スマホのeSIMを“かんたん”にIoT機器へ実装 IIJが新技術「LPA Bridge」を開発
スマホのeSIMを“かんたん”にIoT機器へ実装。そんなことを可能にする技術をインターネットイニシアティブ(IIJ)が開発。その名は「LPA Bridge」。
インターネットイニシアティブ(IIJ)は、ウェアラブル機器やIoTデバイスで、コンシューマー向けeSIMを利用可能にする新技術「LPA Bridge」を発表した。
LPA Bridgeの誕生に至った背景
eSIMとは通信に必要な情報を含むeSIMプロファイルを、インターネット経由でダウンロード(リモートプロビジョニング)し、物理SIMを使わずにモバイル通信サービスを利用可能にするためのもの。eSIMのリモートプロビジョニングには移動体通信事業者の業界団体「GSMA(GSM Association)」により、「コンシューマモデル」と「IoTモデル」の2つの規格が定義されている。
1つ目のコンシューマモデルはスマートフォンのように入出力装置(キーボード、カメラなど)が具備された機器での利用を想定したもの。QRコードの読み取りやアクティベーションコードの入力などで、ユーザーが使いたい通信サービスを選択し、eSIMプロファイルをダウンロードすることが可能だ。こちらは既にスマートフォンやノートPCで採用されている。
「コンシューマー向けeSIMはWi-Fi環境化でeSIMプロファイル(英数字羅列)をQRコードにし、それをスマートフォンのカメラで読み込むという仕組みが一般的。つまりネット環境とカメラが必須となる。補足すると、スマートフォンと連携したコンパニオンデバイス、いわゆるApple Watchなどに内蔵されたUICC(ICカード)向けの実装もあるが、市場に多く出回っているものがスマートフォンで完結するものだ」(IIJ MVNO事業部 ビジネス開発部 シニアエンジニア 三浦重好氏)
2つ目のIoTモデルは入出力装置のないデバイスでの利用を想定したもの。「Linuxに代表される汎用(はんよう)OSや、汎用通信モジュールを搭載したものが多く、Wi-FiやBluetooth、それにRJ45(LANケーブル)、ローカル通信機能を備えている」(三浦氏)。だが、eSIMプロファイルの提供には通信事業者の支援が必要で、実質的に通信サービスの代理店やMVNOとなり、通信サービスの提供を行う必要があるなど、機器メーカーにとってはハードルが高く、普及が進んでいないのが現状だという。
IIJ 理事・MVNO事業部 副事業部長 中村真一郎氏は「スマートフォンへのeSIM搭載は積極的に進んでいる一方で、このコンシューマー向けeSIMの利便性をIoTに生かせるサービス、ソリューションがない」と指摘。デバイスメーカー側と、顧客側それぞれが抱えるデメリットを下記のように挙げた。
デバイスメーカー側
- eSIM IoTモデルの構築が困難
- 回線契約をデバイスメーカー名義でやらなければならない
- 顧客管理の仕組みが必要
- 請求の仕組みの対応
顧客側
- 決まったプランしか買えない
- 自由にプランや回線を変更できない
さらに従来eSIMをIoT機器に搭載するには、機器メーカーが事前に特定の通信サービスを提供する必要があり、開発や運用の大きな負担となっていた。
LPA Bridgeの概要
こうした背景を踏まえ、IIJが開発したのがLPA Bridge。入出力装置がない、ひいては画面、キーボード、カメラなどが十分ではない下記のデバイスに対し、スマートフォンやPCなどのコンシューマモデルでeSIMのリモートプロビジョニングを可能にする技術だ。
- 通信対応家電(ウェアラブル機器・ガジェット)
- 小型のIoT機器
- 組み込み制御機器
- LTEルーター
IIJではこれを実現すべく、GSMAによってコンシューマモデルに向けて標準化されているLPA(Local Profile Assistant:eSIMプロファイルのダウンロード・書き込みを行う機能のこと)を下記2つに分割した。
- アクティベーションコードの入力などインタフェース部分を担当する機能(LPA App)
- eSIMとリモートプロビジョニング用サーバ間の通信の中継を行うための機能(LPA Bridge)
その上で、デバイス内にLPA Bridgeを実装し、デバイスにeSIMを設定するための利用者の機器(スマートフォンやPCなど)内にLPA Appを実装する仕組みだ。
IIJはコンシューマー向けeSIMのリモートプロビジョニングフローと、LPA Bridge経由でのフローを次のように説明している。
コンシューマー向けeSIMのリモートプロビジョニングフローとしては次のようになる。まず設定用機器(スマートフォン)でQRコードをスキャンし、ダウンロードするeUICCプロファイルを認識。スマートフォン内のLPAがサーバからeUICCプロファイルをダウンロード。最後にその情報をeSIMに書き込む。
LPA Bridge経由では書き込みまでが先とほぼ同じ流れで、その先の手順はダウンロード時に行われるeSIMからリモートプロビジョニング用サーバ間の暗号化通信をLPA BridgeとLPA Appが中継する形となる。
なお、「デバイスに実装されたLPA Bridgeと設定用機器にインストールされたLPA Appは一体となってLPAに相当する機能として振る舞う」(三浦氏)ため、GSMAの規定するコンシューマモデルに基づきeSIMプロファイルをデバイスで利用できるようになる。
LPA Bridgeに関する補足として三浦氏は「セキュリティーに関する懸念点」を挙げた。「よく車内でeSIMを利用し、窓の外からいじられたら(eSIMを書き換えられたら)どうなるの? という質問を受け付けることがあるが、強固なパスワードでロックし、eSIMを入れるとのメニューを押した場合にのみ、このサービスが動くようにすることも理論的には可能」だという。
LPA Bridgeで生まれるメリットは?
LPA Bridgeで、コンシューマー向けeSIMをIoTデバイスに組み込めるようになると、何がどう便利になるのか? 中村氏はこのようにアピールした。
「デバイスメーカー側は製品の販売のみ行い、その顧客が通信サービスを購入できる。これにより、顧客からの通信料金回収、回線費用を含めてビジネスモデルの立案、顧客管理や利用のサポートといったことを行う必要がなくなり、ハードウェアの製作(ものづくり)に集中できるようになる」
「料金プランもキャリアの決めたものに準ずる形となり、それを顧客が自由に選べるようになる。実は業界では近い将来、スマートフォンからSIMのトレイがなくなり、eSIMオンリーになると予測されている。IoT機器でもコンシューマー同様に自由度が増す――。そんな世界観を実現したい」
今後はEdgeTech+ 2022に出展
IIJは商用レベルで利用可能なLPA BridgeとLPA Appの開発を完了したと発表したが、「特許は申請中」(三浦氏)だ。IIJは今後、IoT機器メーカーやデバイスメーカーに対し、LPA BridgeとLPA Appのライセンス供給を行う予定。
LPA Bridgeによりデバイスの販売や流通が容易になり、これらの市場がこれまで以上に活性化し、スマートフォン利用にとどまらない領域での通信需要が拡大するもの――とIIJは考える。既に複数のデバイスメーカーとの間で先行的に商品開発を想定したPoCを開始しているが、PoCに参加してもらうメーカーを募集したいとしている。
そのためIIJは2022年11月16日から18日までに開催される展示会「EdgeTech+ 2022」に出展し、IIJのブースでLPA Bridgeを展示する予定。
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