「中容量」と「3G巻き取り」でMNOに対抗 NUROモバイルとHISモバイルの新料金プランを解説:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
生き残りをかけたMVNO各社は、これまでの枠組みに収まらないさまざまな料金プランを打ち出し始めている。4月1日に20GBの中容量プランを拡大したソニーグループのNUROモバイルは、そんなMVNOの1社だ。くしくも同じ3月最終週には、HISと日本通信が合弁で設立したHISモバイルも、5月中旬以降に導入する新料金プランを発表している。
100MB未満290円を打ち出したHISモバイル、そのターゲットは音声中心の3Gユーザー
中容量プランを拡充したNUROモバイルとは逆に、MVNOの魅力である“安さ”に磨きをかけたのが、HISモバイルだ。同社は2021年に1GBから7GBまで選択できる「格安ステップ」を導入していたが、これを置き換える形で新料金プランの提供を開始する。当初、提供時期は、6月上旬を予定していたが、同社代表取締役社長の猪腰英知氏は「5月中旬ぐらいまでにはいけるのではないか。できればゴールデンウィーク前には提供したい」と語り、前倒しを示唆している。
HISモバイルの新料金プランは、290円という価格が最大の特徴だ。290円は、1GBプランの金額で、使用したデータ容量が100MB未満の場合。データ使用量が100MB以上になると550円になり、1GBを超えると通信速度が制限される仕組みだ。100MBまでとなるとバックグラウンドで自動的に通信するスマートフォンにはあまり向かいないようにも見えるが、猪腰氏によると狙いは3G停波に伴い、フィーチャーフォンから移行するユーザーだという。
こうしたユーザーは通話の利用が中心になるため、通話料もMNOの半額以下となる30秒9円に設定。音声通話定額は「5分かけ放題」と「完全かけ放題」の2つを用意し、いずれも料金を抑えた。5分かけ放題は月額500円、完全かけ放題は1480円。100MB未満で290円になる料金プランと組み合わせると、前者が790円、後者が1770円になり、いずれも他のMVNOよりリーズナブルだ。
290円で維持されるユーザーばかりだと収益への貢献は低く、コストを賄うのが難しくなりそうだ。猪腰氏も「(全員が)290円だけだと厳しい」と認める。一方で、「全員がそこになるのではなく、実際には2割ぐらいで、他が(音声通話などを)使ってくれれば成り立つ」(同)。音声通話中心のユーザーであれば5分かけ放題か完全かけ放題をつけるため、ARPU(1ユーザーあたりからの平均収入)は上がるという見立てだ。
通話料がMNOや他のMVNOと比べて安価なのは、同社に回線を提供しているのが、音声卸の値下げに成功した日本通信だからだ。日本通信は、2019年11月にドコモとの交渉が不調に終わったことを受け、総務大臣裁定を申請。2020年6月に総務大臣裁定がくだり、原価に適正な利潤を足した額で音声通話を卸すことが決まっている。HISモバイルも、その恩恵を受けている1社。他社より卸価格が安い音声通話を武器にするのは、合理的な差別化戦略といえる。
20GBで2090円のNEOプランLiteと、100MB未満で290円の1GBプランは、金額もデータ容量も真逆だ。その中であえて共通点を見いだすとすれば、どちらも他社にない特徴を全面に打ち出した料金プランといえる。コスト構造が近く、料金プランが横並びになりがちなMVNOだが、2社の新料金プランを見ると、工夫の余地はまだまだ残されているようにも思えてくる。こうした多様化は、MVNOが生き残るための鍵になりそうだ。
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