「プラチナバンド」獲得に自信を見せる楽天モバイル それでも課題が山積の理由:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
楽天モバイルに対するプラチナバンド割り当てる際の議論が、ユーザーを巻き込んで物議をかもしている。電波法の改正により、特定のケースで、各キャリアが現在利用中の周波数を手放すことを余儀なくされる。一方で、再編に伴う期間や費用負担に関しては、楽天モバイルと既存事業者3社の意見が平行線をたどっている。
費用負担ありなら1社をターゲットに、矢澤氏が語る楽天モバイルの主張
楽天モバイルの矢澤氏は、この点に強く反論する。同社も「フィルターの有効性がないとは言っていないし、一定の改善はできると思っている」というものの、「極めて一部の改善で、なくてもオペレーション上、大きな支障はないのではないか」という。先に挙げた、妨害波が-40dBmや-41dBm以上になるのは「出現確率が極めて低い」というのが楽天モバイルの主張だ。矢澤氏は、「理論値では出る数字だが、宝くじに当たるようなもの。フィルターなしでもオペレーションには影響がない」と語る。
確かに、-40dBm以上の出力が端末から出るのは、一部のケースに限られる。端末側が出力を上げるのは、基地局から遠く離れている場合。矢澤氏が「楽天モバイルの基地局が非常に遠くにある場合でないと、マックスでパワーは出ない」と言うのには一理ある。さらに、「楽天モバイルの通信と他社の通信が同時に存在して、初めて妨害が起こる」。「場所率、時間率の掛け算で、低い確率にならないと発生しない」というわけだ。
もちろん、「業界スタンダードではなく、自社の品質を考えたうえでフィルターが必要というのであれば、文句を言う筋合いはない」。ただし、この場合、あくまで既存3社が自己都合でフィルターを挿入していることになる。このロジックだと、「自社基準で入れているので、費用負担は(する必要が)ない」というのが楽天モバイルの主張だ。既存3社から「自社の判断で入れるという発言があった」というのも、その根拠だという。
周波数の移行にあたっては、早期の実現を可能にするため、新たにその周波数を利用するキャリアが費用を負担することがある。「終了促進措置」と呼ばれる仕組みが、それだ。過去には、700MHz帯、1.7GHz帯や3.4GHz帯などの移行に活用されてきた。こうした仕組みがあるため、楽天モバイルが費用を負担するのは自然なようにも思えるが、今回は「(各周波数の)使用期限の後に使うことになり、法的に見ても終了促進措置にはならない」。新たなルールにのっとって周波数を獲得するなら、楽天モバイルがその費用を負担する必要はないということだ(ただし、KDDIやソフトバンクは終了促進措置にあたると主張している)。
楽天モバイルが費用負担を簡単に飲めない事情もある。そのコストが巨額になるからだ。再割り当てにあたり、各社が算出したコストは、ドコモが1150億円、KDDIが1062億円、ソフトバンクが750億円。ここには、帯域幅が減った分をカバーするための基地局増設などによる容量対策が含まれる。レピーター交換やフィルターの挿入だけに絞っても、ドコモが650億円、KDDIが912億円、ソフトバンクが550億円で、3社合計すると2000億円を上回る。
矢澤氏は「プラチナバンドを取っても、3社のように専用機器を置く必要はなく、1.7GHz帯とコロケーションでラジオヘッド(アンテナ)を置いていくだけで費用も安くなる」というが、プラチナバンドを遠くまで飛ばすとなれば、鉄塔などを新たに建てなければならないケースも出てくるだろう。これに加え、移行費用も負担するとなれば、黒字化を達成できていない楽天モバイルには荷が重い。各社から5MHzずつを譲ってもらう案は、見送らなければならないだろう。
実際、矢澤氏は「仮に5Hzずつで費用も負担しろ、スタートするのには10年かかるというのであれば、1社(だけをターゲットにする方針)でいこうと思っている」と語る。3社のうち1社の周波数を丸々楽天モバイルに移行するのであれば、干渉の心配をする必要がなく、リピーターも単純に楽天モバイルが増設していくだけで済む。「1社(が丸ごとどくなら)ならフィルターもいらないし、リピーターの交換も必要ない」というわけだ。
そもそも、楽天モバイルが3社に5MHzずつ要求しようとしているのは、「他のキャリアにとってもフェアだから」だという。
「例えばドコモならドコモに、そっくりそのまま使わせてほしいと言うことはできるが、ドコモのユーザーに迷惑になるのは道理的にどうなのか。少しずつ分けてくれれば、既存のユーザーも今まで通りに使うことができる」
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