Yahoo!乗換案内」は比較的重宝しているが、これらのアプリの情報はApple Watchがなければないで、スマートフォンで確認できるもの。その点では、iPhoneにできない何かができるツールというより、iPhoneをポケットやバッグから取り出す回数を減らすことができるデバイスといえるだろう。
また、Android Wearは基本的にAndroid端末としかつながらないし、サムスンのGearもGALAXYシリーズとの連携が前提。サードパーティ製のスマートウォッチでここまでのエコシステムを備えたものはほぼない。現状ではApple WatchがiPhoneユーザーの最良な選択肢の1つであることは事実だ。
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