愚直に“便利とお得”を追求 ファミリーマートが「FamiPay」を始めた理由:モバイル決済の裏側を聞く(2/3 ページ)
「ファミペイ」アプリが、開始1カ月で300万ダウンロードを突破するなど好調だ。ファミリーマートは既に他社の決済サービスを提供しているが、なぜ自社で新たな決済サービスを提供することにしたのか。競合他社のキャンペーン施策にはどのように対抗していくのか。
バーコード決済は本当に遅れた技術なのか
そうした理由もあり、ファミマTカード(クレカ版)でチャージしたいということで加入数が急増したという流れもあるものの、やはり基本は現金チャージだという。
煩雑なようだがメリットもあるようで、例えば複雑な操作なしでアプリを入れてすぐに使い始め、カウンターに現金を持っていくだけでチャージできるということで「初めてだけどやってみようかな」という層を取り込めたのではないか、と植野氏は考えているようだ。
8月中旬時点までのFamiPayの利用傾向で興味深いものがある。チャージ後の用途として、ファミリーマートの想定以上に収納代行による各種支払いにFamiPayを活用するユーザーが多かったというのだ。
支払い方法も興味深い。例えばFamiPayでは7月29日まで限定で、現金チャージで10%、ファミマTカード経由のチャージで15%のボーナスが付与されるキャンペーンを実施していたが、その上限である2万円を一気にチャージして収納代行による支払いを行うといった具合だ。
通常、収納代行での支払額は公共料金などで数千円から1万円前後と高額で、「どうせ支払うならFamiPayに一気にチャージして活用してしまえ」と考えた人が多かったのかもしれない。ボーナスをもらいつつ、残りを普段の買い物に活用していけばいいわけで、なかなかに賢い使い方だと思う。
一連の過程でクーポン配信を含むファミペイアプリを活用してもらい、必要であれば追加でチャージをしてまた活用してもらい……といった循環を作ることも狙いの1つだという。
FamiPayに関してもう1ついわれるのが、「なぜ(電子マネーなどの)非接触通信を使った決済に対応しないのか」という点だ。これについて植野氏は「お客さまがスマートフォンでバーコードを提示するより、非接触のタッチをご支持されるのなら、非接触の技術を検討すればいいわけです。しょせん、お店とお客さまのタッチポイントの違いでしかありません」と話す。
「いろいろな人が勘違いしているようですが、リアルな買い物はクーポンや現金以外のいろいろな要素が入ってきて、クーポン操作やタッチ決済で煩雑になるのであれば、バーコードで一発『ピッ!』ってやった方がいいのではないでしょうか。あくまでお客さまが判断することなので、そちらの声が大きければもちろん対応を考えますが、いまの時点でこの仕組みが実現できて、かつ投資がかからないのがバーコードだったという話です」(植野氏)
「QRコードなんて、中国とかではやっている遅れた仕組みを導入して……」という声に対しても反論する。「(MPMと呼ばれる店舗に掲示されたQRコードをユーザーが読み込んで金額を入力して決済する)スキャン型決済の仕組みと、FamiPayが採用しているようなコード決済の区別がついていない事例を見受けることもあります。また、Alipayなどを除けば、世界で一番使われているモバイル決済はスターバックスのハウスカード型決済サービスだといわれています。これもバーコードですが、『遅れている』『サービスを乱立させて』という声は聞こえてきません。この点が不思議だと考えています」(植野氏)
この点について補足すると、店舗が独自の決済サービスを用意するというのは日本に限った話ではない。スターバックス以外では、スウェーデンの「Swish」というモバイル決済・送金サービスがある。ほぼ全ての店舗でクレジットカードやデビットカードが使える環境にありながら、なおハウスカードやそれに準じたモバイル決済サービスが存在し、ユーザーは日々“お得”に買い物をしている。
以前、北欧でモバイル決済サービスを提供している事業者に話を聞いたところ「特定の決済方式にこだわっているようでは普及は望めない」という成功体験を語っていた。あくまで重要なのは顧客視点で、それが便利だと思われる仕組みをきちんと提供することが重要なのだ。
ファミペイが目指すもの
FamiPayは7月のスタート時に総額「88億円」のキャンペーンを打ち出し、前述の2万円チャージでの最大15%還元キャンペーンを経て多くのユーザーを獲得した。ただ植野氏は各社が大規模キャンペーンを打ち出す体力勝負には否定的で、「(ファミリーマートが対応している決済サービスを提供する事業者が)キャンペーンをやりたいのでしたら協力させていただきますが、ファミペイでは『会員価格がFamiPayで受けられますよ』というメリットと、本当にお買い物の中での“お得”を打ち出していきたいと思っています」と語る。
「FamiPayではリアル店舗がありますし、(競合が求める)データを既に持っています。キャンペーンでどのような効果があるかも見えていますし、後は現金で買われているお客さまに“お得”を提供するだけで(FamiPayに)スイッチできると考えています。交通系がそうですが、切符を買ったり定期を出し入れしたりといった面倒なことを解決することで、あれだけ利用されているわけです。特にお得なキャンペーンもやっていないわけですから、やはりリアルなタッチポイントがあるというのは、それだけで強みになります。後は顧客体験を再設計していくことで、週2〜3回の買い物での便利さを提案できると考えます」(植野氏)
「出すからにはナンバーワンのご支持いただけるものを作りたい」(植野氏)ということで登場したFamiPayでは、オープン戦略を標ぼうしており、条件さえ合えば外部提供も行うし、逆に外部の競合となるような決済サービスをファミリーマート側で受け入れるのもウエルカムだとしている。
コンビニにおけるナショナルブランド(NB)とプライベートブランド(PB)の関係に似ているが、決済の世界でも互いに弱点を補い合い、顧客が望めば他社の決済サービスも受け入れるというのが店舗として正しい在り方と考えているのだろう。実際、サービス開始以降引き合いは増えており、特に電子レシートの評価が高いという。
商品開発やマーケティングで重要となるデータについても、日々のクーポン配信に活用していく。今後はクーポン配信のパーソナライズ化も視野に入れており、この点も差別化ポイントになる。
【訂正:2019年9月27日15時7分 クーポンのパーソナライズ化は今後の展望となるため、一部表現を修正しました】
従来、クーポンを店頭で配布しようと思っても“マス”が対象であり、既に来店した客に対してのクーポン提供がどこまで意味があるのかという問題もあった。それがアプリの登場で個々の顧客に直接リーチ可能になったわけで、“待ち”が主体だった小売事業者にとっては大きな変化だ。
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