KDDIの通信障害で考えるべき「3つの課題」 障害を起こさないため/起きたときにどうすべきか(2/2 ページ)
KDDIが7月29日に記者会見を開き、7月2日から4日にかけて発生した通信障害の原因と再発防止策について説明した。障害の原因は「人為ミス」と「復旧手順の確認不足」だった。障害発生後の告知手段についても課題が残った。他社からのローミングによる緊急通報も、検討すべき課題だ。
障害発生後の「告知方法」と「復旧の定義」も課題に
障害発生後の告知手段についても課題が残った。KDDIは障害発生の翌日となる、7月3日に記者会見を開いて高橋氏自らが説明をした。これまで、通信障害が起きた際、記者会見は障害が復旧して原因や対策がまとまったタイミングが開くのが通例だったが、今回は障害が発生している最中という、異例のタイミングでの会見だった。これについて高橋氏は「大規模な障害があった場合、実際にどれぐらいの障害が起きているのかを伝えた方がよかったのではないか」と総務省から指摘があったことを明かす。
3日の会見はテレビや新聞をはじめとする多くのメディアが伝えたため、一定の効果はあった。ただ、これらが報道される2日から3日にかけては、肝心のau回線がダウンしているため、au端末で障害が発生したこと自体を知る手段がなく、auショップにユーザーが問い合わせに駆け込むという事態にもなった。
KDDI側も、どういった手法で発信することが有効なのかを検討していく。「今回は音声がダメだったので、SMSを使うのか、媒体については自分たちがコントロールできるメディアを作るとか、丁寧にご説明するのがわれわれの役目」と高橋氏。店頭での情報発信の仕方も統一すべきだろう。張り紙はもちろん、デジタルサイネージを使えばリアルタイムで情報の更新も行える。
「復旧」の伝え方も混乱をもたらした。加入者データベースの負荷低減とデータ不一致の工事は西日本エリアが3日11時、東日本エリアが3日17時30分に終了したが、KDDIはその際に「復旧作業が終了した」と伝えた。しかしそこから実際に復旧するまで1日前後かかったため、「工事終了が先に伝わってしまって、その時間になっても復旧していないとお叱りをいただいた」と高橋氏は振り返る。
障害発生直後から、迅速かつ事細かに情報を発信することは重要だが、ユーザーに誤解を与えるようでは本末転倒。また、安易に復旧見込みを伝えることで、その時間にユーザーのトラフィックが殺到してしまい、かえって障害を悪化させてしまう恐れがある。高橋氏が「復旧の定義を明確にして伝えることが大事」と話すように、「工事終了」「復旧作業終了」といった曖昧な言葉ではなく、「○%復旧」といった、具体的な進捗(しんちょく)が分かる形で伝えるか、完全に復旧するまでは安易に「復旧」という言葉は使うべきではないだろう。
障害が起きた際の対応策も再考の余地あり
どんなに綿密な再発防止策を練ったとしても、ヒューマンエラーを100%防ぐことはできないし、今後、通信障害をゼロにできるとは断言できないだろう。そこで、今後も同様の障害が起きたとき、被害を最小限に食い止める方策も必要になる。
今回は通話が利用できないことで、緊急通報も利用できないことが大きな課題となった。回線がダウンしても、他社の回線を借りて緊急通報を行う「ローミング」は、これを解消する策として期待されている。このローミングについて高橋氏は「ドコモやソフトバンクが積極的にやろうという報道があったが、われわれも実現する方向で考えている」と述べる。
ただしローミングを実現するには、検討すべき事項がある。「加入者交換機を分けるとか、仮想化の世界では可能性があると思っているが、実現するにはいろいろな選択肢がある。119番は(通話が切れた際に緊急機関が発信者に行う)呼び返しが必要だが、ローミングで実現できるのか、呼び返しがなくてもローミングをするのかなど、それらの選択肢がある中で実現したい」(高橋氏)
今回の通信障害では、Androidは音声もデータ通信も使えなかったが、iPhoneはデータ通信を利用できた場合があった。高橋氏も「iPhoneとAndroid、Androidの中でもメーカーによって振る舞いが違ったのは事実」と認める。
高橋氏によると、VoLTE交換機に接続できない場合、データ通信をどう取り扱うかの規定があるが、これは強制の仕様にはなっていないという。iPhoneのようなグローバルで展開している端末は、メーカー自身が規定しているため、「端末が実装しているモデムやチップ、通信のソフトウェアによって、データ通信が利用可能な頻度や時間に差分があった」(高橋氏)とのこと。
今回は期せずして、キャリアの仕様を取り入れていなかったiPhoneが障害中でもデータ通信が利用できるという状況になった。障害発生時におけるスマートフォンの振る舞いについての規定も、再考の余地があるといえる。
関連記事
- KDDI通信障害、「約款返金271万人」と「おわび返金200円」の根拠は?
KDDIが、7月2日から4日にかけて発生した通信障害に関するユーザーへの返金を発表した。約款返金として、24時間以上通信サービスを利用できなかったユーザーに、基本料金の2日相当分を返金する。その他、影響の大きさを鑑みて、3589万人に200円のおわび返金を行う。この「271万人」と「200円」の根拠はどこにあるのか。 - 通信障害の再発防止には限界も 緊急時の「ローミング」と「SIMなし発信」は実現するか
通信障害の原因究明と再発防止に乗り出しているKDDIだが、こうした事故は100%防げるとは限らない。規模の大小や時間の長短を問わなければ、1年に数回は起こること。その考え方を前提にしつつ、業界全体で影響を最小限に抑える取り組みをしていく必要がある。 - au/UQ mobile/povo携帯電話の通信障害は解消 焦点は「再発防止策」と「情報周知」に
KDDIと沖縄セルラー電話における携帯電話ネットワークの通信障害がようやく解消した。それに合わせてKDDIが再度記者説明会を開催し、今後の方針を説明した。 - KDDIの通信障害が完全復旧 5日15時36分に最終確認
KDDIは、7月2日1時35分から発生していた通信障害が復旧したことを発表した。個人と法人のサービス利用に問題がないことを、5日15時36分に最終確認した。音声通話やデータ通信が利用しにくい場合、端末の電源オン/オフの操作を試すよう呼びかけている。 - KDDIの通信障害なぜ長期化した? 過去の障害で得た知見も通用せず
KDDIが7月4日20時に、2日から発生している通信障害について、現状と復旧の見通しを説明した。通信障害の原因はVoLTE交換機の輻輳(ふくそう)だが、負荷低減を行ったにもかかわらず、音声通話が利用しにくい状況が続いていた。調査をしたところ、KDDIが運用しているVoLTE交換機18台のうち、6台が加入者データベースに不要な過剰信号を送信していることが判明した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.