5Gの人口カバー率は2023年に20% エリクソンが予測する5G時代のトレンド
商用サービスの開始が迫っている「5G」。トップバッターとして、米国が2018年後半から2019年後半に5Gサービスの開始を予定している。5G時代にはどんなトレンドが起こるのか? エリクソン・ジャパンが説明した。
エリクソン・ジャパンが7月10日、間もなく商用サービスが開始する「5G」を中心として、世界のモバイルネットワークの最新トレンドを説明した。
米国が2018年後半に5Gサービスを開始
5Gが最も早く開始するのは米国で、2018年後半から2019年半ばの開始を予定している。日本は2019年〜2020年に商用サービスを開始する予定で、韓国や中国とともに初期ローンチの市場に位置付けられる。2023年末には、5Gサービスの加入者数は10億を超え、モバイル契約の全体で12%を占めるとエリクソンは予測している。
2019年後半に5Gスマホが登場
対応デバイスについては、まず2018年に5G対応のモバイルWi-Fiルーターが登場するとエリクソンは予測しており、データ通信専用サービスからになる。また2019年後半には、固定回線向けの5Gルーターも登場する見込み。
エリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏は、5G対応のスマートフォンは2019年後半に登場すると予測。「チップセットの開発状況に依存するが、今年(2018年)末から来年(2019年)にかけて、どんどん端末が出てくる」と同氏は話す。まずは6GHz帯以下の中帯域に対応したスマートフォンが登場し、その後、高帯域に対応したスマートフォンが登場する見込み。
5Gスマホは既存のLTEもサポートするわけだが、「これを実現するには、より効率的な技術、コンポーネント、プロセスが求められる」(エリクソン)としている。初期段階では、3GPPに準拠した第1世代の5Gチップセットが使われ、2020年に第3世代チップセットが導入されてからは、より多くの5Gデバイスが出回るとエリクソンは予測する。
高周波数帯をどう活用するかが課題
5Gで使う周波数帯は、日本では3.6GHz〜6GHz、28GHzが見込まれている。ちなみに韓国では2018年6月に5G周波数帯として、3.5GHzと28GHzの割り当てがオークションで決まった。その中で藤岡氏が「面白い話」として紹介したのが、落札価格が3.5GHz帯が1MHzあたり973万ドルだったのに対し、28GHz帯は24万ドルと約40倍もの差があったこと。
28GHzなどの高い周波数帯は電波の直進性が高く減衰しやすいため、相対的に価値が低いと判断されたのだろう。高周波数帯の弱点を解消するため、特定方向に電波を集中させる「ビームフォーミング」の技術も開発されている。藤岡氏は高周波数帯について「端末の開発も進んでいる。これからの検討課題だと思っているが、技術的にはモバイルでも使えることを示している」との考えを示した。
5GではVoLTE通話がメインに
LTEネットワーク上で高品質な通話が可能な「VoLTE」の契約数は、2017年時点で6億1300万に上り、日本を含むアジア太平洋の比率が最も高い。VoLTEの契約数も右肩上がりで伸びており、2023年には54億に達すると予測する。「(モバイル契約者全体の)4分の3ぐらいがVoLTEを使っているだろう」(藤岡氏)
5G時代では動画の視聴がさらに増える
地域ごとモバイル方式は、大きな差が見られる。2017年のデータを見ると、北米と、日本を含む北東アジアは70%以上がLTEだが、次にLTE比率が高いのは47%の西欧で、他は高くない。インドに至っては、60%がいまだに2GのGSM/EDGEのみで占められている。これが2023年になると、大きく様変わりするとエリクソンは予測。北米ではモバイル契約の48%が5Gとなり、北東アジアも34%が5G契約になるという。5G開始当初は、北米と北東アジアが市場をけん引していくことになりそうだ。ちなみにインドは2023年に78%がLTE契約になると見込んでいる。
モバイルトラフィックは、2017年から2023年にかけて8倍に増加するとエリクソンはみている。また、2023年には全トラフィックの20%が5Gになるという。アプリ(用途)ごとのトラフィックの割合は、2017年は動画が56%で最も多いが、この動画は2023年に73%まで増えると予測している。LTEや5Gの導入が増えることで、動画の解像度が大きくなることが要因の1つとみている。またYouTubeの360度動画は、同じ解像度の動画より4〜5倍の帯域幅が必要になるという。
スマートフォン1台あたりのデータ通信量は北米が最も多く、2017年末には7.2GBに達し、2023年末には49GBまで増えると見込んでいる。地域ごとのモバイルデータトラフィックの総量は、人口が最も多い北東アジアが最も多く、2017年の4EB(エクサバイト)から2023年は25EBに増える見込み。
セルラーIoTも活発に
5Gと並行して、電力メーターや機器メンテナンスなど、高速通信を必要としない場面で使われるセルラーIoTの契約数も伸びている。セルラーIoTデバイスの数は年間約30%ずつ増えており、2023年には5億に達する見込み。特に中国での利用が活発だという。「LPWA(Low Power Wide Area)」と総称される通信方式は、LTEネットワークを活用した「NB-IoT」と「Cat-M1」を52キャリアが採用している。国内ではKDDIがNB-IoT、ソフトバンクがNB-IoTとCat-M1の両方を使ってサービスを提供している。
倉庫の管理や物流ルートの最適化など、工場の現場でも5GやLPWAが活用される。藤岡氏はその一例として、ドイツで実施している「BLISK(Bladed Disk:ディスクと刃が一体化して回転して、空気を圧縮するジェットエンジン部品)」の製造工程で5Gを活用している事例を紹介。金属の塊からBLISKを切り出すのは数十時間を要する複雑な作業で歩留まりも悪いが、金属板に振動センサーと3.5GHz帯の5Gモジュールを埋め込んだことで即座に異変を検知し、歩留まりやコストも改善されたという。これは5Gの低遅延という特徴を生かした事例といえる。
藤岡氏は「2018年は移動通信業界の転換期」と言う。2023年には、モバイルデータのトラフィックのうち20%が5Gを使用すると予測。さらに、5Gの人口カバー率は2023年に20%になると見込んでいる。
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