PayPay中山社長インタビュー 「100億円祭り」と「クレカ不正利用問題」が残したもの:モバイル決済の裏側を聞く(2/3 ページ)
「100億円あげちゃうキャンペーン」が大きなインパクトを残した「PayPay」。わずか10日間でキャンペーンが終了したかと思ったら、クレジットカードの不正利用問題も勃発。キャンペーン終了直後に、PayPay中山社長にお話を聞く機会を得た。PayPayはどこに向かうのか?
最大のライバルは「現金」
PayPayのサービスインと前後する形で、目下最大のライバルとされる「LINE Pay」は、中国Tencentの提供するWeChat Pay(微信支付)との提携で、中国からのインバウンド客が日本でLINEの加盟店を通じてWeChat PayのQR/コード決済サービスを利用できる仕組みを提供することを発表した。
一方のPayPayはサービスイン当初から中国Ant FinancialのAlipay(支付宝)との連携を表明しており、PayPayの加盟店は中国のインバウンド客もAlipayを通じて受け入れることが可能という点をセールスポイントにしている。LINEの親会社である韓国NaverのNaver Pay、そしてAlipayと連携する韓国Kakao Payと合わせ、東アジアだけで「PayPay+Alipay+Kakao Pay vs. LINE Pay+WeChat Pay+Naver Pay」という対立構図ができたことが話題になった。
だが中山氏は「そうしたことは全然意識しておらず、LINEがライバルとも思わない」と述べる。これは勝負にならないという話ではなく、そもそも日本におけるモバイル決済の市場自体が非常に小さいもので、そうした狭い市場の中で御山の大将を争っても意味がなく、むしろ市場そのものを広げることが重要という認識から来るものだ。
「そういった意味で、最大のライバルは“現金”。この現金だけの世界を切り開いていくために、(LINEらと)一緒にやっていきたいと思います」と同氏は述べる。具体的にどうするのか。
「現金は利便性が高いから、皆が使うわけです。でも現金だってなくすわけですが、PayPayではしっかり電子的に管理して、なくなることはない。それだけでうれしいことですし、現金の“ジャラジャラ”だってない。お店にはレジ締め業務があるわけですが、いずれキャッシュレスになるとレジ締め業務からは解放されます。その時間で新しいサービスを作る方が絶対にいい。こういう世界を一緒に作っていきたいと考えているのです。(現金の壁を越えるのは)難しいですし、まずは使える場所が増えないといけない。全国で使えるようにして、現金より利便性があることを知ってもらう必要があります」(中山氏)
加盟店の全国開拓は「可能な限り早く」
現在、PayPayには1000人以上のスタッフが在籍している。立ち上がったばかりのスタートアップ企業にしては大所帯だが、そのほとんどが全国で活動する営業部隊だ。本社機能は、東京丸の内にあるコワーキングスペースにいるマーケティング系のスタッフと、銀座のコワーキングスペースに同居するエンジニア部隊の2つで、サービスの運営を維持している。
モバイル決済系のスタートアップ企業では従業員数がわずか数十名程度の小所帯で全国規模のサービスを展開することがほとんどだが、PayPayは完全に異なる。そのため、効率のいいコンビニや飲食店といった大規模チェーンへの営業だけでなく、中小を含めた日本中の店舗を営業対象と同社では考えている。
幸い、キャンペーンやさまざまなニュースを通じて一気に知名度が上がったことで、少なくとも名称不詳のサービスを売り込んで門前払いされるケースはなくなったと思われる。全国開拓の見通しについて聞いたところ、中山氏は「可能な限り早く」ということで、LINEが掲げる「100万店舗」といった具体的な数字や、5年、10年といった時期の目標を設定することなく、ひたすら営業による加盟店拡大を進めていくようだ。一方で、加盟店とユーザー開拓が重点課題であり、当面は「ビジネスモデル構築」よりも拡大が業務の中心となるだろう。
インバウンド需要も取り込む
インバウンド対応もPayPayにおける重要な営業ツールだ。特に中国人向けのプロモーションを行っているわけではないと中山氏はいうが、サービスインの段階からAlipayによる決済はけっこう利用されているという。具体的にどういった店での利用が多いかと聞くと「例えばあなたがヨーロッパに旅行に行ったとしますよね、そこで行くような店です」と同氏は答える。つまりお土産物屋や飲食店というわけだ。
また、せっかくの海外旅行ということで、現地のおいしいものを食べたり、ドラッグストアでも普段よりいいものを買ったりするため、平均利用額が多い傾向があるという。実際にそこでAlipayを利用できるかは分かりにくいと思うのだが、旅行者らはそれでも対応店舗を見つけて決済するという。
観光客の多い浅草のちょっとした飲食店であっても、旅行者は対応店を見つけ出すというのだ。これは非常に面白い傾向だ。一方で、Ant Financialとのアライアンスで注目したい「日本のPayPay利用者の中国でのAlipay対応店での決済」については、現時点で「全く考えていない」と中山氏は言う。当面はインバウンドでの利用で、アウトバウンドへの期待はもう少し先への持ち越しになりそうだ。
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