鉄道・バスで「Visaのタッチ決済」が1年で38倍に “キャッシュレスの島”沖縄の現状(1/2 ページ)
鉄道やバスで「Visaのタッチ決済」の導入が広がっている。Visaは6月30日にオンライン説明会を実施し、タッチ決済を推進する狙いを語った。“キャッシュレスの島”となりつつある沖縄から、琉球銀行と東京バスの担当者が登壇し、キャッシュレス化の現状が紹介された。
ビザ・ワールドワイドジャパン(Visa)は6月30日、「Visaのタッチ決済」に関するオンライン説明会を実施した。公共交通機関における取り組みの現状と、沖縄県での事例が紹介された。
Visaのタッチ決済のような、クレジットカードのシステムを使ったタッチ決済の仕組みは、欧米を中心に普及している。日本ではコンビニやスーパーマーケットなどの小売り店から徐々に普及しつつある。
ビザ・ワールドワイド・ジャパンの今田和成氏(デジタルソリューションズディレクター)は、「Visaのキャッシュレス戦略の中でも、交通分野は重点領域だ」と話す。日本でもVisaのタッチ決済の利用が進みつつあるが、最も高い成長率を示しているのが公共交通機関だ。2022年1〜3月のデータでは、交通分野での取引件数は前年度の38.1倍を記録したという。
Visaのタッチ決済の導入が進む背景
Suicaや楽天Edy、WAONといった先行する電子マネーがある中で、Visaのタッチ決済の普及のカギとなるのが公共交通機関だ。Visaでは、鉄道、バス、フェリー会社と協力し、2022年6月末時点で、全国の26のVisaのタッチ決済の実証実験を進めている。
日本では全国に交通系ICカードが普及しているが、地方の鉄道やバス路線では、いまだに現金のみの支払いという路線も存在する。こうした地方路線にSuicaなどの交通系ICカードを導入すると、維持費が高額になり、採算が合わない可能性がある。沖縄県の「OKICA」など、地域独自の交通系ICカードを導入している例もあるが、県外から来る観光客には対応できない。
こうした地方路線で、国際ブランドのVisaのタッチ決済を使えるようにすれば、システム導入費用を抑えつつ、キャッシュレス化を進められる。さらに、鉄道なら磁気券の取り扱い減少でコスト削減効果が見込める他、バスでは運転士が現金を集計する負担を減らせるなど、業務の効率化にもつながる。
また、タッチ決済はインバウンドとの相性も良い。タッチ決済で公共交通機関に乗車するシステムは「オープンループ」と呼ばれるが、既に米国、英国、シンガポール、オーストラリアなどの欧米各国の都市部で導入されている。訪日外国人にとっては慣れた方法で、Visaブランドのクレジットカードさえあれば、現地で交通系カードを購入する手間もなく利用できるため、利便性の向上につながる。
Visaのタッチ決済の導入により、地域経済への波及効果も期待できるという。Visaが実施した調査では、ロンドンでタッチ決済乗車券を利用した乗客は、小売り店などでも一般利用者と比べて2倍の決済件数があり、決済金額も70%上回ったという。また、ニューヨークでは地下鉄でのVisaのタッチ決済の導入後、駅周辺でのカード利用件数が15%アップしたとしている。
“キャッシュレスの島”を目指す沖縄
国内におけるVisaのタッチ決済の導入事例の中で注目すべき事例が沖縄県にある。世界的なリゾート地でもある沖縄では、沖縄県が決済機器に補助金を出すなど、県を挙げてキャッシュレス決済の導入を進めている。
沖縄でキャッシュレス導入の旗振り役を務める1社が琉球銀行だ。2017年より、銀行本体がVisaの加盟店契約会社(アクワイアラー)となり、Visaなどの国際ブランドや電子マネーとQR決済の導入を進めている。
琉球銀行では糸満市や名護市、宮古島市、石垣市、与那国町など17の県内市町村とキャッシュレス推進連携協定を締結しており、沖縄本島と離島の両方でキャッシュレス決済の導入を進めている。
中でも、与那国町(与那国島)の例はキャッシュレス化が急速に進んだ事例となっている。日本最西端の島である与那国島では、もともとキャッシュレス決済対応は空港空港のカウンターのみという現金社会だった。2017年に琉球銀行と協定締結を締結した後、現在では旅館、民宿、レンタカー、ガソリンスタンドなど50を超える店舗でキャッシュレス決済に対応。来島客がSNSで「キャッシュレスアイランド」と話題にするほど浸透が進んでいる。
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