物理SIMなしiPhoneの登場も想定? IIJmioで音声対応eSIMサービスを提供する狙い:MVNOに聞く(1/3 ページ)
IIJは、10月にau回線を使った「タイプA」で、eSIMのサービスを開始した。同社は早くからドコモ回線でMVNO事業を展開してきただけに、なぜau回線から音声通話対応のeSIMサービスを開始したのかと疑問を覚える向きもあるだろう。フルMVNOとして提供しているデータ通信対応のeSIMサービスが伸びている中、音声通話対応のeSIMサービスを拡大する意義がどこにあるのか。
日本のMVNOとして最も早くeSIMを使ったサービスの提供を開始したIIJmioだが、その範囲はデータ通信にとどまっていた。eSIMは、フルMVNOの仕組みで展開していたためだ。ご存じのように、日本ではいまだ音声接続が実現しておらず、MVNOが自前で音声通話対応のSIMを発行することができない。そんな中、同社は10月にau回線を使った「タイプA」で、eSIMのサービスを開始した。
料金プランは現状のタイプAと同じで、2GBから最大20GBまで選択できる「ギガプラン」を契約できる。その他、オプションやセット割なども通常のタイプAと同じだ。大きな違いは、オンラインで最短即日発行が可能なところにある。これを実現するため、IIJはオンラインで本人確認を行うeKYCの仕組みを用意した。au回線を使ったMVNOとしては、mineoに続いて2社目のMVNOになる。
一方で、同社は早くからドコモ回線でMVNO事業を展開してきただけに、なぜau回線から音声通話対応のeSIMサービスを開始したのかと疑問を覚える向きもあるだろう。フルMVNOとして提供しているデータ通信対応のeSIMサービスが伸びている中、音声通話対応のeSIMサービスを拡大する意義がどこにあるのかも気になるポイントだ。そこで、IIJでコンシューマー向けMVNO事業を率いるMVNO事業部 コンシューマサービス部長の亀井正浩氏と、副部長 サービス企画課長の辻久司氏に話を聞いた。
なぜドコモ回線を差し置いて、au回線のeSIMサービスから始めたのか
―― タイプAでのeSIMサービスが始まりました。まずは、その理由を教えてください。
亀井氏 eSIM自体は(フルMVNOで)もともとやっていましたが、(データ通信だけだったので)音声をやるかどうかはずっと考えていました。4月にITmediaのインタビューを受けた際にも仕様は分かっていたので、準備しようとはしていました。サービス開始前にiPhone 14シリーズがeSIMだけになったらどうしようかとビクビクしていましたが……。
―― 仮にiPhone 14シリーズが北米と同様、eSIMだけになっていたら、タイプAのサービス導入はもっと巻いていたのでしょうか。
亀井氏 もっと早く出さなければいけなかったでしょうね。遅れた理由もあります。ドコモ網を使うユーザーが多いので、そちらを最優先で考えていたからです。もともとドコモと一緒にやりたかったのですが、ドコモと協議をしている中で、他社でやられている形式以上のアップグレードが見込めそうにないことが分かりました。具体的には、端末のEID(eSIMの識別番号)を入力させる形式ですが、これが変わらないのであれば協議に時間がかかるということでau回線を先に出すことにしました。こういったところで時間がかかっています。
―― なるほど。ドコモ回線は、MVNOでもEID登録が必要になりますからね。ユーザーからすると、煩雑です。
亀井氏 ドコモ自身もオンラインでの手続きを再開しましたが、不思議なコードを入力しないとeSIMプロファイルを再発行できない。それを入れなければならない利便性とは何なのか……と思うところです。利便性を損ねていることは伝えていますが、ここは改善したいと思っています。
バックアップ回線というよりは主回線で使ってほしい
―― フルMVNOでeSIMを展開している中、あえて音声通話の卸を使ってeSIMサービスを展開する意義はどこにあるのでしょうか。
亀井氏 データSIMでずっとやってきて、楽天モバイルからの移行需要もつかめました。そのため、特にやる意義はないかと思っていましたが、ユーザーの声を聞くとやはり(ニーズは)多い。eKYCの準備もできていなかったので、それを開くためのきっかけとして音声もやらせていただくことにしました。
―― eSIMをバックアップ回線にするといった使い方も注目されるようになりましたが、そういった使われ方は狙っていますか。
辻氏 タイプAは音声回線なので、どちらかと言うと主回線としての意味合いが強い。今はデータ通信(フルMVNOのeSIM)をかなり安くしているので、そこ(バックアップ回線)を意識してのサービス開始というわけではありません。
亀井氏 iPhoneには、APN構成プロファイルが1個しか入らない問題もあり、(バックアップ回線として使うには)少々厄介です。うまく説明しながらやらないといけないと思っています。メインも私たちの回線を使ってもらえれば(APN構成プロファイルは)1つで済みますが、私たちの回線2回線で冗長化するケースは少ないですからね。インストールのさせ方にも工夫が必要になります。
最初にeSIMを出したとき、楽天モバイルを使いつつうちも使うというテクニカルサポートが増えたということがありました。それを推奨していないとなると、ちょっと話が違うとなってしまう。そういったととろまで突っ込んで、細かくマニュアルを作りました。音声回線を出すと、もっといろいろなサポートが増えることは想像できたので、その準備も10月いっぱいやっています。
関連記事
- IIJmio、au回線で音声対応eSIMの提供を開始
インターネットイニシアティブ(IIJ)は10月25日から、音声通話機能付きeSIMを提供する。対象プランは個人向けMVNOサービス「IIJmioモバイルサービス」のギガプラン タイプA(au網)。月額料金は2GBで850円から。 - 楽天モバイル0円廃止の影響でIIJmioも好調 音声eSIMは「ドコモと協議している」と勝社長
インターネットイニシアティブの2022年度第1四半期の業績は増収増益と好調。個人向け「IIJmio」は楽天モバイルが0円廃止を発表した影響で、3.6万回線の純増となった。KDDI通信障害の影響でサブ回線需要が増し、eSIMが特に好調のようだ。 - IIJmio「ギガプラン」の反響と値下げの狙い 音声対応eSIMは「準備が整いつつある」
IIJは、2021年4月に導入したIIJmioの新料金プラン「ギガプラン」を、4月1日に値下げした。消費税の総額表示に対応した際の端数をなくすための色合いが濃いわずかな値下げだが、4GBプランを特に大きく値下げしている。ギガプラン開始から1年経過したのを機に、IIJmioの最新動向をうかがった。 - IIJmio「ギガプラン」を8カ月使ってみた 通信品質はどう? どんな人にオススメ?
MVNOサービス「IIJmio」の「ギガプラン」を契約しました。格安SIMを検討している方、かつ「IIJmioのギガプラン」を検討している方向けに、IIJmioギガプランを契約して満足した点・不満を覚えた点をまとめていきます。通信速度や通話料金、向いている人などについて検証しました。 - IIJmio「ギガプラン」の狙いを聞く 通信品質はどうなる? eSIMの音声サービスは?
大手キャリアの値下げに対抗する形で導入されたIIJmioの「ギガプラン」は、その安さが衝撃を与えた。先行して新料金プランを導入していた他社を大きく下回り、MVNOとしての“意地”を見せた格好だ。IIJはなぜここまで大胆な値下げに踏み切ることができたのか。同社のキーパーソンに聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.