ソフトバンクが6G開発に向けた計画を公開 空中含む「エリア100%」や量子コンピュータ対策も
ソフトバンクが7月14日、5Gの次世代通信を担う「6G」についての12の計画を公開した。社会インフラとして重要な役割を担うモバイル通信をさらに発展させ、山間部や海上などを含む地球全体を通信エリア化するという。2030年に実用化が予想されている量子コンピュータへの対策やCO2排出の「ネットゼロ」にも言及している。
ソフトバンクは7月14日、5G回線の後継となる「6G」について「Beyond 5G/6Gに向けた12の挑戦」と題した計画を公開した。
ベストエフォートからの脱却
現在提供しているアプリでは、インターネットの閲覧や動画のストリーミング再生の際に遅延やパケットロスが発生していた。
6Gで期待されている産業など向けの社会インフラ構築のため、携帯回線に対してIoT端末などで利用される分散処理(モバイルエッジコンピューティング、MEC)やネットワーク資源の分割機能を搭載する。
モバイルのウェブ化
システムやプロトコルが長年にわたって改善し続けられてきたインターネットに対して、モバイルネットワークは閉鎖的で世界的に標準化される以上の進化がないという。
今後、サービスの幅を広げるために柔軟な構造へ変化させ、インターネットサービスの構造も取り込むことで便利なサービス提供を実現する。
AIのネットワーク
画像・音声認識だけでなくネットワークの最適化や運用の自動化などに活用されつつあるAI技術と、無線基地局を含むネットワーク装置をPCで仮想化する技術を活用する。
GPUで処理するソフトウェアである両者を、モバイルネットワーク上に分散配置したPCで処理することで、低コストで高品質なネットワークとサービスが提供できるとしている。
エリア100%
6Gでは成層圏プラットフォーム(HAPS)や低軌道(LEO)衛星、静止(GEO)衛星を活用したネットワーク技術を活用し、地球全てを通信エリアにする。
これにより、基地局を整備できなかった海上や山間部、空中でサービスを提供し、自動運転やドローン、「空飛ぶタクシー」などの新しい産業を支える。
エリアの拡張
ソフトバンク子会社のHAPSモバイルが開発するHAPSの他、2020年に成層圏での飛行とLTE通信に成功した無人航空機「サングライダー」(Sunglider)で得られたデータを基に、商用化に向けた機体や無線機の開発、レギュレーション整備を進める。
周波数の拡張
6Gで5Gの10倍の速度を実現するため、5Gで利用するミリ波より高い周波数の「テラヘルツ波」(100GHz〜10THz)を活用する。
2019年の世界無線通信会議では合計137GHzが通信用途として特定されており、これらを移動通信で活用することで、さらに高速で大容量な通信を実現する。
電波によるセンシング
従来通信のために活用してきた電波を、屋内で人の位置を特定したり、Bluetoothを位置情報の追跡に利用する。6Gの電波で通信と検知、追跡を同時に行えるサービスを開発する。
電波による充電、給電
Qi規格の無接点充電技術の短所である距離の問題を解消する。電波を活用して距離が離れた状態でも充電や給電を行える技術を開発し、電池交換や日々の充電時間を無くす。
周波数
各事業者が占有して使うことを前提に割り当てられている周波数は、IP技術を応用して空いた帯域を複数事業者でシェアすることが可能になるという。個人に専用の電波を割り当てる「Massive MIMO」や4G電波に5G信号を混ぜる「DSS(ダイナミックスペクトラムシェアリング)」を発展させ、周波数の有効利用を進める。
超安全
量子コンピュータが実用化されると、インターネットの暗号化技術であるRSA暗号が解読でき、通信内容を盗まれる可能性があるという。これの対策として、耐量子計算機暗号(PQC)や量子暗号通信(QKD)などの技術検証に取り組み、安全なネットワークを実現する。
耐障害性
社会インフラとしての役割を強めるモバイルネットワークを通信障害が発生しても維持するため、従来の通信構造を見直す。
ネットゼロ
大量のセンサーや端末からのデータなどでCO2排出量を監視し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「ネットゼロ」の達成に大きく寄与できるという。
プライバシー情報の取り扱いや情報セキュリティにおける課題の解消の他、基地局のカーボンニュートラル化を目指して日中に充電した電気の夜間利用、通信量に応じた基地局のリアルタイム制御を行い、消費電力を最小化する。
6Gは5Gの特長である超高速、超低遅延、多数同時接続をさらに高度化し、信頼性やエネルギー効率の向上といった技術革新が期待されている。ソフトバンクは6Gの社会インフラ化に向けて、活用範囲を拡大し、耐障害性の強化やCO2排出の抑制にも寄与するという。
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