“格安SIM市場”でトップを走るY!mobile データ増量はMVNOの脅威に:石野純也のMobile Eye(1/2 ページ)
Y!mobileが、9月1日から各料金プランのデータ容量を改定する。合わせて、「データ容量2倍キャンペーン」は「データ増量キャンペーン」となり、増量された新容量の半分が追加される。MVNOに与える影響も大きそうだ。
Y!mobileが、9月1日から各料金プランのデータ容量を改定する。合わせて、「データ容量2倍キャンペーン」は「データ増量キャンペーン」となり、増量された新容量の半分が追加される格好となった。Y!mobileはソフトバンクのサブブランドだが、MVNOと同じ“格安SIM”と見なされることも多く、市場への影響力も大きい。今回の連載では、プラン改定のインパクトを読み解いていきたい。
スマホプランSでもデータ容量は3GBに、使い勝手がアップした新料金プラン
これまで、Y!mobileの料金プランは主に3つあった。1つ目がデータ容量1GBの「スマホプランS」、2つ目が同3GBの「スマホプランM」、3つ目が同7GBの「スマホプランL」だ。新規契約や機種変更をすると、データ容量2倍キャンペーンが適用され、2年間これらが2倍になっていた。厳密には容量がそのまま2倍になるわけではなく、もともとの容量を使い切ったあと500MBずつ追加する形になっているため、低速状態を解除する手間はかかるが、ほぼ2倍相当といえる。
この容量が、9月1日から増量される。まず、もともとの料金プランにひもづいていた容量自体を、それぞれ倍増させる。2倍に増量後の容量は、スマホプランSが2GB、スマホプランMが6GB、スマホプランLが14GBになる。さらに新規契約や機種変更を対象とした「データ増量キャンペーン」により、各容量の半分が2年間、追加のデータ容量として付与される。合計すると、スマホプランSが3GB、スマホプランMが9GB、スマホプランLが21GBになる。
容量の少ないスマホプランSは1GB増にとどまるが、大元の容量が大きなスマホプランMやLでは、倍増が効いてくる。スマホプランLに至っては、大手キャリアの大容量プランとほぼ変わらない容量だ。もちろん価格は据え置き。スマホプランSは2980円(税別、以下同)、スマホプランMは3980円、スマホプランLは5980円と非常に分かりやすい。1年間限定で1000円の割引も受けられる他、光回線とのセット割りも受けられる。
容量を倍増させた背景には、ユーザーの利用するデータ量が年々増えている現状がある。ソフトバンクでY!mobile事業を率いる常務執行役員 ワイモバイル事業推進本部 本部長の寺尾洋幸氏によると、Y!mobileがスタートした4年前と比べ、利用量は1.7倍にも増加しているという。逆にいえば、もともとのデータ容量を毎月きっちり使い切っていた人は、容量が足りなくなってしまっているわけだ。
増量したデータ容量は、キャンペーンを考慮しないと2倍。キャンペーンまで含めて考えると1.5倍になり、データ容量の増加には完全に追い付いていないが、少々節約すれば追加でデータ容量を購入したり、上位のプランに変更したりする必要がなくなる。寺尾氏が「既存のユーザーにも、容量アップである程度還元できる」と語っていた通り、新規・既存問わずに適用されるのも評価できる。
データ容量を既存ユーザーまで一律で上げた背景には、“攻め”と同時、“守り”を重視しなければならないY!mobileの懐事情も関係している。順風満帆に見えるY!mobileだが、解約者数も成長とともに拡大している。ソフトバンクグループの代表取締役社長兼CEOの孫正義氏が決算説明で示した「スマホ純増数」を見ると、ソフトバンクとY!mobileの合算では順調に数字が伸びている一方で、全体に占めるY!mobileの比率は徐々に低下している。
寺尾氏は「ストックが増えるとそのぶん解約者も増える」と理由を説明するが、裏を返せば、ユーザーを引き止められれば、より純増数を上げることもできる。「獲得そのものが落ち込んでいるわけではない」(同)からだ。この成果がどこまで出るのかは、今後も注目しておきたいポイントだ。
ソフトバンクやLINEモバイルとの差別化には課題も
ただ、全体的に容量を上げたことで、上位ブランドであるソフトバンクとの差が見えづらくなっているのも事実だ。特にスマホプランLは、キャンペーンでの増量を含めると合計21GBとなり、ソフトバンクの20GBプランである「ギガモンスター」に匹敵する。ソフトバンクで「スマ放題ライト」に20GBのデータ定額を加えた場合の料金は8000円と、Y!mobileよりも割高だ。Y!mobileと同条件にするため、テザリングを加えると8500円になる。
ソフトバンクはさらに容量が多い、50GBのウルトラギガモンスターを推してはいるものの、それ以外ではY!mobileの方がお得なことになる。もちろん、メインブランドのソフトバンクなら、最新のiPhoneや、ハイスペックなAndroidを月月割や半額サポートでリーズナブルに持てるという利点もあるが、Y!mobileにもSIMロックフリーの端末を買う選択肢がある。
寺尾氏は「大容量や最新のiPhoneを買うならソフトバンク、低容量で安くというのであればY!mobileと、お客さまがすみ分けている」と語っていたが、容量の増加によって、両ブランドの垣根がなくなりつつあるようにも見える。ブランドを使い分けるためには、ソフトバンク側でも、何らかの料金プラン改定が必要になりそうだ。
最低容量のスマホプランLが2GB、キャンペーン込みで3GBになったことで、LINEモバイルへの影響も出てくる可能性がある。LINEモバイルで3GBの「コミュニケーションフリープラン」は、10分間の音声通話定額を含めると2570円。Y!mobileのスマホプランSと、大きな差がなくなっている。1年目に関しては1000円引きが効き、Y!mobileがLINEモバイルの料金を下回る。また、MVNOではないY!mobileは直接、ソフトバンク回線を提供しているため、接続帯域不足による速度低下は起こらない。
LINEモバイルのソフトバンク回線で今後提供されるカウントフリーをどう考えるかにもよるが、この価格差であれば、速度が安定していたり、店舗網が充実していたりする“安心感”を重視して、Y!mobileを選ぶ人も多いだろう。寺尾氏は「同じグループなので、難しいところだがお互いに切磋琢磨(せっさたくま)していければいい」と語っていたが、サブブランドのすみ分けという意味では、LINEモバイル側の料金改定も必要になってくるかもしれない。
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