「0円」で集めたユーザーを手放した楽天モバイル プラン改定の功罪を読み解く:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
0円からスタートする「Rakuten UN-LIMIT VI」の廃止により、楽天モバイルからユーザーが大量に流出していることが明らかになった。解約数は新規加入者数を大きく上回っており、四半期ごとの契約者数は、MVNOも合わせると22万の純減だが、楽天モバイルにとっては、これは必ずしも悪い話ではない。料金を毎月払うユーザーの比率が高まり、経営状況が大きく改善するからだ。
第3四半期からARPUの上昇が本格化するが、ブランドイメージをどう回復させるか
とはいえ、料金を払っていなかったユーザーが離脱すれば、おのずと楽天モバイルのARPU(1ユーザーあたりの平均収入)は上がることになる。ARPUを算出する際の分母が減るからだ。残ったユーザーも、最低1078円支払うことになり、収益性は大きく改善する。実際、楽天モバイル三木谷氏は9月以降、ARPUが現状の1.5倍まで上昇するとの見込みを明かしている。
単にARPUが上がるだけではなく、0円ユーザーが減れば、コストの削減にもつながる。1GB以下でも、ローミングでKDDI回線を使われれば、ローミング費用が発生していたからだ。Rakuten Linkでの音声通話も無料だが、これも他社に発信すれば、楽天モバイルに接続料が課される。端末割引や楽天モバイル契約時につく楽天ポイントも、同社にとってのコストだ。0円で利用するユーザーがいなくなることで、こうした負担は軽減される。
UN-LIMIT VII発表後に契約したのは、ある意味“覚悟を決めてきた”ユーザーだ。そのため、発表後の契約者は、発表前と比べ、楽天モバイルをメイン回線にした割合が8.3%高く、料金が上限に達する20GBを超えるユーザーも5.7%ほど高まっているという。同様に、UN-LIMIT VIIでは、楽天市場でのポイント付与率が最大で2%アップすることもあり、楽天エコシステムへの貢献度も上がる。三木谷氏は、「われわれにとっての優良ユーザーに変えて成長していく上でよかった」と語る。
第2四半期には、その成果が既に出始めている。前四半期に約1350億円計上していた赤字がピークアウトし、第2四半期には1242億円にまで減少。現状では無料が継続しているユーザーが残っていることもあり、どちらかといえばユーザーの規模を拡大してきたことや、ローミング費用を圧縮してきた効果の方が大きいとみられるが、第3四半期からは、ARPUの上昇が本格化する。来年(2023年)度の単月黒字化を目指していた楽天モバイルだが、料金プランの改定でその実現度が増したといえそうだ。
一方で、0円から始まる料金プランを廃止すれば、ARPUが上がるのはある意味当たり前の話。ユーザーの維持にはコストがかかることも、開始前から分かっていたはずだ。赤字を垂れ流してまで、背伸びをして契約者を獲得していた戦略には疑問符がつく。当初からUN-LIMIT VIIのような料金体系を打ち出していれば、ユーザー数はここまで伸びなかった半面、赤字を圧縮できていた可能性はある。朝令暮改で料金プランを廃止したことで、ブランドイメージにも傷をつけてしまった。
覆水盆に返らずで、0円プランを導入してしまった事実は変えられないが、獲得コストをかけて集めたユーザーを一気に放出してしまう料金プラン改定は、本当によかったのか。多くのユーザーが有料のプランしかない他社に転出していることを踏まえると、“0円死守”が絶対的な条件ではないようにも見える。楽天モバイルは、段階制の料金プランを採用しているため、使ってもらえばARPUはおのずと上がっていく。その工夫が十分だったかは、振り返ってみる必要がありそうだ。
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