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日本で“クレカのタッチ決済で乗車”は定着するか メリットと課題を整理する(1/3 ページ)

三井住友カードの決済プラットフォーム「stera」を公共交通機関向けに提供した「stera transit」。クレジットカードをリーダーにタッチして電車やバスなどに乗り、さらにタッチして降りる、といった従来通りの手順で交通機関を利用できるようになる。Suicaではタッチから0.2秒以内に処理が完結することが必要とされているが、stera transitも高速処理の工夫を施している。

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 公共交通機関向けに、クレジットカードのタッチ決済対応プラットフォームを提供する三井住友カードが、交通事業者らを対象にしたシンポジウムを開催。交通機関でクレジットカードを使ったタッチ決済の現状を説明した。

stera transit
stera transitで使われる自動改札機のデモ機。高見沢サイバネティックス製

世界ではタッチ乗車が拡大、日本ではstera transitが積極展開

 steraは、三井住友カード、GMOペイメントゲートウェイ、GMOフィナンシャルゲート、ビザ・ワールドワイド・ジャパンが構築した決済プラットフォーム。加盟店向けに決済端末「stera terminal」とともに提供されているが、このプラットフォームで公共交通機関向けに提供されているのが「stera transit」だ。

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stera transitのシンポジウムに参加した三井住友カードの大西幸彦社長(中央)、VisaのUrban Mobility部門Vice President and Global HeadのNick Mackie氏(右)、QUADRACの高田昌幸社長

 決済データ処理を行うセンター機能や、その決済データを各決済事業者に送信するネットワーク機能などのプラットフォームとしての機能は変わらず、公共交通機関に必要な機能を備えている点が違いとなる。

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steraは三井住友カードらが推進する決済プラットフォーム。その交通機関向けがstera transit

 交通機関向けに必要な機能を提供するためにQUADRACとも提携し、同社の決済・認証プラットフォームQ-moveがstera transitに組み込まれている。これによって、クレジットカードをリーダーにタッチして電車やバスなどに乗り、さらにタッチして降りる、といった従来通りの手順で交通機関を利用できるようになる。

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クレジットカードのタッチで鉄道に乗車できる。写真は福岡市地下鉄(2022年5月撮影)

 世界的に見ても、クレジットカードのタッチ決済を使った乗車が急激に広がっている。VisaのUrban Mobility部門のVice PresidentでGlobal HeadのNick Mackie氏によれば、世界で最初にクレジットカードのタッチ決済が採用されたのはマレーシアのクアラルンプール。これが2011年のことだった。

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最初はクアラルンプールの1カ所だけだった交通機関におけるクレジットカードのタッチ決済
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それが580都市まで拡大。しかも多くはここ3年の間に拡大した

 その1年後、2012年には世界的な導入の端緒にもなったといわれている英ロンドン交通局による導入がスタートしている。このロンドン交通局の10年に渡る事例では、従来のICカードOyster Cardや紙の切符を使った運営コストに比べて、30%の間接費を削減できたという。

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ロンドンの交通機関(ロンドン交通局のバス)でのタッチ決済の様子。撮影は2018年

 これを皮切りに、交通機関のタッチ決済対応は世界580都市以上にまで拡大。日本ではstera transitが積極的に展開を進めており、既に20道府県で30事業者がstera transitを採用してタッチ決済を導入している。現時点で多くは実証実験として位置付けられているが、バス事業者を中心に本導入も進められている。

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日本での導入状況

 海外の交通機関でタッチ決済が普及した理由は、そもそもクレジットカードのタッチ決済が早くから一般化していたからだ。「タッチ決済」という点では電子マネーで日本が先行したが、クレジットカードのタッチ決済は日本の対応は遅れた。反面、世界では電子マネーが多くの国でなかったため、クレジットカードのタッチ決済が普及し、交通機関での利用を後押し。

 Apple Payによるモバイル対応も普及を促進させた。クレジットカードだけでなく、スマートフォン、ウェアラブル機器でもタッチするだけで乗降できることで普及が加速。加えて、このコロナ渦で非接触ニーズが高まったことも、タッチ決済がさらに拡大した理由の1つだ。

 実際、Mackie氏によれば、580都市の多くは「この3年以内に始まっている」とのことで、「このトレンドは加速してとどまることを知らない」(Mackie氏)。

 世界では、Visaカードの決済件数に占めるタッチ決済の割合が約70%まで拡大。日本でもVisaブランドのタッチ決済対応カード発行枚数は約7000万枚まで増え、さらにカード更新時に必ずタッチ決済対応に切り替わるため、このままいけば2024年には全てのVisaカードがタッチ決済に対応することになるという。

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グローバルの決済の動向。黄色がタッチ決済で、2018年1月にIC決済を超えた。コロナ禍における行動制限によって急減したが、その後は大きく拡大した

 三井住友カードの大西幸彦代表取締役社長兼最高執行役員は「早晩、クレジットカードの決済はタッチ決済になる。世界の動きを見ても間違いない」と強調。世界580都市まで拡大したという状況で、「主要都市の中でトランジット(クレジットカードのタッチ決済による乗降)が使えないのはほぼ日本のみという状況。インバウンドが再開したときに、海外の人は使えて当たり前という考えで来日するのではないか」と大西社長は話し、日本でもstera transitを推進して、クレジットカードのタッチ決済をさらに一般化したい考えだ。

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世界の都市鉄道ランキングとタッチ決済の対応状況。非対応なのは3位のソウルと5位、13位、20位の日本の地下鉄

クレジットカードのタッチ決済の強みとは? 2023年には国際ブランドも拡大

 大西社長は、交通機関のタッチ決済対応について「インバウンドに有効だが、強みはオープンな仕組み」と話す。交通事業者がそれぞれ独自の決済手段を用意する必要はなく、利用者が普段から持っているクレジットカードで、そのまま乗車できるのがポイントだ。

 交通事業者にとっては、独自電子マネーを運用し、加盟店開拓などのコストをかける必要がない。既に世界中に利用者がいるため、クレジットカードの保有状況を心配する必要もないので、安心して導入できるという点は強みだ。

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既に広く使われているクレジットカードがそのまま使えるのがメリットだ

 「日本では交通系ICが普及し、処理速度など優れた決済手段だとは思うが、それでも交通利用の全てをカバーするのは難しい」と大西社長。交通系ICがあっても紙の切符を使う人もいるし、チャージをするために券売機で現金を使うという例もある。加えて大西社長は、「交通以外の利用では、クレジットカードに比べて(交通系ICの利用は)限定的」と指摘する。

 「既存の交通系ICと共存させることが非常に有効」と大西社長。これはVisaのMackie氏も同様の指摘をしており、交通系ICとクレジットカードのタッチ決済は必ずしも置き換えにならないと話す。

 このあたりは、交通系ICを推進する鉄道事業者に対して協調の姿勢を示すという意味合いもあるだろう。必要に応じて導入できる選択肢を提供するという立場だ。大西社長は、stera transitを収益の柱として育てるというよりも、クレジットカードの利用拡大に重要な接点となると判断し、交通機関への導入拡大に力を入れていく考えだ。

 三井住友カードらでは、交通機関でクレジットカードを利用すると、そのままそのカードを移動先で利用する、という点を強みとして位置付ける。ロンドン交通局の事例では、タッチ決済で乗降した人は、降車後に周辺の加盟店でそのままそのクレジットカードを使って買い物などをしており、加盟店の売上高、取引件数が10%上昇するという効果も見られたという。

 利用者にとっても、移動先での買い物、宿泊費精算などの消費に加えて、移動も全て1枚のクレジットカードにまとめられれば、経費精算や利用履歴の把握が容易になる。利用者側には、交通機関の乗車で得られたポイントがそのままショッピングに充当できる、といった利便性もある。

 日本におけるクレジットカードの交通機関でのタッチ決済には課題もある。現在、この事業はVisaが積極的に推進していることもあって、導入したものは全てVisaのタッチ決済にしか対応していない。

 MastercardやJCBといった他の国際ブランドの対応は、これまでも「早期に対応したい」という段階だったが、「2023年3月ごろまでに、他の国際ブランドにも対応する」(三井住友カードアクワイアリング本部Transit事業推進部長・石塚雅敏氏)とのことで、年度内にはブランドが拡充される見込みだ。

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MastercardやJCBなど、他の国際ブランドにも23年3月ごろまでに対応する
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