“メッセージング”が重要な決済インフラに 「RCS」もカギを握る:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(3/3 ページ)
海外では、SMSやMMSがいまだ広く利用されている。これらが近い将来、オンラインコマースや決済の中心になりつつある。やがてはスマートフォンで花開いた“アプリ”文化も飲み込み、B2Cの世界を大きく変えることになるだろう。
対話インタフェースにも変化が求められる
RCSなどのメッセージングのインタフェースを使った顧客の対話が今後盛んになると考えられる一方で、より顧客満足度の高いサービスの提供に各社は頭を悩ませることになるだろう。対話インタフェースは汎用性が高いが、目的の情報にたどり着くまでのステップが長すぎたり、思ったような指示ができなかったりすることで、かえってユーザーのストレスを高める結果につながりかねないからだ。
前者は電話の自動応答サービスや昔のガラケー時代のサービスを想像してもらうと分かりやすいが、メニュー構造が深すぎて、目的の情報にたどり着くまでに時間がかかってイライラした経験のある人も多いだろう。モバイルアプリはこうしたストレスを軽減する形で進化を続け、洗練されてきた歴史がある。対話インタフェースもまた、流入人口の増加とともに変化を遂げていく必要がある。
以前、PC USERの連載で「2018年、ユーザーインタフェースに真の革新が始まるか」というコラムを書いたが、スマートスピーカー登場の裏側で対話インタフェースの比重が増え、その鍵を握るのが「先読みするAI」だと考察した。
ユーザーのストレスを軽減するには、ユーザーが出すメッセージに最小限のステップで適切な情報を返し、時に先回りする形で適時必要な情報を提供するスタイルが重要になるというものだ。例えばレストランの常連であれば定番のメニューはあるだろうし、衣服にはそれぞれの好みがあるだろう。
冒頭のFindMineが好例だが、レコメンデーション・エンジンの重要性がより高くなる。項目選択では、選ぶべき項目が最初に表示されるほどストレスがないはずだ。またVirgin Trainsの事例のように、発車時刻が近づいた列車の運行状況を適時プッシュ配信する仕組みも重要だ。キャンペーンを告知するプロモーション配信も、タイミングや加減を間違えなければユーザーにとってありがたいものだ。
対話インタフェースとAIの組み合わせで最近興味深いと感じたのが、KasistoがシンガポールのDBS Bankなどに向けて開発したオンラインバンキングサービスで、「KAI」というAIを通じて銀行との取引が可能となる。残高照会を「How much money do I have?(いまいくら持っている?)」という文章で確認できるが、これに対してKAIは「さらに詳細を確認しますか?」という形で次のアクションを聞いてくる。
この他にも「Uberの利用履歴をリストアップして」「友人の○○に△ドルを送金」「ローンを借りたいが、お勧めのプランはある?」といった具合で、会話のみでオンラインバンキングが利用可能だ。もちろん、スマートフォンの標準機能として音声入力を使っても問題ない。
KAIのような仕組みの場合、実態はクラウド上に存在するので、ユーザーとの接点となる出口は何でも構わないし、個々にモバイルアプリを作り込む必要もない。メッセージングの場合はテキストまたは音声で入力することになるが、これをスマートスピーカーに適用すれば、音声通話のみでオンラインバンキングが可能になるだろう。この他、接客ロボットにKAIを導入して店員やコンシェルジュの代わりをさせることもできる。
シンガポールにあるMastercard Labでは「Mastercard Cafe」という仮想店舗を用意し、Pepperに対話インタフェースでの注文から決済までを行われるデモをさまざまな場所で披露している。ユーザーはMasterPassというウォレットサービスに支払い情報を登録しておけば、Bluetooth通信を通じて自動的に本人が認識されたうえで会話のみでオンライン決済が行われるという仕組みだ。この他、Pepperをコンシェルジュとして旅行手配を対話インタフェースで行うデモなどもあり、応用範囲はさらに広いといえるだろう。
AIの進化が「人間の雇用を奪う」?
こうしたAIの進化は「人間の雇用を奪う」という意味で警戒されることも多いが、それは必ずしも正ではないというのが筆者の意見だ。例えばロボットコンシェルジュ導入に積極的な日本の地銀の場合、その理由は「そもそも人手不足」であり、人切りを前提とした話ではないと聞いている。また、Kasisto KAIのようにAI型アシスタント「Erica」を紹介したBank of Americaの場合、その導入の狙いの1つは「より人手を必要とする場所への配置転換」にあるとしている。
例えば従来の銀行業務において、大行列をさばく窓口スタッフは重要な位置を占めていたが、現在では高度化したATMの登場により、行列はごく珍しいものとなりつつある。将来的にはATMをモバイルバンキングへと移行することで、窓口となる支店やATMの数そのものを削減し、スタッフをセールスやサポートなどより利益を生み出す部署へと配置転換していくという。
この銀行業界におけるAIの導入や配置展開の動きは、小売業界にも遠からず波及してくる。恐らく最初のターゲットとなるのはレジなどのチェックアウトに関わる部分や、棚卸しといったバックエンド業務で、「機械ではかえってコストがかかる」という場所に人員を配置していくことになるだろう。
典型的なものがAmazon Goで、日本の普通のコンビニ程度の広さの店舗にはレジやチェックアウト処理にまつわる人員がいない一方で、調理や商品補充、呼び込みといった業務に合わせて20人近い人員が配置されており、単純な人削減を目標とした店舗ではないことが分かる。対話インタフェースを通じた小売サービスはまた、「商品を大量に並べてお客を待つ」という従来のスタイルを大きく変える可能性を秘めており、新しい店舗形態を作るきっかけになるかもしれない。
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