ドコモの「dスマートバンク」は成功するのか? “銀行事業ではない”ことの課題も:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
ドコモは、12月12日に新たな金融サービスの「dスマートバンク」を開始した。ドコモ自身が銀行業を行うのではなく、三菱UFJ銀行が用意したAPIを活用している。実際に使ってみると、こうした建て付けゆえの限界も見えてきた。
銀行自体を持つ他キャリアに、ドコモはどう対抗していくのか
「将来的には振込や振替を実現するよう、API連携を拡大するお話を(三菱UFJ銀行と)している」(色川氏)というが、具体的な時期などは明示されていない。ドコモ回線やdカードの引き落とし申請を簡単にできるなど、一定のメリットはあるものの、機能は限定的だ。三菱UFJダイレクトを補助するアプリとしては利用できるが、メインの銀行アプリにはなり得ない。既存の銀行のAPIを活用することでサービスを始めやすい半面、キャリアの提供する銀行サービスとしては、中身が中途半端になってしまった印象もある。
一方で、他キャリアは銀行業の免許を取得し、銀行そのものを展開している。KDDIは三菱UFJ銀行と提携し、auじぶん銀行(設立当時はじぶん銀行)を2008年に設立。12月15日には、預金口座数が500万を突破した。ソフトバンクも、Zホールディングス傘下のPayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)持ち、コード決済サービスのPayPayと連携を強化している。楽天も2009年にイーバンク銀行の親会社となり、2010年には行名を楽天銀行に変更している。新規参入を果たしたキャリアよりも事業としての歴史は長く、金融・決済事業の方が本業に近い。
各社の銀行サービスを見ると、本業である通信事業やその上に乗る金融事業とのシナジー効果もしっかり生まれていることが分かる。例えば、auじぶん銀行は住宅ローンで「auモバイル優遇割」を提供しており、金利を年0.07%引き下げている。電気サービスの「じぶんでんき」と組み合わせると、追加で年0.03%の優遇を受けられる。こうしたサービスをまとめて利用しているユーザーは、通信回線の解約率が低くなり、KDDIにとってトータルでプラスになる。au PAYやau PAYカードなどとの連携で金利を上げる「auまとめて金利優遇」も用意しており、決済事業とのシナジー効果も高い。
ソフトバンクも同様だ。PayPay銀行とソフトバンク回線には直接的な連携はないが、名称を統一しているだけに、PayPayとの親和性は高い。PayPayからの出金手数料が0円だったり、加盟店の早期振込サービスの手数料が他の金融機関より安かったりと、各種優遇を受けられる。ソフトバンク回線のユーザーほどPayPayの利用率は高いため、間接的にPayPay銀行の恩恵を受けることが可能だ。楽天は、8月時点のデータで、モバイルの新規契約者のうち約20%が楽天カードを契約しているという。クレジットカードと銀行は双方を利用する率が高く、こちらも間接的なシナジー効果があるといえる。
銀行そのものを運営する他社と比べると、ドコモのdスマートバンクは、リスクが低く、素早く展開できる一方で、現時点ではサービス内容が小粒だ。銀行を展開する他社に対し、dスマートバンクだけで対抗していけるかは未知数といえる。一方で、本業とのシナジー効果だけを狙うのであれば、銀行本体はあえて持たず、BaaSを活用した方が身軽に動けるという見方もある。振込も含め、ドコモのユーザーにとって必要な銀行サービスを矢継ぎ早に提供できるかが、dスマートバンクの成否を左右しそうだ。
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