新ミッドレンジ「AQUOS sense7」開発秘話 カメラもデザインも大刷新を遂げた理由(2/3 ページ)
ど真ん中のスマートフォンを目指して開発してきた「AQUOS sense」シリーズのイメージを覆したのが「AQUOS sense7」だ。カメラに最大の特徴があり、ミドルレンジモデルながら、一部ハイエンドモデルが採用していた大型の1/1.55型センサーを採用する。デザイン面も、AQUOS Rシリーズに近づけ、AQUOSとしての共通イメージを抱きやすくなった印象がある。
デザインをRシリーズに近づける意図があった
―― 先ほど、小林さんがセンターカメラのお話をする際に「メッセージ性」ということをおっしゃっていましたが、デザインをRシリーズに近づける意図があったのでしょうか。
清水氏 それは大いにありました。“AQUOSっぽさ”を作りたかったからです。そのために、Rシリーズから始めた、カメラを特徴とする使いやすいセンターカメラデザインにしました。今までのシャープは、シリーズごとにコンセプトが違うということをやりがちでしたが、それだとイメージが分散してしまいます。そこを統一し、senseもRに歩調を合わせることにしました。
―― 一方で、端末の構造はこれまでのsenseシリーズと同じで、バスタブ型の金属ボディーで、フレームにガラスをはめたRシリーズとは異なります。
小林氏 エッジを出しているので、(Rシリーズのようにパーツを)組んでいるように見えますが、基本はバスタブのユニボディー構造です。
清水氏 この構造だと、ひねりと曲げに強くなります。プラスチックだとパキッといってしまうような力をかけてもびくともしない。ずっとやってきた、MIL規格の耐衝撃性にも対応しています。見た目もアルミで、高級感が出せたと思います。
―― ただ、金属素材は電波と干渉するため、ガラスの方が設計しやすいようにも思えます。5Gに対応し、周波数も増えていますが、この点はいかがでしたか。
清水氏 ぶっちゃけてしまうと、バスタブ構造は、ミリ波をやろうとすると苦労することになります。ただ、今のsenseにはそこまでのニーズはないので、5GもSub-6までにしています。であれば、LTEとSub-6、あとはWi-Fiを今のフレーム内に入れ、効率よく成り立たせることはできます。バスタブを始めたのはAQUOS sense2のときですが、そのときはどうしてもアンテナが太くなってしまい、塗装で隠していました。それを繰り返すことで効率を上げることができ、だんだん目立たなくなってきています。これは、継続のたまものですね。
小林氏 Sub-6だけであれば、例えば3.5GHz帯はもともと4Gで使っていた周波数なので、5Gに対応したからといって、難易度が上がることはありません。どうしてもできないのは、清水がお話ししたミリ波ですね。あとは非接触充電。これは、金属だと基本的にはできません。
―― 今後、ガラスを採用することはあるのでしょうか。
清水氏 今後のことはまだ考えていないので分かりませんが、耐衝撃という点では、まだガラスより金属の方が優れています。また、ガラスだと重量も上がってしまいます。取り回しの良さや、気軽に使えることを考えると、今はアルミが最適だと思います。確かにガラスだと仕上げはキレイになるのですが。
―― AQUOS sense7を持ったとき、デザインテイストがAQUOS R7に近いこともあって、軽いと感じました。
清水氏 185gでそこまで軽いわけではないので、そういう反応があるとは思ってなかったですね。
ミッドレンジのチップで高度な画像処理をする難しさ
―― 端末で気になったのは、チップセットです。Snapdragon 695は、4月に発売された「AQUOS 6s」と同じですが、据え置きになった理由はやはり半導体不足でしょうか。
小林氏 どちらかといえば、AQUOS sense6sがイレギュラーな商品で、急きょ、もともとAQUOS sense7用に作っていた設計をsense6に入れています。sense7が先にあったというのが背景です。今はQualcommも含め、サプライの問題は解消に向かっているので、以前のようにおかしな状況ではなくなってきています。
―― ミドルレンジモデルの採用が多いSnapdragon 695ですが、AQUOS sense7は、コンピュテーショナルフォトグラフィーの処理もかなり入っているように見えます。処理能力は十分だったのでしょうか。
原氏 そこはだいぶ苦労したところです。センサーはいいものなのですが、組み合わせるチップがハイエンドと比べるとだいぶ貧弱でした。CPUの処理能力はもちろんですが、ISP(Image Signal Processor)もハイエンド向けのものに比べると低スペックで、いいセンサーと組み合わせるのが難しかったですね。
―― 処理を減らして軽くするというようなことはやっているのでしょうか。
原氏 本当はそのように軽くしたかったのですが、ナイトモードを改善したので重くなっています。RAWレイヤーで合成するようにしたので、CPU負荷が増加しましたが、バックグラウンドで処理をするようにして、何とか形にできました。
小林氏 センサーをよくするのはくっつければいいだけですが、センサーから入ってきた光を仕上げるための演算を、ミドルレンジのチップでどうやるのかは大変です。特にSnapdragon 695は、部分的に690よりスペックが落ちているところもありました。HDR表示がなかったり、動画は4Kが撮れなかったりします。商品として仕上げるにあたり、致命的に前モデルより悪いところはないようにしていますが、チップの世代ごとの特性はどうしても出てしまいます。そこをすり合わせていくのが肝でした。
―― ナイトモードの処理が重くなった理由はRAW合成でしょうか。
原氏 RAW合成にしたのが大きいですね。ただ、AQUOS sense6sが同じチップだったので、先にそちらに載せることで、早い段階から開発を進められました。早い時期から、ああでもない、こうでもないとできたのが大きかったですね。今までのsenseの中では、一番開発期間が取れた端末だと思います。
―― RAW合成すると、具体的にどう画質が改善されるのでしょうか。
原氏 YUV(輝度信号、輝度信号と青の差、輝度信号と赤の差を組み合わせたデータ)という、JPEGの直前の段階で合成すると、合成に至るまでの間に情報がだいぶ欠落してしまいます。センサーから出た瞬間に残っている情報が、合成段階で消えてしまうんですね。特に小さいものだと、ノイズなのか本当に写っているものなのかが判別できず、消えてしまうことがあります。そのディテールをRAWだと残すことができます。画像を重ね合わせながらノイズを除去することでディテールを残せますが、その分、処理量は大きくなります。
小林氏 具体的な写真の写りで言うと、暗部が残るようになりました。今回の夜景は、ここがかなり残るようになりました。言葉にすると「ふーん」という感じかもしれませんが、夜景をキレイだと思わせるための要素は数点しかありません。光のボケが玉になっているかだったり、暗いところが見ているかだったり、全体的なノイズ感だったりといったりで決まります。その2つ、3つを改善すると、夜景の見え方が劇的に変わります。
―― 重いというと、ポートレートモードの処理で待たされるようなことがありました。
原氏 2つのカメラを動かしているので、そこがまず重い。それプラス、ビューティー処理をかけつつ、HDRをしているので、とんでもない処理量になってしまいます。それでも、ちょっとずつ省けるところは省いています。
小林氏 ただ、連続で撮らない限り、そこまで遅さは感じません。連続で撮りたい方は、ぜひAQUOS R7を使っていただければ(笑)。
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