「1円端末」や「プラチナバンド獲得」の行方は? 2023年に注目すべきモバイル業界のトピック:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
2023年のモバイル市場は、どのような競争環境になるのかを予想する。端末の上限2万円の割引を見直し、直接値引きを規制する動きが進みつつある。楽天モバイルが目指すプラチナバンド獲得の行方も注目される。
大手3キャリアのARPU反転なるか、鍵は5G拡大と中・大容量プラン
2021年の料金値下げラッシュの影響を引きずる形で減益に見舞われた大手3キャリアにも、一服感が出ている。2022年11月に開催された決算説明会で、ソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの宮川潤一氏は、「魔の3年の終わりが見えた」とコメント。ドコモの代表取締役社長、井伊基之氏も、11月の決算説明会で「ARPUは今年度(2022年度)の4000円程度を底に下げ止まるのではないか。そういった予兆は出ている」と語っていた。
直接的なトリガーになっているのは中・大容量プランを契約するユーザーの伸びだが、その理由は動画などのコンテンツ視聴が拡大しているところにある。例えばドコモの場合、2022年度第2四半期でahamoや「5Gギガホ プレミア」などの料金プランが1000万契約を突破。前年同期比で30%の伸びを示している。5Gの契約者数も、前年同期比2.3倍の1602万契約に拡大した。動画などのスマートフォンで楽しむための大容量コンテンツが整い、5Gの伸びと相まって中・大容量プランの契約数も拡大。結果としてARPUが下げ止まるという理屈だ。
また、KDDIの代表取締役社長、高橋誠氏も2022年1月の決算説明会で「5Gユーザーのトラフィックは4Gの2.5倍超」と話している。こうしたトレンドは、グローバルで一致している。通信機器ベンダーのエリクソンが2022年12月に発表した「Ericsson Mobility Report」によると、スマートフォン1台あたりのデータ使用量は、2022年の世界平均で15GBに達しているという。これが、2028年には46GBと、2倍強まで拡大する見込みだ。コンテンツやサービスが出そろい、通信や端末の性能が向上したことがこの伸びを後押ししているという。
一部の国や地域では、「(5Gをオプションにして追加料金を取る)段階的な料金を設定したり、5Gの中で(コンテンツを)パッケージ化して差別化をしていたりする」(エリクソン・ジャパン CTO 藤岡雅宣氏)というが、日本ではこうした取り組みが手薄だ。5Gの導入と料金値下げのタイミングが一致してしまったことが、キャリアにとって不運だったといえる。KDDIはauの料金プランにNetflixやDAZN、Apple Musicといった人気のコンテンツをバンドルしているものの、他社には広がっていない。「5G化しても収益が上がらなければ、(キャリアが設備投資する)インセンティブにならない」(同)というわけだ。
とはいえ、中・大容量プランの比率が増えれば、ARPUの底上げにはつながる。大手各社が11月、12月に相次いで発表した春商戦向けの料金プランも、10GBや20GBといった中容量のものが中心だ。また、KDDIは低容量向けの料金プランにあたる「ピタットプラン 4G/5G」の新規受付を終了し、新たに「スマホミニプラン 4G/5G」を導入する。スマホミニプランは4GBが上限で最大6215円(税込み)と、データ使用量によってはピタットプランより割高になる。これも、auブランドはデータ容量が無制限の「使い放題MAX 5G/4G」に集中していく表れと見ていいだろう。
とはいえ、5Gの契約者が増えても、通信速度が上がらなければ意味がない。特に日本は設備投資の遅れもあり、エリアや通信速度が先行する他国に及んでいない。「基地局の密度を見ても、人口1000人あたり1を割っている」(藤岡氏)上に、大容量化を実現するMassive MIMOも「まだまだ入っていないのが日本の課題」(同)といえる。ARPUの反転が実現したあと、このような5Gの環境整備をどこまで進められるかが問われそうだ。
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