分離プランでキャリアの戦略はどう変わる? ドコモとソフトバンクの決算で見えたもの:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
NTTドコモとソフトバンク、それぞれの通期決算が発表された。業績はどちらも好調で、売上高、営業利益とも前年度と比べて増収増益を記録した。ドコモは6月1日に導入する新料金プランで、最大4000億円の減収が見込む。反転に向けては、非通信領域を強化していく構えだが、これはソフトバンクも同様だ。
ヤフーを積み上げるソフトバンク、営業利益1兆円超えを目指す
上場後初の通期決算を発表したソフトバンクも、業績は好調だ。売上高は3兆7463億円で、前年同期比1637億円の増。営業利益も7195億円と、815億円の増加になった。いずれも、2018年度予想として出していた数値を上回っている。ソフトバンクの宮内謙社長兼CEOは、「大きな要因はスマートフォンの累計契約者増にある」と語る。
そのスマートフォン累計契約者数は、2018年度で2208万に増加。1年間を通して、208万の純増を記録した。宮内氏は「ソフトバンクは順調、Y!mobileも順調、LINEモバイルは私どものグループになってから、一気に伸び始めた」と語っているが、グラフを見ると、やはりY!mobileの伸びや、LINEモバイルを傘下に収めたことが、純増数に直結しているようだ。
ソフトバンクは3つのブランドを使い分けるマルチブランド戦略を取っているが、メインブランドのソフトバンクから、Y!mobileやLINEモバイルに移行するユーザーが多いと、その分ARPUが減少してしまう。実際、Y!mobileを開始してからは、ソフトバンクから“流出”するユーザーの割合が高かったという。一方で、「2018年度の第4四半期に、ソフトバンクへの移行が初めて逆転した」(宮内氏)。ソフトバンクとY!mobileを併売する店舗を増やしていることが、功を奏した格好だ。
ドコモと同様、光回線の契約者数も順調に伸びている。SoftBank光の契約者数は592万に増加。開示されたデータは据え置き型モバイルルーターの「SoftBank Air」を含む数字で、比率が明かされていないため、この点は割り引いて見る必要はありそうだが、モバイル回線とのセット割対象のユーザーが増えていることは事実。結果として、スマートフォンの解約率は、0.83%と過去最低を記録。宮内氏によると、SoftBank光を契約している場合、この数値は0.6%にまで低下するという。
ただし、ソフトバンクも分離プランの影響を受ける恐れはある。同社の「ウルトラギガモンスター+」や「ミニモンスター」は、原則として月月割が付かない分離プランだが、政府の規制がどの程度まで踏み込むのかが未知数だ。それでも、少なくとも端末の傾向は変化していくようだ。宮内氏は「端末分離の時代になると、ハイエンド端末から安い端末までバラエティに富む。ユニクロの服とブランド品の服があるが、これからは端末の調達力も重要になる」とミドルレンジモデル拡充を示唆した。
実際、ソフトバンクが発表した夏モデルには、「Xperia 1」や「AQUOS R3」のようなハイエンドモデルに加え、「arrows U」や「LG K50」のようなミドルレンジモデルも用意された。先に導入が発表された「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」を加えると、むしろラインアップの主流はミドルレンジになっているともいえる。
また、宮内氏は「端末についてどうするかは未定」としながらも、「ユーザーが買いやすい、満足を与えられるような微修正は絶対に必要だと思う」と語っている。宮内氏のコメントからは、ドコモと同様、ハイエンド端末には何らかの割引を付ける可能性もうかがえる。
ドコモのように減収減益にはならないものの、ソフトバンクも通信事業の伸びは、今後緩やかになる。これに対し、ソフトバンクも上位レイヤーのサービスを拡充させる方針だ。冒頭で挙げたPayPayやDiDi、WeWorkなどがこれに当たる。ただし、新規事業は先行投資がかさみ、すぐに収益には貢献しづらい。宮内氏は「PayPayのようなもので利益をちょこちょこ取ろうとすると、大きく伸びない」と語る。収益面で即効性がありそうなのが、ヤフーを連結子会社化することだ。
兄弟会社から子会社にすることで、ソフトバンクの収益を見かけ上、高めているかのようにも見えるが、宮内氏は「兄弟と親子では全然違う」と力説。協業しながら1つの事業を展開するより、「連結子会社にした方がインセンティブもわく」(同)という。企業間の微妙な距離があるより、「持てる力を発揮して伸ばす方が、シナジーが生まれる」(同)というわけだ。非通信領域を拡大する戦略そのものはドコモと同じだが、その手法はまさにソフトバンク流といえる。ここにKDDIがどう対抗していくのかも、注目しておきたい。
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