SIMロックは「原則禁止」 キャリアメールは「転出元管理」で持ち運び――総務省がMNP活性化に向けた「論点案」を提示(2/3 ページ)
総務省が、MNPの円滑化に向けたタスクフォースの第4回会合を開催した。会合では、eSIMカードに関して構成員(有識者)に説明するヒアリングが行われた他、同省による論点の整理案が示された。この記事では、同省が提示した論点整理案を中心に解説する。
キャリアメール:転出元で管理する形で持ち運べるように
MNOは、ネット接続サービスに付帯する形で独自ドメインを持つメールサービスを提供している。このメールサービスは「キャリアメール」とも呼ばれ、現在でもごく一部のモバイル(スマートフォン)向けサービスにおいて必須とされている他、家族との連絡用途など、一定のニーズがあると言われている。
しかし、各MNOのネット接続サービスに付帯しているという特性から、MNP時にキャリアメールのアドレスは持ち運べない。メールアドレスが変わることを嫌うユーザーも存在することから「キャリアメールがMNP促進の阻害要因になっている」という指摘もある。
そこで総務省は、10月27日に公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」において、キャリアメールの持ち運びについて早期実現する旨を盛り込んだ。
今回の会合において、同省はその検討結果と論点の整理案を示した。メールアドレスの持ち運びはユーザー側が希望すれば自由に行えることを前提とし、希望者に過度な負担や手続きを課さないことを条件にコスト回収に必要な範囲内での有料化を許容している。事業者間協議を通して、具体的な持ち運び方法は2つの中から検討された。
方法1:変更元管理方式
変更元管理方式では、キャリアメールのアドレスとサービスを、転出元キャリアが引き続き管理する。簡単にいえば、キャリアメールのサービスをネット接続サービスから切り離し、転出元を解約した後も単体サービスとして継続利用できるということだ。
この方法のメリットは、何よりもメールサービスを単体で切り出せることにある。単体サービスとしてはもちろん、従来通りに当該キャリアのネット接続サービスの一部として提供を継続できるし、さらに別のサービスに付帯して提供するといった「発展可能性」に含みを持たせられる。総務省も例示しているが、同一MNO内の格安プラン(ブランド)に移行しても、メールアドレスを継承できる見通しだ。
メールの送受信は、PC向けのメールサービスなどでも使われている「IMAP方式」を用いることを想定している。IMAPに対応するメーラー(メール送受信用アプリ)さえ用意すれば、スマホはもちろんパソコンやタブレットでもメールを送受信できる。
ただし、メールサービスの不正利用を防止する観点から、この方法での持ち運びはMNPまたはプラン変更の手続き時のみ受け付けることを想定している。また、以下のような課題もある。
- メーラーの設定が必要なため、ユーザーに一定のリテラシーが求められる
- IMAPメーラーのない(使えない)端末では使えない(3Gケータイの大部分)
- 転送方式と比べると運用コストが高い
方法2:転送方式
転送方式では、転出元キャリアで使っていたメールアドレスで受信したメールを、転出先のキャリアなどのメールアドレスに転送する。一方、メールの送信は、転出先のキャリアなどが提供するメールサービスを用いる。
メリットは転送先アドレスを指定するだけで設定が完了することにある。ただし、以下のようなデメリットもある。
- 「受信」と「送信」のメールアドレスが異なる
- 転送先のメールアドレスが変わる度に設定変更をしなければならない
発展可能性から「管理元変更方式」を軸に検討
その他、「受信は転送、送信は転出元キャリアで」という方式も検討しようとしたようだが、セキュリティホール発生の懸念やインターネットのルール違反等の指摘があったため検討から除外したという。
その上で、管理元変更方式と転送方式で比較検討した結果、開発コストが両者で大差ないことと(ただし詳細は非開示)、将来の拡張可能性を考慮して変更元管理方式を用いる前提で議論を進めることになった。
ただし、会議の構成員からは「サービスの利用希望者にのみ負担を求めることはいかがなものか」「(全ユーザーに公平負担を求める観点から)コストは携帯電話の基本料金内で賄うべき」というといった意見が寄せられた。“希望制”となる持ち運びサービスに、公平負担を求めることの是非が問われそうだ。
SIMロック:「原則」と「例外」を逆転 「SIMロック原則禁止」へ
端末で利用できるキャリア(SIMカード)を制限する「SIMロック」は、端末代金の未払いや端末の詐取(窃盗)を防止する観点からかけられてきた。しかし、中古端末の流通の活性化の障壁となり、結果的にMNPの活性化も妨げていると指摘されてきた。海外渡航時に、手頃な現地の通信サービス(プリペイドSIMカードなど)を利用できないことの不利益も問題とされた。
そのような声を受けて、総務省では順次、SIMロックを掛けて販売される端末について、その解除に関する条件を順次緩和してきた。現行のガイドラインでは、SIMロック解除の条件を満たしている場合は、端末の販売時にロック解除の手続きを即時に受け付けることが義務付けられている。中でもNTTドコモは、条件を満たした場合にSIMロック解除手続きを自動実行するようになった(※1)。
(※1)一部を除き、端末側で別途解除操作をする必要がある
しかし、端末代金の未払いや端末の詐取は“レアケース”であり、大多数のユーザーにとって、SIMロックによるメリットはない。そこで同省は、SIMロックに関するガイドラインについて、「原則」と「例外」を入れ替えてSIMロックを掛けた端末の販売を原則禁止する方向で検討を進めている。SIMロックは「端末購入時に、不適切な行為(端末代金の未払いや端末の詐取)をする可能性が低いことが確認できない場合」に限って許容される。
ただ総務省によると、これを事業者間協議で検討した際に、一部のMNOから以下のような指摘があったという。
- SIMロックには、間接的な端末盗難防止効果がある
- 自社のWebアンケートで「SIMロックを希望しない(≒したくない)消費者がいる」という結果が得られた
1点目については、SIMロックの有無は外観から分からないため、説得力がないことは明らかだ。一部の端末では、設定画面でSIMロックの有無を確かめられる。だが、その画面をいつも出している人がいるとは考えがたい。
2点目については、ユーザー視点に立つとSIMロックを解除されて困る状況は考えづらい。協議では、自動的にSIMロック解除手続きを行っているMNO(状況的にNTTドコモ)からSIMロック解除手続きを申し出なしに行ったことによる苦情やトラブルはないという旨の発言があったという。また、同省が設置している「電気通信消費者相談センター」にもSIMロックの解除手続きの自動化に伴う苦情は一切寄せられていないとのことだ。
今後、論点を整理した上で「SIMロック原則禁止」とするガイドラインの改定が行われるだろう。
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