5Gの本命は「エンタメ」? 実現には課題も ソフトバンクが「ヤフオクドーム」でアバター付き多視点VRの実証実験(2/2 ページ)
ソフトバンクが、福岡ソフトバンクホークスが保有する「福岡ヤフオク!ドーム」において5Gを活用したアバター付き多視点VRの実証実験に成功。その模様がメディア関係者とホークス公式ファンクラブ会員に公開された。
実際に試すと見えてくる課題
今回の実証実験では、「クラブホークス」(ソフトバンクホークスのファンクラブ)会員からもモニターを募集し、実際にVRで試合を観戦してもらう取り組みを行った。また、筆者を含むWebメディア関係者も同様にVR試合観戦を体験できた。
実際に試してみると、大きく2つの課題が
5G回線“以外”の要素における遅延
5GはLTE以上に低遅延であることが特徴。無線区間では片道1ミリ秒(0.001秒)以下に抑えることが規格上の目標だ。今回の実証実験は高速・大容量をより重視しているが、カメラのアングル切り替えやリアルタイムチャットではその低遅延性が生かされている。
しかし、サーバ側では動画の合成やエンコード(圧縮)、クライアント(VRゴーグル側)ではデコード(展開)が必要となるため、どうしても動画の処理において数秒の遅延が発生してしまう。また、今回は「閉じた環境」での試験であるため考慮に入れる必要はあまりないが、遠隔地でコミュニケーションを取る場合、無線区間以外の伝送網における遅延も考慮に入れなければならない。
システムとしてはこれらの遅延は考慮に入れており、コミュニケーションには支障はあまりない。だが、よりリアルタイムに近づけるには無線区間以外の遅延を極力抑える必要がある。以前も述べたが、5Gを生かすも殺すも無線区間“以外”の通信・処理速度次第なのだ。
ソフトバンクでは、5G用の電波帯域の割り当てを受け次第、遠隔地でも同様の実験をしたいとしている。遠隔地での実験こそが、サービス化に向けた“本命”の試験となりそうだ。
VRシステムの処理能力(発熱)
今回の実証実験では、5台のVRヘッドセットが同時に稼働して、それぞれとコミュニケーションを取れるようになっている。先述の通り若干の遅延は発生するものの、システムとしてはそれを折り込み済みなので、ボイスチャットのやりとりは違和感がない。
しかし、VRゴーグルの映像が時折カク付いたり音声が途切れ途切れになったり、場合によっては止まってしまったりする問題が発生した。配信側(エンコーダやコンテンツサーバ)よりも、本体の発熱によってVRゴーグルの処理速度が落ちることが原因としては大きいようだ。
そこそこの処理速度を持ちながら発熱の少ないVRゴーグルが登場すれば、このサービスの“実用性”は増すだろう。
まとめ:課題はあるが5Gの「ユースケース」として早期に実用化されそう
今回の実験に関するニュースリリースを読んだ際、筆者は「球場の観覧施設(スーパーボックス)を再現していることに何の意味があるのだろう……?」と思った。だが、実際に体験してみると、一緒に見ている人とボイスチャットできることと相まって“臨場感”がさらに高まる効果があることに気が付いた。VR空間でも“場”は意外と重要なのである。
今回の実験は、野球以外のスポーツ観戦や音楽ライブなど、多くの観覧イベントに応用できるものだ。しかし、先述の通り乗り越えるべき課題は多い。
日本における5Gの商用サービスの開始は、早くてあと1年程度。それまでに課題をある程度解決し、より多くの人が楽しめる形でこのサービスが世に出ることを期待したい。
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