“やめたいMVNO事業”を引き継ぐサービス「まかせるMVNO」が生まれたワケ(1/3 ページ)
2017年ごろから淘汰(とうた)が進み、一定規模以上のMVNOが残った格好だが、現時点でも事業者数は増え続けている。このような市場環境に目をつけ、「MVNOの承継」そのものをサービス化した事業者が登場した。それが、スマートモバイルコミュニケーションズが始めた「まかせるMVNO」だ。
2022年3月時点で700に迫る勢いで増加しているMVNOだが、もともと“格安”を売りにしているだけに、収益性が低く、撤退する事業者も少なくない。キャリア各社がサブブランドやオンライン専用ブランドに注力し始めたことも、競争環境の変化に拍車を掛けている。目立ったところでは、2017年に楽天モバイル(当時はMVNO専業)がプラスワン・マーケティングからFREETELのMVNO事業を承継。2019年には、DMM mobileを吸収している。
LINEモバイルも、もともとLINEが運営していたMVNOだったが、2018年にソフトバンクと業務・資本提携を結び、傘下に入った。その後、LINEとヤフーの経営統合を経て、LINEモバイルはソフトバンクに吸収された。サービス自体は今でも提供しているが、オンライン専用ブランドのLINEMOが主力になっている。事業譲渡ではないが、2017年にはNTTぷらら(現・NTTドコモ)もMVNO事業から撤退。ぷららモバイルLTEのサービスを終了している。
2017年ごろから淘汰(とうた)が進み、一定規模以上のMVNOが残った格好だが、現時点でも事業者数は増え続けている。大々的なニュースにならない形で、ひっそりとサービスをたたんでしまう事業者は出てくるはずだ。このような市場環境に目をつけ、「MVNOの承継」そのものをサービス化した事業者が登場した。それが、スマートモバイルコミュニケーションズが始めた「まかせるMVNO」だ。同社の代表取締役社長、鳥越洋輔氏に狙いを聞いた。
お客さんがいるので、MVNO事業は安易にやめられない
―― まかせるMVNOとは、どういうサービスなのかを教えてください。
鳥越氏 やめたがっている企業に手を挙げていただき、合理的に買い取る仕組みです。サービスとも言えますが、単なるM&Aと見ることもできる。構造的にはM&Aです。ただ、通常のM&A、例えば小売でもシステム統合が必要で、一見簡単そうでも裏側が大変だったということはままあります。携帯電話業界はさらに大変で、裏側の保守や決済代行の引き継ぎがあるのはもちろん、上流といわれているMVNEとの連携システムごと持ってこなければなりません。これを統合するのはなかなか大変で、買いたいと思うところがあっても、安易に統合ができません。
実際、分離したまま二重投資している企業もあると聞いています。われわれは過去に複数社を引き受けたことがあり、大変な思いをしながら運営していますが、お客さま目線で評価をいただけています。このM&Aをサービスと位置付け、「売りたい」「やめたい」「赤字だからしんどい」という企業に手を挙げていただくきっかけを作る準備をしています。
これまではM&Aの仲介事業者を介してマッチングするしかなかったのですが、なかなか紹介してもらえない。ある企業のつてで買いたいと言っても、仲介業者に教えてもらえない――こういうことが、世の中にたくさんあるという仮説を立てています。
ただ、お客さんがいるので、安易に放り出せないのだと思います。飲食店だと、店舗を閉め、従業員がいなくなればやめられますが、サブスクの難しいところです。今は、1000社を超える会社がMVNOを標ぼうしていますが(二次以降のMVNOも含む)、総務省の発表では年々増え続けています。一方で、3万回線を超える企業はほんの一握りしかいない。恐らく、ほとんどの企業はもうかっていない。裾野は広そうだと予想しています。
数千回線程度だと、業務管理だったりカスタマーサポートだったり物流だったりで、固定費がかさみます。3000回線と1万、2万回線だと、ここがそんなに変わらない。ターニングポイントは2万や3万なので、実は多くが赤字なのではないかと思います。
―― どういう形で事業を引き受けるのでしょうか。
鳥越氏 具体的には、MVNEに対する支払いや、エンドユーザーに対する請求などまでひっくるめて、全て引き受けます。基本的にはマージンが取れると思って買い取っていきますが、不採算な事業に価値がつき、かつお客さまに迷惑が掛からなければ売りたいというところはあると思います。なぜわれわれがやるのかというと、実績があるからです。5社、6社と経験していて、どこに重きを置けばいいのかは分かっています。
まずサポート体制ですが、スマモバをローンチした際には、カスタマーサポートの体制が悪すぎると総務省からご指導を受けてしまいました。それを真摯(しんし)に受け止め、コールセンターの拡張や教育の充実には、かなり投資をしてきました。例えば、多くのMVNOは有人のコールセンターを配置していませんが、メールやチャットより、オペレーターが受けた方が解決率も満足度も高いので、標準配置しています。われわれが引き受けた方が、ユーザー側から見たときの満足度は高くなるのではないでしょうか。
また、われわれはMVNOを伸ばしていく立場で、サービススペックを見たときにも、どんどん投資ができます。5Gをやりたい、eSIMをやりたいというようなこともできます。投資のモチベーションがないところが続けるより、ユーザーもハッピーだと思います。ユーザーサポートや採算性の観点に加え、サービスを終了することによる顧客への影響や風評被害もなくなります。事業譲渡していただければ、そういったデメリットが丸々解決するということですね。
関連記事
- 終了したいMVNO事業を譲渡できる「まかせるMVNO」 スマートモバイルコミュニケーションズが提供
スマートモバイルコミュニケーションズは、11月7日に「まかせるMVNO」をリリース。MVNO事業の終了を検討している事業者が、同社へサービスを譲渡できる。 - MVNO市場は回復基調に、シェアはIIJが1位 MM総研の調査から
MM総研は、6月23日に「国内MVNO市場調査(2022年3月末時点)」の結果を発表した。独自サービス型SIMの回線契約数は1259.4万回線(前年同期比0.2%減)となった。2022年3月末時点で独自サービス型SIM市場の事業者シェア1位はIIJ。 - MVNOサービスの回線数が約19%減 サブブランドやahamoなどの影響受け
MM総研が発表した「国内MVNO市場調査(2021年9月末時点)」によると、独自サービス型SIMの回線契約数は1239.5万回線と前年同期比19.3%減に。2021年3月末調査に続き、二半期連続で前年同期を下回る結果となった。 - DMM mobile買収の衝撃 “MVNOの楽天モバイル”はどこに向かうのか?
楽天モバイルのMNO事業開始から3カ月を切ったタイミングでのDMM mobile買収は、業界に大きな衝撃を与えた。楽天モバイルは買収の理由として「顧客基盤の強化」を挙げている。MNOへの新規参入を控えたこの時期に、なぜあえて他のMVNOを買収したのか? - 楽天はなぜFREETELのMVNO事業を買収したのか? 楽天 大尾嘉氏に聞く
業績が低迷したFREETELのMVNO事業を承継した楽天。これにより、楽天モバイルの回線数は140万を超える。楽天はなぜ、FREETELの買収を決めたのか? 同社のMVNO事業を率いる執行役員の大尾嘉宏人氏に聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.