有識者会議で議論のなかった「長期利用割引」にもメス――3年前の「長期利用者を優遇せよ」から一転:石川温のスマホ業界新聞
総務省が開催している有識者会議において、同省が契約期間に応じたいわゆる「長期利用割引」の規制を打ち出した。「競争を阻害する」ということが理由なのだが、以前は逆に長期利用者を優遇する施策を推進していたはず。つじつまが合わない。
6月18日の総務省からの案では、長期利用割引に対しても制限が入った。「許容される利益の提供の範囲は1ヶ月分の料金程度」としたのだ。
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この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2019年6月22日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額540円・税込)の申し込みはこちらから。
しかし、この有識者会議では、長期利用割引に対する議論はほとんどされていない。そのため有識者からは「研究会で、ほとんど議論されていない長期利用割引の規制に踏み込むのは拙速ではないか」「長期利用割引を『期間拘束』の一部として制限することは果たして妥当なのか」「MNOを15年以上使っているユーザーに対して、1ヶ月分しか割引が適用されないという制限があるのはどうか。もうちょっと額が大きくあってもいいのではないか」という声が相次いだ。
今回、総務省では「長期利用割引は競争を阻害する」として、メスを入れてきた。しかし、そんなこと何年も前からわかっていたことではないか。
3年前の有識者会議では「長期利用者の優遇しろ」という声があがった。ただ、その時にコラムなどで「競争促進と長期利用者優遇は矛盾する」と指摘したのだが、総務省は長期利用者の優遇をキャリアに要請した。結果、各社は長期利用者の割引やポイント付与を強化したのだった。
しかし、たった3年で、今度は全く逆のことを言い始める総務省。彼らは、自分たちの矛盾に気がつかないのだろうか。
毎度毎度思うが、キャリアの「わかりにくり料金体系」の元凶はすべて総務省の行き当たりばったりの方針にあるのではないか。総務省がしっかりと将来を見据え、競争政策を展開したいのであれば、もっとスマートなやり方があったはずだ。
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