既存ユーザーにゼロ円を継続したくても「電気通信事業法」の壁――ワンプランにこだわり、2つ目のプランは作らず:石川温のスマホ業界新聞
楽天モバイルが「月額0円から」のプランを廃止し、全ユーザーを月額980円からのプランに移行させることになった。他のキャリアであれば既存ユーザーには旧プランを提供し続けるだろうが、同社はそうしなかったのはなぜなのだろうか。
業界の常識を次々と覆してくる楽天モバイル。
おそらく、他の会社であれば、既存のユーザーはゼロ円プランを維持し、新規に契約するユーザーに対しては新料金プランとして、3GB 1078円を提供しているであろう。
この記事について
この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年5月14日に配信されたものです。メールマガジン購読(税込み月額550円)の申し込みはこちらから。
しかし、楽天モバイルはそういった選択は行わず、既存のユーザーに対しても自動適用させるという、これまでの常識を覆してきた。
なぜ、そんなことになったのか。
三木谷浩史会長は「正直に言えば、もう少しこのまま使ってもらってもいいかなと思った。ただ、電気通信事業法上で『それはダメだ』ということなので、『じゃ、どうしようか』と考えて、ほかのベネフィットをたくさんつけるかたちで対応させていただいた」とコメントした。
電気通信事業法のどこに引っかかるのか。改めて質問したところ、
「僕も最初はよくわからなかったんだけど、既存のユーザーをキープしたまま、新しいプランを出して他社に逃げないようにするっていうのはダメっていうことらしい」(三木谷会長)。
矢澤社長によれば電気通信事業法上の27条『既存顧客の囲い込み』にあたるという。楽天モバイル広報からは「新プラン提供開始以降に、旧プランの新規申込を停止した上で並行提供することについては、『電気通信事業法 第二十七条の三 第二項第二号』に抵触しうると当社としては考えております。月間データ通信量が1GB以下の場合における両プランの差額を割引と捉えると、その額は『一年当たりの利益の額が当該契約に係る一月当たりの料金を超える』に該当する可能性があると考えております」とのことだった。
三木谷会長は「うちはワンプランが売りなので、2つのプランを並べるというよりも、1つのプランにする必要がある。それから楽天とのシナジーを追求する必要があるということなので、当初の案としては既存ユーザーは当面そのままでもいいですよということを考えた」とのことだった。
電気通信事業法上の27条『既存顧客の囲い込み』については、長期契約ユーザーに対して、割引などを提供して、囲い込むことは許さん。競争政策上、ユーザーを辞めやすく、流動性を上げるために作った法律だった。
本来であれば、ユーザーに対して、安価に使える料金プランが提供され、他社が対抗上、値下げするのが法律の狙いであったはずだ。しかし、今回はこの法律が徒となって、楽天モバイルの値上げにつながってしまった。
楽天モバイルも「ワンプラン」にこだわりすぎるのも考え物だ。これを契機にすべてのユーザーに対して値上げをしたかったのかも知れないが、世間の反発やブランドイメージの毀損を回避するためにも「新料金プランは新規ユーザーから適用」が現実的な落とし所だったのではないか。
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