「一括1円」と「実質1円」は何が違う? スマホの割り引きは“からくり”に要注意!:元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(2/2 ページ)
最近、スマートフォンを「一括1円」とか「実質1円」で販売する光景をよく見かけます。中には税込みで2万2000円を超える割り引きも見かけます。しかし、どういう“からくり”で割り引きをしているのか、よく確認しないと損をすることもあります。まとめて確認していきましょう。
端末単体販売でも割引するなら「2万円超」を実現可能
そうなると、最近よく見かける「2万円を超える割引は違法じゃないか?」と思う人もいると思います。しかし、法令で定めた割引の上限規制は、以下のいずれかに当てはまる場合は上限額が緩和されるか、適用されません。
- 在庫端末や旧型端末の処分を目的とした販売
- 法令に定める条件を満たせば、50〜80%引きで販売可能
- 終了予定の通信サービスからの移行を目的とした販売
- 0円未満にならないように割引販売可能
- 移動できない措置を講じた回線と組み合わせた端末の販売
- ワイヤレスホームルーターや携帯電話回線を使った固定電話サービス用端末を想定
- 端末の単体販売でも適用できる割引を使った端末販売
上記の例外で一番注目すべきなのが「端末の単体販売でも適用できる割引を使った端末販売」です。回線契約とひも付く割引は税別2万円の上限規制が適用されますが、回線契約とひも付かない割引であれば、額の制限がないのです。実例を見てみましょう。
例3:auの「iPhone 12 mini」が5万円超の割引
例1や例2で挙げた別の家電量販店のau(KDDI)コーナーでは、iPhone 12 miniの64GBモデルが税込み7万1650円、128GBモデルが税込み7万7125円で販売されていました。しかし、MNP契約ではこれらの端末が税込み5万1770円引きとなります。
金額だけを見ると明らかな法令違反に思えるのですが、実は法令違反にならないようにするための“からくり”がなされています。この割引は以下の通り2つの割引を組み合わせたものなのです。
- 合計割引額:税込み5万1770円
- 店舗特別値引き(MNP限定):税込み2万2000円
- 対象機種限定特典(回線契約条件なし):税込み2万9770円
MNP契約を条件とする「店舗特別割引」は税込み2万2000円です。この割引は回線契約を条件としているため、法令による上限規制が適用されます。
もう1つの割引である「対象機種限定割引」は、その店舗で端末を購入することが条件となっています。そのため、法令による割引額制限の適用対象外です。立て付け上、この割引は端末の単品購入時、MNPを伴わない新規契約や機種(契約)変更にも適用されます。
現在の法令では、規制対象の割引と規制対象外の割引を組み合わせることへの「規制」がありません。規制対象となる割引はしっかりと法令のルールに従いつつ、そこに法令の規制対象とならない“誰でも適用される”割引を上乗せすることで、5万円を超える割引を実現しているのです。
この割引手法には賛否の声が寄せられているものの、独占禁止法上の「不当廉売」に該当しない限りにおいて規制は困難だと思われます。税込みで2万円を超える割引を見かけた際は、割引の内訳をしっかりと確認してみてください。
ある家電量販店では、iPhone 12 miniの64GB/128GBモデルがMNP契約限定で5万1770円引きで販売されていました。一見すると法令違反に見えるのですが、割引の内訳をよく見てみると回線契約を条件とする割引は税込み2万2000円で、残りは端末を購入することを条件とする割引を適用しているため“適法”です
最近増えている「実質1円」「2年間で23円」ってどういうこと?
最近は一括払いによる割引とは別に、「実質1円」「2年間で23円」というチラシもよく見かけるようになりました。先ほどの「一括1円(0円)」と同じようにおトクそうに見えますし、実際に割引の仕組みも似ている部分があります。
しかし、「実質」「2年間」での手頃な価格には、「一括」とは決定的に違う部分もあります。言葉を選ばず端的にいうと割り引いても一括価格では手頃感を感じにくい端末(機種)を、“2年後に端末を手放す”という条件を飲むことで手頃に使えるようしているのです。
これも実例を挙げた方が分かりやすいので、実際の販売状況を見てみましょう。
例4:auの「Google Pixel 6」が実質1円
例3で出てきた家電量販店のauコーナーでは、「Google Pixel 6(128GBモデル)」が8万2695円で販売されていました。しかし、MNP契約をすると「実質1円」で購入できます。
実に8万2694円の割引……に見えるのですが、実際の割引額は異なります。内訳を見てみましょう。
- 合計割引額:4万3814円
- 5Gスマートフォンおトク割(※):2万2000円
- 対象機種限定特典(回線契約条件なし):税込み2万1814円
(※)MNP契約時、または22歳以下の契約者/利用者の新規契約時に適用
純粋な割引額を見てみると、回線契約を条件とするものと端末の購入条件とするものの合算で4万3814円。つまり「一括3万8881円」となります。
「あれ、残りの3万8880円の割引は……?」と思うでしょう。実は残りの3万8880円は割引ではなく、auが提供する残価設定型の分割払い「スマホトクするプログラム」において25カ月目に端末を返却した場合の残債の免除額(分割払いの残価)です。要するに、買ってから2年で端末を返却した場合に「実質1円」となるのです。25カ月目以降も端末を使い続けるには、残価(3万3800円)に対して24回の分割払いを再度設定するか、残価を一括払いする必要があります。
キッチリと2年ごとに買い換える人であれば、端末が手元に残らないことを受け入れることでおトクに使えることは確かです。しかし、端末の返却を忘れてしまうと(元の価格から値引きされているとはいえ)おトク感が減ってしまいます。
この例はauですが、残価設定型の分割払いと端末返却を組み合わせた購入プログラムは、NTTドコモでも「いつでもカエドキプログラム」として提供しています。ソフトバンクは残価設定型の分割払いを導入していないものの、48回の分割払いと端末返却を組み合わせた「新トクするサポート」を提供しています。
多くの家電量販店やキャリアショップでは、これらのプログラムを使って実質価格を提示しているケースもあるので、“本当は”いくらなのか、残価はいくらなのか、しっかりと確認するようにしてください。
例1と例2で示した家電量販店のドコモコーナーでは、iPhone 12 mini(256GBモデル)において例4と同じような販売方法を取っています。「実質23円+3万ポイント」なのですが、よく見ると残価として5万2800円が設定されているので、端末を返却しないと「一括5万2800円(ポイント還元を考慮すると2万2800円)」と同義となります
法改正直後よりは手頃になったが、分かりづらさも増している
2019年10月の電気通信事業法改正後、携帯電話の割引に上限規制が入りました。その結果、全体的に端末の販売価格が上昇して一部で「買い控え」の動きが出てしまいました。本連載でも過去に「売れなくなった」という売場の声を何度も取り上げてきましたが、販売員をやっていた筆者としても「え、そんなに売れなくなってしまったの?」と驚くほどの“冬”ぶりでした。
しかし、今回紹介したような販売手法を取るようになってから、店舗では以前のようなにぎわいが見られるようになりました。休日には受付窓口が全部埋まっているという光景も見受けられます。賛否はあれど「安く買える」ということは非常に重要なのだと痛感させられる所です。
しかし、ここまで述べてきた通り、新しい販売方法は割引の内訳をよく確認して把握していないと、忘れた頃に損をしてしまう可能性があります。分かりやすさの面ではむしろ後退したとも思います。
本当に欲しい機種への割引はどのようなもので、どういう計算の結果その金額になったのか――ぜひ店頭で確認を行って「買い方が自分に合っているか」しっかりと判断してほしいと思います。
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