改正法施行後も“トリプルブランド”で乗り切ったソフトバンク 5Gの戦略は?:石野純也のMobile Eye(1/2 ページ)
2019年10月から電気通信事業法が改正され、端末購入補助の上限が2万円に制限された。この競争環境の変化を、ソフトバンクは「トリプルブランド戦略」で乗り切ったという。5Gサービスでは4Gの周波数を5Gに転用する技術も駆使しながらエリアを構築していく。
ソフトバンクは、2月7日に第3四半期の業績を発表した。決算は、増収増益。売上高は3兆6180億円で30%増、営業利益は7951億円で25%増の結果と、大幅に成長した。ヤフーを傘下に持つZホールディングスを連結した影響を除いても、売上高は3%、営業利益は9%ほど伸びている。同社の代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏は、「全事業で増益できたのは、われわれの力がだんだん強くなっていることの証明」と胸を張った。
好決算を受け、ソフトバンクは2019年度の業績予想の上方修正を行った。売上高は200億円、営業利益は100億円を上乗せしている。スマートフォンの契約数増加が想定以上だったことや、法人ソリューションの伸びをその理由に挙げた。
ソフトバンクの業績をけん引しているのが、スマートフォンの伸びだ。一方で、第3四半期の初日にあたる10月1日には、電気通信事業法が改正され、分離プランが義務化されるとともに、端末購入補助の上限が2万円に制限された。消費増税も10月1日で、特に端末の販売にブレーキがかかることも予想されていた。この競争環境の変化を、ソフトバンクは「トリプルブランド戦略」で乗り切ったという。その中身を見ていこう。
ソフトバンク、Y!mobile、LINEモバイルの3本柱で契約数が増加
ソフトバンクのスマートフォン累計契約数は、第3四半期で2348万に達した。前年同期比で202万増と、純増数も順調に伸びていることが分かる。もともとソフトバンクでは、「年間200万契約を毎年伸ばしていく」(宮内氏)という社内目標を掲げていたが、「それを達成することは間違いない」状況だ。次に狙っているのは3000万契約で、宮内氏は「その足掛かりが見えてきた」と語る。
中でも純増数の伸びに貢献しているのが、サブブランドのY!mobile(ワイモバイル)だ。宮内氏によると、Y!mobileは500万契約を突破。電気通信事業法改正によって、端末の総販売台数は下落したものの、「ますますY!mobileが強くなった」(宮内氏)と振り返る。端末購入補助の抑制によって、ハイエンドモデルの販売には陰りが見える一方で、ミドルレンジモデルを中心に取りそろえているY!mobileは、相対的にその影響が少なかったといえそうだ。結果として、「トータルで見ると、凹の幅は少なかった」という。
ソフトバンクは、大容量プランを中心にしたソフトバンク、中容量のY!mobile、低容量のLINEモバイルといった形で、3つのブランドを使い分ける戦略を取っている。このポジショニングが、電気通信事業法改正以降の市場環境にフィットした格好だ。
宮内氏が「シナジーが非常に出てきている」と語るように、ソフトバンクとY!mobileの2ブランドは、店舗の共通化も進めており、ユーザーに合わせた提案が行える仕組みも整えた。宮内氏によると、約3000店舗中、1800店舗で、「ソフトバンクブランドとY!mobileブランドの両方を扱っている」という。内訳は公開されていないが、グラフを見ると、LINEモバイルも比較的堅調に契約数を伸ばしていることが分かる。
契約数が増加しただけでなく、1ユーザーあたりからの平均収入であるARPUも、前年同期比で伸長した。割引影響を含むARPUは、4440円。割引前のAPRUは前年同期の5420円から5100円に減少しているが、割引ARPUが1040円から660円になったことで、トータルでは増収傾向だ。分離プランの浸透やY!mobileの比率が上がったことで、料金そのものの水準は下がったが、月月割の影響が徐々に薄くなっているため、トータルでのARPUは向上しているというわけだ。契約数の伸びと、ARPUの掛け算で増収増益を達成したといえる。
楽天対抗もトリプルブランドで、解約率は大幅に低下
トリプルブランド戦略は、4月に本格サービスを開始する楽天モバイルへの対抗にもなるという。宮内氏は、「楽天モバイルがどういった料金プランで、どういったサービスをするのか、想定ぐらいしかできないが……」と前置きしつつ、次のように語る。
「楽天がどんな形で出てくるのかによって、3つ(ソフトバンク、Y!mobile、LINEモバイル)の中で、どう対応するかを考えることができる。出てきたときは、俊敏に対応するか、あるいは対応しなくてもいいかもしれない。(中略)構造的に、どのブランドでどう対応するのかが、やりやすい構造が作れている」
一方で、ソフトバンクやY!mobile、LINEモバイルを離れるユーザーは、大幅に減少している。その指標であるスマートフォンの解約率は、第3四半期が0.53%と、過去最低水準になった。前年同期は0.79%、前々年同期は0.85%だったことを考えると、解約に急ブレーキがかかった格好だ。携帯電話全体での解約率も1%を割り込み、0.86%に低下した。もともと、ソフトバンクの解約率はドコモやKDDIに比べやや高めの傾向だったが、解約率でも徐々に肩を並べつつある。
宮内氏は、エリアがドコモやKDDIに並んだことなどを要因に挙げていたが、解約率の低下は、それだけでは説明がつかない。やはり大きいのは、端末購入補助の抑制によるMNPの沈静化だ。実際、宮内氏は「電気通信事業法改正や消費税増税が(10月1日に)あったので、9月に激しくサブシディ(補助金)を出してガツンと売った」と語っている。こうした補助金は、主にMNPを含む新規契約に使われるのが一般的だ。裏を返せば、10月以降はこうした補助金が出せず、キャリア同士のユーザー獲得合戦が、鳴りを潜めたといえる。
電気通信事業法の改正では、同時に2年契約の違約金を1000円以内に引き下げ、流動性を上げている。ソフトバンクはこのルールに満額回答し、「ウルトラギガモンスター+」と「ミニモンスター」の違約金を撤廃したが、それでも解約率は大きく低下している。端末購入補助の制限による流動性低下の方が、強く出てしまった結果といえる。
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