なぜiPhoneで緊急通報できない不具合が起きたのか? その理由を考察する:MVNOの深イイ話(1/4 ページ)
2021年9月に「iPhoneと一部のSIMの組み合わせで緊急通報ができない」という事象が報じられました。IIJmioのeSIMを利用したときに現象が発生するということで、筆者が所属するIIJでも重大な事象であると考えました。今回はこの事象の経緯を振り返りながら、この件の周辺事情について考えてみたいと思います。
2021年9月に「iPhoneと一部のSIMの組み合わせで緊急通報ができない」という事象が報じられました。この事象は12月にリリースされたiOSのアップデートで解決しましたが、「緊急通報」という重要な機能が使えなくなるということで、大きな注目を集めることとなりました。今回はこの事象の経緯を振り返りながら、この件の周辺にある諸事情について考えてみたいと思います。
eSIM対応のiPhoneから緊急通報できない不具合
「iPhoneで緊急通報ができないことがある」という案内が公式に出されたのは2021年9月10日のことでした。この時点で確認された事象は次の通りです。
- eSIM対応のiPhone(iPhone XS/XRシリーズ、iPhone 11シリーズ、iPhone 12シリーズ、iPhone SE 第2世代) で発生
- SIMスロットにキャリアのSIMカードを装着、eSIMにIIJmioのeSIMを設定
- デュアルSIMで利用中に緊急通報 (110番、118番、119番) を行っても、発信できない (電話がかけられない)
この案内はiPhoneを販売しているキャリア4社(ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)および、IIJ(IIJmio)が公開いたしました。
非常時に利用するライフラインが利用できないということ、また、IIJmioのeSIMを利用したときに現象が発生するということで、筆者が所属するIIJでも重大な事象であると考え、IIJmioのWebサイト上のさまざまな場所で告知を行い、新規にeSIMを契約する方へ注意喚起を行いました。また、既にeSIMをご利用の皆さまには、「一時的にeSIMの利用を取りやめる」ことを含めた対策をとっていただくようにご案内を差し上げました。
その直後、9月24日に発売されたiPhone 13シリーズではeSIM機能が拡張され、2つのeSIMを使ったデュアルSIMでの利用が可能になります。これによって、従来と異なるSIMの組み合わせが実現できることになりました。
IIJでもiPhone 13を入手して追加実験を行ったところ、従来と同様の「SIM+eSIM」の組み合わせだけでなく、複数のeSIMでデュアルSIMを実現した場合にも同様の現象が発生することが確認されました。さらに、IIJmioのeSIMだけでなく、キャリアのeSIMを使った実験も行った結果、当初言われていた「キャリアのSIMカードとIIJmioのeSIM」の組み合わせ以外でも同様の事象が発生することが分かってきました。
最終的に緊急通報ができない条件は、以下のようなものだったと考えられています。
- SIMカード・eSIMに関わらず、複数のSIMをデュアルSIM状態で利用している
- 片方のSIMがデータ通信専用、他方のSIMが音声通話対応の場合
つまり、例えばMVNOの「データ通信専用SIMカード」と、キャリアの「音声通話対応eSIM」のような組み合わせでも発生するということです。IIJmioだけでなく、他のMVNOやキャリアとの組み合わせでも発生する現象だったのです。
その後、12月15日にAppleが配信したiOS 15.2アップデートを適用することで、この事象が発生しなくなることが確認されました。Appleからの告知は「日本国内でデュアル SIM をお使いの場合、デュアルSIMの設定によっては緊急電話をかけられない場合があります。緊急電話をかけるには、iOS 15.2以降にアップデートしてください」というあっさりしたものでした。
iPhoneについては上記のような経過をたどりましたが、同記事にPixel 6シリーズでも類似した現象が確認されます。これも音声通話非対応のSIMをデュアルSIMで使った場合に発生するもので、類似性を感じさせます。(アップデートで解決済み)
なお、Xiaomiのスマホでも緊急通報ができない可能性が案内されましたが、発生条件から推測すると、こちらは別の現象のように思われます。ただ、これもiPhone、Pixelの件がきっかけとなって発覚した事象でした(対象の各スマホに順次アップデートが配信)。
以降、iPhoneで発生した事象を中心に周辺事情を見ていきます。
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