キャリア間で進む“バックアップ回線”の運用 スマホよりもIoTで先に実現したワケ:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を契機に、総務省で非常時の事業者間ローミングに関する議論が進んでいる。一方で、各キャリアは、デュアルSIMやeSIMを活用しながら、バックアップ回線をお互いに提供するような案も検討している。実際、コンシューマー向けに先立つ形で、IoT回線のバックアップソリューションが各キャリアから登場している。
NTTコミュニケーションズはグループ海外MVNOを活用
同様のソリューションは、「docomo Business」のブランドで法人事業を展開するNTTコミュニケーションズも12月から、バックアップ回線を含む冗長化ソリューションの提供を開始する。バックアップ用回線の調達や保守をワンストップで行い、主回線と同一のコンソールで管理できる点は、KDDIと同じ。こちらは、デュアルSIM対応ルーターと合わせて、もう1枚のバックアップ回線を提供するソリューションになる。
2回線目として活用しているのが、フランスに拠点を構えるTransatelだ。同社は、IoTや国際ローミングのデータ通信に特化したグローバルMVNOで、早くからeSIMにも取り組んでいる。NTTコミュニケーションズは、2019年に同社の株式の過半数を取得する形で買収を完了。現在は、NTTのグループ再編に伴い、グローバル事業を担うNTTリミテッド傘下の企業として、国内外にサービスを提供している。
Transatelは、日本のローミング先としてKDDIに接続していたが、NTTグループへの参画と前後し、ドコモ回線も追加している。コンシューマー向けに提供するローミングサービスの「Ubigi(ユビジ)」では、日本向けの料金プランを選ぶと、ドコモかKDDIのどちらかに接続する。一方で、NTTコミュニケーションズのソリューションでは、あくまでメインであるドコモ回線に対するバックアップになるため、Transatel側のSIMカードには「KDDIにのみつながる仕組みが入っている」(NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部 5G&IoT部 IoTサービス部門 担当課長 三谷秀行氏)。
先に述べた通り、通信がつながらない原因は、必ずしも電波とは限らない。「電波はつながっているが、その上のIPレイヤーがつながっていないときにもつながりにくくなる」(同)。単純に電界強度だけでSIMカードを切り替えてしまうと、このような状況に対処できない。そのため、この冗長化ソリューションでは、「疎通確認を(IPレイヤーでも)しっかりとって、つながらない場合は他キャリアの回線に切り替えるようにしている」(同)という。この点は、KDDIが発表したソリューションと同じだ。
サブ回線は、基本的には従量課金になり、使ったときだけ料金が発生する仕組みだという。「大容量の通信ではなく、基本的には少ない容量を前提にしている。今まで同容量のパケットをセットにするのではなく、従量で安価にご利用いただけるようにした」(同)。デュアルSIMで料金が2倍になるというと、導入をためらってしまうユーザーも多そうだが、従量課金であれば、コストが発生するのは非常時のみで済む。ルーターの入れ替えなどは必要だが、比較的気軽に導入できるソリューションといえる。
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