字義とは違う スマホやケータイを買う時の「頭金」ってなぜあるの?:元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(2/2 ページ)
スマートフォンやケータイを店頭で買おうとすると、機種代金とは別に「頭金」を支払わなくてはならないケースがあります。携帯電話販売における「頭金」は、世間一般の頭金とは考え方が異なり、それに起因するトラブルもあります。一体「頭金」とは何なのでしょうか。そして、なぜ存在するのでしょうか。
分割払いの支払い金を自由に設定できない問題も
一般的な頭金は、商品の支払い金額のうち、あらかじめ払っておく金額という意味です。頭金を支払った場合は、その残りの金額に対して分割払い(割賦)を設定することになります。
通常の分割払いでは、頭金をある程度自由に設定できます。しかし、携帯電話キャリアの分割払いではここにも“違い”があります。
実例として、とある2店舗におけるNTTドコモが販売する「iPhone 11 Pro」のプライスカードを見てみましょう。「頭金」が店舗Aでは1万1000円、店舗Bでは5500円に設定されています。
「頭金」の設定額が店舗により異なること自体は、先述の通り店舗の方針を反映しているだけなので不思議なことではありませんが、あくまでも店舗独自の手数料であるため、「頭金」が高くなれば、端末代金(支払総額)もその分高くなるのです。
「頭金」が一般的な頭金であったなら、先に支払った分だけ分割支払い金が減額されます。しかし2つのプライスカードを見れば分かる通り、分割支払い金(分割して支払う代金)の設定は店舗Aも店舗Bも同額です。これは一体どういうことなのでしょうか。
端末の販売価格は、店舗が自由に設定できることになっています。極端なことをいえば、各キャリアの定価とみなされることの多いオンラインショップでの販売価格の2倍の価格で売っても問題はありません。逆に、不当廉売(※)に該当しない限り、オンラインショップよりも安価にすることも問題はありません。
(※)独占禁止法で禁止されていることの1つで、商品を不当に安い価格(≒本来の価格を下回る価格)で売り続ける行為。
ですが、分割支払い金と、それを単純に分割回数をかけた金額(支払い総額から「頭金」を差し引いた金額:以下「分割支払い総額」)は、ドコモに限らず同じキャリアならどの店舗でも原則として同一額に設定されています。
その原因の1つは、キャリアの顧客管理システムにあります。分割払いで端末を購入する場合、キャリアにもよりますが「分割支払い金を減額したい場合は、分割支払い総額から一定額単位でしか値下げするしかない」「分割支払い金の上限・下限が設定されている」といった制約があるのです。
店舗独自の手数料たる「頭金」を含めた支払い総額を分割できたり、「頭金」が本来の頭金として機能し、払った分だけ分割支払い総額が減額されたりするのであれば、価格の高低はさておき、問題はありません。しかし、現状の顧客管理システムでは先に店頭で払った頭金の分だけ分割支払い金を減額できないという大きな問題を抱えています。
携帯電話の販売における「頭金」を巡るトラブルやクレームの多くは、買う側が自由に“頭金”を設定できないことに集約されます。
問題のある「頭金」は値上げ傾向 原因は「売れない」こと
「頭金」を巡る問題を解決するには、その是非はともかくとして、短期的には以下の対策を検討するべきです。
- 「頭金」の名称を誤解のない形に改める(「店頭販売手数料」など)、あるいは「頭金」相当の金額を端末代金として上乗せできるようにする
- 「頭金」相当の金額を含めた総額で分割払いを契約できるようにする
- 本来の頭金(端末代金の一部先払い)を認めて、店頭で払った分だけ分割払い(総)額を減らせる仕組みにする
しかしここ最近、販売店では「頭金」に頼る傾向が強まっています。
筆者が観測した限りの話ですが、ある家電量販店では、9月まで3000円だった「頭金」が、10月から5000円に値上げされました。キャリアショップでは、従来5000〜8000円の範囲で設定されていた「頭金」が、ここ1年ほどで1万〜1万5000円に値上がりしています。
10月に値上げをしたショップがあるように、「頭金」の値上げは、10月から施行されたの改正電気通信事業法と関連する総務省令の影響もないとはいえません。しかし、それ以上に影響していると考えられるのが端末の買い換えサイクルの長期化です。
以前であれば、分割払いは24回が主流で、おおむね2年に1回は端末を買い換えるユーザーが多くいました。しかし、最近は人気を集めてきたハイエンドスマホが10万円前後、場合によっては10万円を大きく超える価格で販売されるようになり、「払い終わっても使い続ける」「壊れたら買い換える」という人が増えました。
キャリアが36回または48回の分割払いを前提とした買い換えプログラムを設定するようになったのは、買い換えサイクルの長期化と関わりがあります。NTTドコモが「スマホおかえしプログラム」を発表した際には、買い換えサイクルの長期化を示す資料を自らデータで示したほどです。
買い換えサイクルの長期化は、そのまま販売店や代理店の販売台数に影響します。10月からは多売するためのキャンペーンも制限されました。「頭金」を値引くために半強制的にオプションサービスの加入を促すことも、オプションサービスの一定期間の継続を条件とする割り引きも禁止されたため、継続利用によるインセンティブを期待できません。
ある意味で、携帯電話の「頭金」は販売店が利益を確保するための最後の「命綱」となっている現状を踏まえると、繰り返しですが「頭金」を世間一般でいう頭金のように扱えるシステムの改修は不可避だと考えます。
このまま「頭金」を放置していくと、これも法令による規制対象となるのではないかと、今から心配でなりません。
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