KDDIの通信障害が「業績」と「業界」に与えた影響 水面下で進むキャリア間での連携:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
KDDIの上期業績は、増収は維持したものの、7月に大規模通信障害を起こしてしまったことで利益が減少。通信障害は新規契約にも影響を与え、回復までに時間を要した。通信障害対策として中期で総額500億円を投じ、仮想化基盤への早期移行やAIによるネットワーク監視の高度化を行う。
KDDIは11月2日、決算説明会を開催。第2四半期を含む上期の業績を発表した。値下げ影響が続く中、増収は維持したものの、7月に大規模通信障害を起こしてしまったことで、利益は減少。通信障害は新規契約にも影響を与え、回復までに時間を要した。また、通信障害対策として中期で総額500億円を投じ、仮想化基盤への早期移行やAIによるネットワーク監視の高度化を行う。来期以降は、こうしたコストも積み上がっていく見通しだ。
ここでは、決算に基づき、通信障害が業績に与えた影響や、同社がどのような対策を打とうとしているのかを解説していく。
返金影響もあり上期は増収減益に、8月以降は回復に向かう
7月2日に発生したKDDIの通信障害は、上期の業績を直撃した。最も直接的な影響を与えたのは、ユーザーに対する返金だ。KDDIは、8月分の料金から一律で200円を割り引く「おわび返金」を実施。24時間以上連続して全ての通信が利用できなかったユーザーに対しては、約款に基づき、基本使用料の2日分相当を減算している。返金が業績に与えた影響は約75億円。ここに燃料費高騰の影響が加わった結果、営業利益は前年比で146億円ほどの減益になった。
通信障害と燃料費高騰の影響は、トータルで148億円。仮にこれがなかったとすると、「微々たるものだが、増益になっていた」(代表取締役社長 高橋誠氏)。料金値下げの影響が続く中、何とか増益ペースを保っていたKDDIだが、通信障害への対応と燃料費の高騰を受け、減益に転じてしまったというわけだ。返金はダイレクトに収益を減らす要因だが、間接的な影響もある。それが新規契約者数だ。
高橋氏によると、「7月は通信障害でお客さまから信頼を失った部分があり、新規契約者数に影響があった」(同)という。店頭の混乱があり、契約者獲得に支障が生じたようだ。また、通信障害を機に、KDDI回線を解約するユーザーも増加した。これに伴い、「マルチブランド解約率」が「7月の影響を若干受けた」(同)といい、第2四半期は0.94%に上がった。第1四半期は0.92%だったため、解約率は0.02%上昇した格好だ。
大規模通信障害の影響が色濃く出た第2四半期の決算だったが、対策は既に講じている。まず、返金影響は1回限りで一時的にとどまるため、第3四半期以降に影響は出ない。新規契約者数も「営業サイドがコンタクトをしっかりやり、8月以降はそこが落ち着いて従来の新規の数まで戻っている」(高橋氏)という。特に、好調なのはサブブランドのUQ mobileで、ユーザー数は「600万を超えてきたところ」(同)まで増加。オンライン専用ブランドのpovoも、「1.0と2.0を含めて150万超ぐらい」(同)まで伸ばしている。
結果として、au、UQ mobile、povoを合わせたマルチブランドID数は「第1四半期で前期から減ったが、第2四半期は第1四半期と同じ3093万で、7月がへこんだ分を8月、9月で取り戻している」(高橋氏)。第3四半期にあたる10月以降も、「3ブランドでの数字は順調に拡大している」(同)という。7月以降増加した解約率も「障害によって継続的に増えている状況ではない」(同)といい、一時的な影響にとどまる見通しだ。
これに加え、1GB以下0円の料金プラン「UN-LIMIT VI」を廃止した楽天モバイルからの流入も回復しているという。受け皿になっているのが、povo2.0だ。高橋氏は、「障害があった7月は少し減少したが、8月以降は戻ってきている。10月は例のキャンペーン(既存ユーザーへのポイントバックによる実質無料措置)の最終月なので、下旬にワーッと上がってきている」と語る。MNPの動向も含め、通信障害で変わった流れが戻ってきている様子がうかがえる。
関連記事
- 非常時の事業者間ローミングはどこまで有効なのか? 検討会で浮き彫りになった課題
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、総務省で事業者間ローミングの検討が始まった。ネットワークを運用するMNO(通信キャリア)に関しては4社とも賛同の意向を示している。一方で、現時点で有力視されているローミングの方式だと、検討会の発端になったコアネットワークで起こる大規模な通信障害には対処できない。 - 通信障害で減益のKDDI 高橋社長「スマートウォッチ2台で24時間アラートが来るようにしている」
KDDIは11月2日、2023年3月期第2四半期決算を発表した。売上は伸びたものの、7月に発生した通信障害の対応と燃料費の高騰によって増収減益。高橋誠社長は、業績自体は好調だとして、通期での増益と注力領域の拡大に努めていく考えを示した。 - 楽天モバイルのプラチナバンド割り当て、1年以内は「さすがに不可能」とKDDI高橋社長
KDDIの高橋誠社長は、楽天モバイルが求める周波数の再割り当てについて、その主張を一蹴した。エリア拡大は「非競争分野」であり、必要なエリアではKDDIのローミングを使えばいいとの考えを示している。楽天モバイルが求める800MHz帯は、既存3社が使っている帯域で、総務省や有識者会議の構成員も「よく理解しているので、(1年以内は)無理だと思う」とけん制する。 - なぜ「SIMカードなし」のスマホから緊急通報を利用できないのか?
7月2日から発生したKDDIの通信障害により、緊急通報が利用できない事態に陥りました。こうした状況を受け、障害発生時には緊急通報だけでも他社回線を使って発信できないのかという指摘も出始めています。一方、SIMカードのない状態で緊急通報は利用できないのでしょうか。 - KDDIの通信障害で考えるべき「3つの課題」 障害を起こさないため/起きたときにどうすべきか
KDDIが7月29日に記者会見を開き、7月2日から4日にかけて発生した通信障害の原因と再発防止策について説明した。障害の原因は「人為ミス」と「復旧手順の確認不足」だった。障害発生後の告知手段についても課題が残った。他社からのローミングによる緊急通報も、検討すべき課題だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.