携帯ショップは“不適正販売”から脱却できるのか? 生き残りに必要なこと:ワイヤレスジャパン 2022(1/2 ページ)
ケータイショップが迎える“冬の時代”。継続的な収益確保が困難となる中でどう生き残りをかけるか。ワイヤレスジャパン 2022において、モバイル業界から3人の社長が戦略を語った(前編)
ここ数年、モバイル業界は政府の規制強化やコロナ禍で進むオンライン化など、ビジネス構造を揺るがす出来事が相次いでいる。携帯電話キャリアにとって大きな変化が求められているが、スマートフォンを実際に販売する店舗(販売代理店)においては、生存を欠けた構造改革が求められる状況となっている。
5月25日、ワイヤレスジャパン2022の中で開催された「デジタル変革時代におけるスマホ流通販売ビジネスの在り方」と題する講演で、携帯販売代理店業界から3社の社長が登壇し、“冬の時代”を乗り越える戦略を語った。
前編では、野村総合研究所(NRI)の共同パートナーでこの講演の仕掛け人である北俊一氏と、SAITO式グループの齊藤光一代表のプレゼンテーションから、業界の現在地と課題を再確認する。
“転売規制”を予告した北氏
「モバイル業界は冬の時代を迎えた」、NRIの北氏はこう切り出し、モバイル業界を取り巻く現状を振り返った。
5Gの本格展開を控えた2019年、総務省が実施した電気通信事業法の改正は、業界に衝撃を持って受け止められた。総務省が課したガイドラインは、通信回線の契約を条件としてスマートフォンを大幅に割り引く“セット値引き”を規制し、加熱するMNP獲得競争に冷や水を浴びせる結果となった。
また、大手キャリアに対しては、菅前首相が率いる官邸から携帯料金の値下げ圧力がかかった。これは2021年に、オンライン専用の新料金の導入ラッシュにつながった。NTTドコモのahamoや、KDDIのpovoなどの新料金プランは、オンラインでの契約を前提としており、販売代理店にとっては逆風といえる。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行による客足の減少は、モバイル業界にも大きな打撃を与えた。キャリアショップは来店予約制が原則となり、新規販売の機会を獲得することも難しい状況となった。
一方で、総務省は競争促進策として、MNPを利用するハードルを下げる措置も実施している。結果として、大手3キャリアは2年契約の解約料を原則として廃止することになり、ユーザーを引き留めることが難しくなった。販売代理店にとっては、ユーザーの継続利用を条件とした「継続手数料」の収益が減少する結果となり、一層深刻な状況に置かれる結果となった。
こうした販売代理店の現状について、総務省の政策審議にも関わる北氏は「冬の時代を迎えた」と表現する一方で、「一瞬端末価格が上がったが、その代わりに市場が健全になった」と評価する姿勢も見せる。
北氏が考える“健全な市場”とは、総務省が「通信と端末の分離」と表現する販売形態を指す。誰でもハイエンドスマートフォンを持つのではなく、利用する用途に応じて適切な性能のスマートフォンを選ぶことになる。PC市場のように、端末(PC)と固定回線サービスを別々に購入するイメージが近いだろう。
ただし、2021年半ばから、規制をかいくぐる新たな値引き販売の構図が見られるようになってきた。単体購入が可能な場合は2万円以上の値引きも許容されるという制度の穴をつき、iPhone SEの「一括1円」といった価格で販売する店舗が続出したのだ。この販売形態により、スマートフォンを単体で購入できるということを知っている人が買い回るようになり、いわゆる“転売ヤー”の増加という新たな市場のゆがみを生み出した。
この転売ヤーの横行に対して、北氏は「総務省のワーキンググループで一日も早く、転売してももうからないように規制を入れる」と発言した。転売ヤー対策は、総務省が6月22日に発表した「競争ルールの検証に関する報告書2022(仮)」の中で規制の方向性が示されている。
→・端末単体購入時の価格を分かりやすく表示すべき――総務省が「2万円超の値引き」対策の方向性を示す
販売不振の代理店にとっては、転売ヤーの存在は純粋な悪とも言い難い。転売ヤーによる積極的なMNPは、成績不振の代理店にとっては、販売ノルマを達成するための“てこ”となりうるためだ。転売ヤーの規制は製品流通の健全化には有効なものの、販売代理店にとってはさらなる逆風が強まることとなる。
転売ヤーに頼らず、冬の時代をどう生き抜くべきか。キャリアショップの新しい在り方を実践する存在として、北氏は3人の社長を講演の場に招いた。キーワードは「凡事徹底」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」「組織力の“リブート”」だ。
“日本一のドコモショップ”立役者が指摘する構造問題
SAITO式グループの齊藤光一代表は、販売代理店業界の30年に渡る歴史をふり返り、「抜け道探し、不正の連続だった」と喝破する。
「このままでは携帯ショップの役割がAIやショップに奪われてしまうと、5年前から警鐘を鳴らしてきた。それが今、現実になりつつある」(斎藤氏)と指摘する。
齊藤氏は店長として関わった店舗を“日本一のドコモショップ”として育て上げた経歴を持ち、現在は独自の組織論を全国の代理店に教授するコンサルタントとして活動している人物だ。
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