「すごい発見」だった発熱対策、OSバージョンアップの秘策 「AQUOS R」の裏側:開発陣に聞く「AQUOS R」(後編)(1/2 ページ)
シャープの「AQUOS R」が発売された。インタビュー後編では発熱対策、OSバージョンアップ、ロボクルについて聞く。発熱対策では「すごい発見」があったという。
シャープの新しいフラグシップスマートフォン「AQUOS R」のインタビュー前編では、Rのコンセプト、デザイン、ディスプレイ、カメラについてお話を聞いた。後編では発熱対策、OSバージョンアップ、ロボクルについて聞く。
「すごい発見」を経て完成した発熱対策
パフォーマンスの改善で注目したいのが「発熱対策」だ。AQUOS Rでは、従来のスマートフォンAQUOSよりも、発熱しにくい作りになっている。何を変えたのか。
まず、熱の広がりを抑えるために、内部にアルミニウム合金とグラファイトシートを採用した。さらに、伝熱層の間に空気層を置いて、一番熱くなる部分に熱が拡散しないよう工夫した。これによって熱を1点に集中させず、「全体がふんわり熱くなる」(IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部長の小林繁氏)。
下記の図は、1時間〜2時間ほどYouTubeの動画を再生した状態での内部温度を、過去機種(2016年夏モデル)と比較したもの。表面温度は過去機種が41度だったが、AQUOS Rは36.1度で5度低かった。「5度というのは、温度の世界では劇的に違います。全く違うと言っても過言ではありません」(小林氏)
もう1つが温度センサーの位置だ。例えばスマートフォンのカメラで長時間の動画を撮影すると、「端末の温度が上がったのでカメラを終了します」といったメッセージが出て強制的にカメラが終了した、また端末が熱くなるとパフォーマンスが落ちた……という経験がある人は多いだろう。これは内部の温度センサーが、「表面温度が高くなっている」と判断したためだ。
しかし温度センサーは内部に搭載されており、外部との温度差があるため、実は正確に温度を測定できない。そのため、「もう少しパフォーマンスを出す余地があるのに、パフォーマンスを落としに行く」(小林氏)という事態になってしまう。本体の表面に温度センサーを置けるのがベストたが、現実的ではない。
しかしシャープは、表面温度に限りなく近いポイントを基板上に見つけた。具体的には、右上のサイドキー近くにそのポイントがあったという。「すごい発見だった」と小林氏。内部のセンサーが、表面の温度をより正確に計測できるようになったので、余地を残した状態でパフォーマンスを下げる必要がなくなったわけだ。
OSバージョンアップはAndroid One開発のノウハウも生きている
AQUOS Rは、「2年間のOSバージョンアップを保証する」とシャープが宣言したことでも話題を集めた。
「(OSバージョンアップは)最初に言わないと意味がありません。これまでは、くじ引きのように、本当にバージョンアップするかどうか分からない状態の中で、お客さんは機種を選ばれているので。シャープとしてはやる覚悟でいます」と小林氏は力強く語る。
しかしAndroidはiPhoneのように何年もOSをバージョンアップできる機種は少なく、寿命が短い。2年間のバージョンアップは、Androidの中では長い方だが、どのように保証するのだろうか。
IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 第一ソフト開発部 技師の佐々尾直樹氏は、「OSバージョンアップをするにも、2年先のことはよく分からないので、設計から0ベースで見直して大きくソフトウェアの構造を変えました」と説明する。
その際、シャープがY!mobile向けに開発した「Android One」対応スマートフォン(507SH、S1、X1)で積んできた経験が生きたという。ただ、「設計変更だけでは2年のバージョンアップは難しい」と佐々尾氏。「現行OSと新しいOSのモデルを並行して開発しないといけませんが、湯水のようにリソースがあるわけではありません。いかにソフトウェアの可用性を上げるか。つまりプラットフォーム間をまたいでソースコードを共用するかがポイントです」(同氏)
具体的には、OSバージョンに依存しないように、シャープがカスタマイズする場所を分けたという。「OSが変わっても、カスタマイズした場所が影響されにくいソフトウェア構造に変更することで、比較的簡単にバージョンアップできます」(佐々尾氏)
それでも2年先のOSを予測するのは難しいようにも思えるが、「Googleのカンファレンスやディベロッパープレビューなどを見て、だいたいの傾向をつかんで設計しています」と佐々尾氏。
また、OSバージョンアップをするには、一定のストレージとメモリが必要になるなど、ハードウェアに依存する部分もある。「Androidは、OSが上がるほどシステムサイズが肥大化しています。OSバージョンアップをしたくても、サイズがあふれてできないことが以前はあったので、ファイルサイズを小さくする検討もしてきました」(佐々尾氏)
メーカーが着々と準備をしても、キャリアが販売するスマートフォンのOSバージョンアップを決定するのはキャリアだ。例えばキャリアのサービスやアプリが新しいOSに対応しないため、OSバージョンアップを中止するという“ちゃぶ台返し”をしないとも限らないが……。
小林氏は「一般論として言えば、OSが変わるとエコシステムが変わるので、サービスも追従すべきだと思っています。あとはタイミングの問題です。そういう考え方で(Googleやキャリアと)協業させてもらっています」と話す。「Googleさんとのやりとりも、Android Oneを通してしっかりできているので、そこに関しての心配はほぼないと思っていただいていい」(小林氏)というだけに、キャリアも歩調を合わせてくれると願いたい。
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