ヤフー×LINE、経営統合でこれから決済業界に起こること:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(2/2 ページ)
ヤフーとLINEの経営統合で気になるのが、2社が提供しているモバイル決済の動きだ。PayPayとLINE Payが今回の事業統合で1つにまとまることはないだろう――というのが筆者の考えだ。こう考える理由の1つに、両者の統合後の姿が原時点で全く想像できない点が挙げられる。
ようやくスタートラインに立った段階
18日の会見で気になった話題に「両者の技術やリソースを合わせてアジア進出を目指す」というものがある。もともとLINEは国外展開では台湾を中心にタイとインドネシアに拡大しており、特にLINE PayのFinTech事業では現地の銀行免許取得も含めた本格参入を目指しているとされている。
そうした土台もあり、ヤフーとの経営統合後に開発リソースを強化し、海外展開をさらにテコ入れしたいという思惑なのだろう。会見の質疑応答では「欧米では(GAFAなどの強力なプレイヤーがいるから)勝てないが、アジアなら勝てるだろう」といった質問もあったが、この見通しは正直いって非常に甘い。
人口規模でいえば日本よりインドネシアの方が多い上、配車サービスと金融分野で激しい競争を勝ち抜いたGojekやGrab(Ovo)のようなプレイヤーが存在する。特にGrabは東南アジア地域をまたいで8カ国にクロスボーダーの経済圏を築いており、この会見が行われた18日には正式にJapanTaxiとの提携で日本進出を果たしている。アジア進出以前に、他のアジアのプレイヤーに日本の市場を食われる危険性さえある。
金融を含む当局の規制というのは大きな参入障壁であり、恐らく素の状態で日本に入ってくることは難しい。かつてAlipay(Ant Financial)がメガバンクとの提携で日本進出を狙っていたとき、同業他社と政府の横やりで断念したということがあった。Grabの日本進出も主に東南アジアからのインバウンド客を送致するのが目的のものだが、既に東南アジア市場でスーパーアプリ化しつつある同社が次のサービスを日本に持ち込むのも時間の問題だろう。
海外進出以前に、まずは現状でモバイルとサービス面で世界のトレンドから遅れつつある日本のインフラをきちんと整備し、地固めを行うことが重要だ。その意味で、今回発表された経営統合は諸外国での強力なプレイヤーに対抗しうる勢力を築き上げる可能性を秘めている。逆にいえば、それくらいのことをしてようやく世界の勝負のスタートラインに立った状態ともいえる。
関連記事
- ヤフーとLINEはなぜ提携したのか? 2トップの川邊氏と出澤氏が語る
既報の通り、11月18日に、ヤフーを子会社に持つZホールディングス(ZHD)とLINEが経営統合の基本合意を発表した。統合の背景には、強力な海外勢に対する強い危機感があった。お互いの弱い分野を補うことで、世界をリードする“AIテックカンパニー”を目指す。 - PayPayサービス開始1周年 今後は「スーパーアプリ」目指す セキュリティ対策やサポートも強化
コード決済サービス「PayPay」が、サービス開始から間もなく1周年を迎える。2019年9月13日時点でユーザー数は1250万人、加盟店申込数は140万箇所に達した。今後は、金融・決済にまつわる機能がスマホだけで完結する「スーパーアプリ」を目指す。 - キャンペーンは「とことんやる」、手数料は「悪いようにはしない」 PayPay馬場副社長に聞く決済戦略
コード決済の事業者は、ほぼ出そろいつつある。その中でも、圧倒的な資金量と営業力で、後発ながら存在感を見せつけるのがPayPayだ。同社で加盟店開拓を主に担当する、取締役副社長執行役員COO兼営業統括本部長の馬場一氏に、現状の手応えや今後の目標などをうかがった。 - 7pay騒動から見えた、モバイル決済の懸念 生き残るために必要なものとは?
不正利用が発覚した「7pay」の問題が収束する気配が見えない。セブン社内でも混乱が続いているようで、セキュリティ対策と顧客サポートの両面で手が回っていない印象を受ける。この7payを含む「コンビニPay」と、銀行が提供する「銀行Pay」を含めた、モバイル決済全体の課題を整理する。 - “PayPay効果”で加盟店申し込みが急増 LINE Payが2018年につかんだ手応え
2018年はさまざまな決済サービスが登場して市場が盛りあがったが、「LINE Pay」にも追い風となった。PayPay効果で認知度が大きく上がり、加盟店の申し込みも急増したという。キャンペーンも積極的に打ち、「マイカラー」制度も改良した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.