ドコモが固定回線代わりの「home 5G」を発表 “モバイル”できないことで生じうる問題とは?:5分で知るモバイルデータ通信活用術(2/3 ページ)
NTTドコモが8月下旬以降に、5G/4G(LTE)回線を使った据え置きワイヤレス通信サービスを開始します。“据え置き”ゆえに、従来のモバイルルーターとは提供条件が異なる面もあります。
home 5Gには「設置場所制限」がある
モバイルルーターにオプションで有線LANポート付きのクレードルを用意したり、ルーター自身に有線LANポートを設けたりと、ドコモではモバイル回線を固定インターネット回線代わりに使うことを全く想定していなかったわけではありません。
とりわけ、5Gサービスでは「ルーターでも容量無制限!」とアピールする販売店もあります。「5Gギガホ」はキャンペーンで、5Gギガホ プレミアはタリフ(料金約款)で月間容量無制限としているからこそできる訴求です。
ただ、両プランは端末の種別を問わず同一料金。なので、心のどこかで「電話しないけどスマホと同じ料金なのか……(もうちょっと安くならないの?)」と思っている人もいるはずです。
ドコモのモバイル5Gルーター「Wi-Fi STATION SH-52A」は有線LANポートを備えています。これに5Gギガホ/5Gギガホ プレミアムを組み合わせれば、現状でも固定インターネット回線に近い使い方は可能です
そこに登場したhome 5Gは、月間容量無制限なインターネット回線をより手頃に使える意味では福音です。ただ、home 5Gは今までのドコモのモバイル通信にはない制限があります。ドコモに届け出た利用場所(住所)以外で利用できないようになっているのです。平たくいえばモバイルできないのです。
「移動を検知するとすぐに通信が切断されるのか」「設置場所の住所はオンラインで変更できるのか」といった、細かいサービス面の仕様は検討中だそうですが、持ち運びできないことは確定しています。
ちなみに、home 5GのUIM(SIM)カードは専用のもので他の端末では使えません。逆に、他のサービス用のUIMカードはhome 5G HR01に入れても動作しません。ゆえに「HR01だけ買って5Gギガホ プレミアのSIMカードを入れて運用しよう」といったこともできません。
home 5Gを動かせない理由は「ガイドライン」にあり
「モバイル回線を使うのに動かせない」といえば、ソフトバンクが提供する「SoftBank Air」を思い出します。SoftBank AirはSoftBank 4G(AXGP)またはSoftBank 4G LTEのネットワークを使うホームインターネットサービスですが、届け出た利用場所から移動すると使えなくなる仕組みを組み入れています。
「モバイル通信を使うのに、動かせないなんて……」と思う人もいるはずです。しかしキャリア側の視点に立つと“動かせない”ことには一定のメリットがあり、ユーザーにも使い方次第ではメリットがあるのです。
2019年10月から改正電気通信事業法と関連する総務省令やガイドライン類が施行されました。この改正によって、大手キャリア(※2)と契約回線数が100万を超えるMVNOに対して以下の規制が課されています。
- 定期契約は最長で2年とする
- 定期契約の中途解除料(違約金)は税別1000円までとする
- 回線契約と結び付く端末購入に対する値引き(利益供与)は税別2万円までとする
(※2)自ら通信設備を持つ携帯電話事業者と、全国エリアでサービスを提供するBWA(無線ブロードバンドアクセス)事業者
この改正法に関連するガイドラインの1つに「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドライン」というものがあります。このガイドラインでは、先述の規制を適用する条件と共に適用しない条件も記載されています。
SoftBank Airは、以下に引用する条件に当てはまるため、先述の規制を受けずに済みます。つまり通常の携帯電話サービスよりも厳しい「縛り」を課す代わりに、アグレッシブな販売促進施策を打ちやすいのです。
エ 電気通信事業者が電気通信設備を制御することにより、特定地点以外での利用を制限して提供される電気通信役務【役務指定告示第2項第4号】
「電気通信事業者が電気通信設備を制御することにより」とは、電気通信事業者が自社の事業用電気通信設備を制御することを意味しており、利用者側で端末等を設定することにより制限されることは含まれない。
「特定地点以外での利用を制限」には、契約住所等の特定地点以外で利用者が当該電気通信役務を利用することができないよう、電気通信事業者において、当該電気通信役務の利用地点を常時把握し、利用者が特定地点以外で当該電気通信役務を利用した場合は、当該電気通信役務の提供を停止する措置が担保されているものが該当する。
SoftBank Airの“見た目”をある意味で決定したともいえる第2世代の「Airターミナル2」。第3世代の「Airターミナル3」以降も見た目はほぼ同じだが、SoftBank 4G LTEネットワークも利用可能な仕様となっている
ガイドラインでは、サービスの利用場所を把握する方法の具体例と、移動を検知した場合にすべきことも注釈として記されています。まさしく、SoftBank Airで取り入れられている仕組みそのものです。
例えば、利用者による特定地点以外での利用の把握については、GPSや基地局を活用して即時に検知できるように常時行い、電気通信役務を停止する措置については、利用者が特定地点以外で利用した場合に、直ちに当該電気通信役務を自動的に停止することのほか、利用者に注意喚起を行い、その後の状況を踏まえて、速やかに当該電気通信役務の提供を停止することが考えられる。
home 5Gに話を戻すと、ドコモはこのサービスに定期契約や解約金を設定していません。それでもあえて移動できない仕様としたのは、端末販売に伴う利益供与の制限を回避するためだと思われます。
もしhome 5Gを移動しても使えるサービスとすると、「ルーターをプレゼント(無料で提供)」「総額2万円超のキャッシュバック(または料金値引き)」といった施策は実施できません。ユーザー獲得のキャンペーンを行う上での“かせ”を少しでも減らす意味で、移動禁止措置は避けられなかったのかもしれません。
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