「ZenFone AR」で“革命”を起こせるか? 課題はコンテンツとGoogle連携:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
GoogleのAR技術「Tango」とVR(仮想現実)プラットフォーム「Daydream」に対応した「ZenFone AR」が日本で登場。イノベーター層に向けたという本機を投入する狙いは? 日本でヒットするために必要なこととは?
イノベーター層に向けたZenFoneシリーズの最上位モデル
ASUSは、2014年ごろから、SIMロックフリースマートフォンの市場に本腰を入れて取り組んできた。MVNOが徐々に認知され始めた一方で、まだSIMロックフリースマートフォンの選択肢が少なかった2014年10月に、ミッドレンジの「ZenFone 5」を発表。手ごろな価格や使い勝手のよさなどのコストパフォーマンスが評価され、ヒットにつながった。ここから風向きが徐々に変わり、SIMロックフリースマートフォンのシェアも上がっていく。
その後、ASUSは「ZenFone 2」や「ZenFone 3」などのフラグシップモデルだけでなく、エントリー向けの端末である「ZenFone Go」や、セルフィー(自撮り)に強い「ZenFone Selfie」、大容量バッテリーを搭載した「ZenFone Max」など、派生モデルの数々も日本で発売した。同一のペットネームで、スペックが異なるモデルもあり、現在市場に出回っているモデルだけでも、フルラインアップといえるほどバリエーションが豊富だ。
ZenFone ARは、その最上位に位置付けられる「デジタル新時代をリードするイノベーターで、ZenFoneの革命児」(マーケティング部長、シンシア・テン氏)。いわゆるイノベーター層を狙った商品で、価格もメモリを8GB搭載したバージョンは10万円に迫る。確かにスペックが非常に高く、先に挙げたプロセッサやメモリ以外でも、キャリアアグリゲーション、DSDS対応、ハイレゾ&DTS対応など特筆すべき点は多く、この点を考えれば妥当な価格といえる。
SIMロックフリースマートフォンの売れ筋が3万円前後であることを考えると、非常に強気な価格設定にも見えるが、ZenFone ARはミッドレンジモデルのように幅広いユーザーを狙った製品ではない。むしろ、確実なニーズのあるところを、ピンポイントで狙っている商品といえるだろう。「法人からの引き合いも非常に強い」(テン氏)というように、B2B2Cでの活用も視野に入っているようだ。
実際、ASUSの発表会では、最後に法人や開発者の問い合わせ窓口が示され、「ご連絡をお待ちしている」(テン氏)との呼びかけもあった。「製品だけでなく、アプリケーマートの協業で、ZenFone ARの可能性をどんどん開拓していきたい」(同)というのがASUSの方針だ。サムスンの「Gear VR」が、GalaxyとともにB2B2Cの形で利用されている事例も合わせて考えると、これは理にかなった戦略といえる。夏に発表される製品を4月に発表したのも、その間にアプリを充実させ、ビジネスにつなげたいという考えがあったからだろう。
ASUSがハイエンドモデルや派生モデルを次々と投入できるのは、SIMロックフリースマートフォンの市場が拡大しているからだ。2016年から、各メーカーとも、高価格帯のモデルに挑戦しており、特にHuaweiは「P9」や「Mate 9」で一定の成果を残している。ローエンドやミッドレンジまでが中心だった市場が徐々に拡大し、ハイエンドモデルが受け入れられる余地が生まれてきたというわけだ。
これに対し、ASUSはハイエンドでは「ZenFone 3 Deluxe」を展開しているものの、ミッドレンジより上の価格帯では、やや存在感が薄かった印象もある。ボリュームゾーンとしてミッドレンジを拡大する意義は大きいものの、ハイエンドモデルでシリーズの持つ世界観や技術力をアピールし、ブランド力をつけなければ、低価格帯のモデルも先細りになってしまう。ZenFone ARを日本で投入した意義は、ここにもありそうだ。
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