エシカルな国産スマホ「arrows N」が目指すサステナブルとは? FCNTが説明(3/3 ページ)
FCNTがNTTドコモ向けに納入する「arrows N F-51C」の製品説明会を開催。重量ベースで本体の約67%を再生資源としたことが特徴だが、その製品化に至るまでの経緯が語られた
3回のOSバージョンアップ、4年のセキュリティ更新を保証
arrows Nでは、耐久性の高いハードウェアを採用して長く使えるスマホを目指すと共に、販売後のサポートもより長い期間提供していくという。Android OSのバージョンアップは最大3回の提供を予定しており、セキュリティアップデートは発売から4年間の提供をうたう。機能改善に関わるアップデートも、セキュリティアップデートと同じ期間に渡り提供していく方針だ。
タフだから長く使える
arrowsシリーズは、防水や耐衝撃といったタフネス性能を強みとしてきた。arrows Nでは再生素材を用いつつも、耐久性能はそのまま確保し、長く使えるスマホとして仕上げている。製品の外観は飽きづらいシンプルなデザインを採用し、一見して再生素材とは思われないような質感表現を工夫したという。
具体的には、噴水流にも耐えられるIPX5/8の防水性能、粉じんの混入を完全に防止するIP6Xの防塵(じん)性能を確保している。コンクリートへの落下テストなど、米国防総省の物資調達基準「MIL-STD-810H(MIL規格)」に定める23項目の耐久テストもクリアした。泡ハンドソープでの本体の丸洗いや、アルコール除菌にも対応する。
パッケージは環境に配慮したFSC認証紙を採用し、資源ごみとして回収できるように畳みやすい構造としている。パッケージの印刷はバイオマスインクで行っている。
リサイクル素材でスマホの細かい部品を設計するために、FCNTは多くの素材メーカーと協力している。説明会では、再生素材を供給したサウジ基礎産業公社(SABIC)が紹介された。
SABICは世界最大級の石油化学メーカーで、近年は再生プラスチックの製造も積極的に行っている。arrows Nでは、SABICが製造する3種類のグレードの再生プラスチックを採用。再生プラスチックでは難しいとされる透明度の高いプラスチックや、しなやかで強度の高いプラスチックも含まれている。
arrows Nではペットボトル由来のPBT樹脂も用いられている。この樹脂はFCNTの特注で、SABICが特許を保有するリサイクル技術を活用して製造されているそうだ。
電池の劣化防止技術を採用
arrows Nでは長く使えるスマートフォンを目指すべく、Quivoのバッテリー充電最適化技術を新たに採用している。
Quivoの技術は、電池パックの状況を端末上で解析し、バッテリーをできるだけ長持ちさせるという給電方法を選ぶというもので、電気化学インピーダンス分光法(EIS)という手法が用いられている。過去にソニーが「Xperia X Performance」などで採用していた実績もある。
FCNTによると「ヘビーな使用を想定した試験環境下で、Quivoの技術なしではバッテリーが40%まで進んでいたところ、20%に抑えることができた」という。arrows Nの電源管理ではFCNTの技術も組み合わせており、例えばバッテリー残量が満タンに近い状態で使い続ける場合でもバッテリー劣化を防げるという。
サステナブルに暮らす情報を発信する「arrows ポータル」
arrows Nの発売に合わせて、FCNTでは「arrows ポータル」というポータルサイトを用意し、arrows ポータルでは、エシカルなライフスタイルを発信するメディアによるニュースを発信。徒歩で移動したり、ピーク時間以外に充電したりといった、環境に配慮した活動に応じてポイントがもらえるプログラムも提供される。
FCNTはスマホの製造だけでなく、アフターサービスも重視するという方針を打ち出している。arrows ポータル上は、環境に配慮した生活を続けるためのサービスを提供することで、新たな収益源へとつなげていきたいという。
製品ライフサイクルの長期化が進むことから、FCNTでは新たな収益源の確保も検討している。会員プログラムの「La Members」を強化して、新たなサービスを導入する方針が示された。
また、arrows Nを独占販売するNTTドコモも、「カボニュー」というポータルサイトを運営する。カボニューは環境に配慮した行動をRecoという指標で数値化し、日々の生活の中での環境貢献度を推定する表示するというサービス。dアカウントがあれば無料で利用できる。arrows Nを買うとカボニュー上では「環境に配慮してつくられたスマートフォンの購入」に該当するためRecoが付与される。
Qualcommやアドビも環境への配慮をアピール
arrows Nはプロセッサとして「Snapdragon 695 5G」を採用している。このチップは2022年発売のスマートフォンでは多く採用されているミドルハイレンジ向けの製品だ。FCNTは「サステナブル(安定的)な調達や長期サポートの実現」という観点から採用を決めたという。
クアルコム・ジャパンの須永順子社長は、FCNTの製品体験会に寄せた動画の中で「Snapdragon 690シリーズは通常、8nmプロセスで製造されているが、arrows Nでは6nmプロセスで製造されたSnapdragon 695 5Gを採択いただいた」と言及。一段階進んだ製造プロセスを採用したことで、消費電力の削減にもつながるとした。
アドビは、arrows シリーズのカメラ機能の「Photoshop Expressモード」の提供で協力している。今回のarrows Nでは、新たにスキャナーアプリの「Adobe Scan」とPDFリーダーの「Adobe Acrobat Reader」もプリインストールしている。同社の里村明洋CMOは、Adobe ScanやAdobe Acrobatを通して同社の「Adobe Document Cloud」を利用することで、紙の書類を用いることによる環境負荷を削減できると語る。
arrows Nを1台買うと、アフリカのスマホ1台がリサイクルされる
arrows Nでは、「スマホを買うとスマホ1台がリサイクルされる」というオランダのClosiong the Loopの取り組みにも協賛している。
スマホが大量生産される一方で、使われなくなった機器の一部が「デジタルごみ」として廃棄されている課題がある。Closiong the Loop社ではアフリカで不法投棄されているスマートフォンを回収し、資源としてリサイクルする活動を行っている。
FCNTは伊藤忠商事を通してClosiong the Loopと「廃棄保証サービス」の契約を締結。arrows Nが1台購入されるごとに、アフリカのスマホ1台分のリサイクル費用を拠出する取り組みを実施する。日本のスマホメーカーとしては初めての取り組みとなり、当初は最大5000台に限定して行うという。
なお、ドコモはドコモオンラインショップで販売されたarrows Nの売り上げのうち、1%を環境保全活動を行う法人「世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)」の活動資金として寄付する取り組みも実施される。
有楽町マルイの「エシカルな暮らしLab」で実機を展示
arrows Nは、Gabが有楽町マルイ(東京都千代田区)にテナントとして出店しているセレクトショップ「エシカルな暮らしLAB」でも展示される。
Gabの山内萌斗CEOによると、エシカルな暮らしLABは「スタッフとブランド、来店者の垣根を無くして、商品開発のために協力しあうコミュニティー型の実店舗。商品の魅力を伝えて売るだけでなく、『買わない理由』をヒアリングして製品の開発者にフィードバックする場にもなっている」という。
店頭には廃棄されるホタテの貝殻を使ったネイルポリッシュや、リンゴの絞りかすでできた合成皮革のカバンなどが並んでいる。arrows Nを体験できるコーナーはその一角に設けられており、店頭での購入はできないが、実機を自由に触って試せる。展示は2023年8月までの半年間実施される予定だ。
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