楽天モバイル向け? 総務省が「3MHz幅プラチナバンド(LTE向け)」の割り当てに関する指針案を策定 意見を募集
700MHz帯の上下3MHz幅の電波をLTE-Advanced規格の通信サービス向けに割り当てるべく、総務省が指針案を策定した。これに伴い、同省は6月21日から本案に関するパブリックコメントを募集する。
総務省は6月21日、「700MHz帯における移動通信システムの普及のための開設指針案」を発表した。700MHz帯の電波の一部をLTE-Advanced(4G)規格の通信サービス向けに新しく割り当てるための方法など定めたもので、6月22日から7月21日まで本案に対する意見(パブリックコメント)を募集する。
指針案が出るまでの経緯
今回の指針案は、700MHz帯の電波のうち715MHz〜718MHz(上り)/770MHz〜773MHz(下り)の帯域を、新たにLTE-Advanced規格の通信サービス用に割り当てるために出されたものだ。
700MHz帯(バンド28)は、広いエリアカバーが可能な周波数帯(いわゆる「プラチナバンド」)の1つである。この帯域はNTTドコモ、KDDI/沖縄セルラー電話とソフトバンクの3社にそれぞれ上下10MHz幅の帯域が割り当てられている。また、ドコモとKDDI/沖縄セルラー電話は800MHz帯(※1)、ソフトバンクは900MHz帯の割り当ても受けている。
(※1)ドコモはバンド19/26、KDDI/沖縄セルラー電話はバンド18/26
一方で、移動(モバイル)通信に新規参入した楽天モバイルは、LTE/LTE-Advanced用の帯域として1.7GHz帯(バンド3)しか保有していない。そのため、既存事業者における3G(W-CDMA/CDMA 2000)のサービス終息に合わせた周波数の再割り当てに合わせて、自社にプラチナバンドの一部帯域を割り当てるように要望した。
総務省において再割り当てに関する議論が進む中、NTTドコモが「700MHzで上下3MHzずつ使える帯域がある」という旨の提案を行った。これを受けて同省が検討を進めた結果、当該の帯域(715MHz〜718MHz/770MHz〜773MHz)をLTE-Advanced規格用に新規に割り当てる方針が固まった。
- →700MHz帯への狭帯域4Gシステム導入の提案(NTTドコモが総務省に提出した資料、PDF形式)
ただし、この帯域は上り通信では「特定ラジオマイク(※2)」と「地上波デジタルテレビ放送」、下り通信では「ITS(高度道路交通システム)」が利用する帯域と近接しているため、これらとの混信を回避(または干渉/混信により発生しうる障害への対応)を行う必要もある。
(※2)利用に当たって無線局免許の取得が必要なアナログ/デジタル伝送のワイヤレスマイクで、「A型ワイヤレスマイク」とも呼ばれる。具体的には高音質で伝送が求められるコンサートホールや演劇場などで使われることが多い
ドコモが2022年11月30日に行われた総務省の会合で行った「700MHz帯への狭帯域4Gシステム導入の提案」(PDF形式)。混信/干渉対策は必要だが、700MHz帯においてLTE-Advanced向けに上下3MHz幅の帯域を新たに捻出できるという提案で、今回総務省が提示した指針案の“出発点”となった
指針案の概要
今回の指針案は、この帯域を通信事業者に割り当てる“方法”を決定するために出されたものだ。過去の周波数帯の新規割り当て時と同様に、応募する事業者が共通して順守しなければならない「絶対基準」と、競願となった(複数の事業者が応募してきた)場合の「比較審査基準」の案が示されている。
絶対基準案では、先述の混信/干渉対策を行うことの他、主に以下の要件を盛り込んでいる。
- 認定から10年後までに各総合通信局管区において人口カバー率を80%以上とすること
- 認定の有効期間(10年間)以内に単年度黒字となる収支計画を有すること
- MVNOの利用を促進する計画を持っていること
一方、比較審査基準案の主な内容は以下の通りとなっている。基本的に各基準において1位を獲得した(または要件を満たす)事業者に満点を与えるようになっているが、★印が付いているものは「等分配点」を実施する(2位以下の事業者にも一定の計算式に基づいて得点が与えられる)。
- エリア展開(28点満点)
- 認定から10年後における特定基地局(※2)がより多い(12点)★
- 認定から10年後における全国の人口カバー率がより大きい(12点)★
- 認定から10年後における道路カバー率がより大きい(4点)★
- 公平性(24点満点)
- プラチナバンドを保有していない(24点)
- 周波数の経済的価値(24点満点)
- 特定基地局開設料の金額(※3)がより大きい(24点)★
- 高度化(24点満点)
- 3MHz幅での5G・CA(キャリアアグリゲーション)利用に関して国際標準化の提案を行う(12点)
- 高周波数帯(Sub-6/ミリ波)と組み合わせて整備を行う(12点)
- その他(採点の結果、総合点で同率1位がいた場合のみ実施)
- 認定から10年後における全国の人口カバー率がより大きい(4点)★
(※2)特定の周波数を使う基地局(開設計画で募集された帯域で開設される基地局)
(※3)今回の指針案では1年当たり「(281.3-0.0114×開設予定基地局数)÷10÷2億円」以上(最低1億円)で計算する
「プラチナバンドを保有していない」ことに大きな配点が行われていることから、今回の指針案は事実上楽天モバイルに有利となっている。ただし、他の基準によって別の事業者が“逆転”できる可能性も否定できない。
パブリックコメントの応募方法
今回の指針案に関する資料は、全て総務省本庁(中央合同庁舎2号館:東京都千代田区)にある総合通信基盤局 電波部 移動通信課で配布される。また、総務省のWebサイトや電子政府窓口「e-Govポータル」の「パブリック・コメント」コーナーでもデータをダウンロード可能だ。
パブリックコメントを提出する場合は「意見公募要領」(PDF形式)をよく読んだ上で、以下のいずれかの方法で提出しよう。
- e-Govの「意見提出フォーム」(※4)
- 総務省が指定するメールアドレス宛の電子メール
- 総務省が指定する住所への郵送(※5)(※6)
- 総務省が指定する電話番号へのファックス(※7)
(※4)ファイルの添付には対応しない(添付が必要な場合は電子メールまたは郵送で対応)
(※5)総務省が指定するメールアドレス宛の電子メール
(※6)書面でコメントを提出しても構わない。ただし、場合によっては電子データ(テキストファイル、Wordドキュメント、一太郎ファイルのいずれか)での再提出を求められる場合もある(電子データはCD-R/RWかDVD-R/RWに記録して提出)
(※7)郵送の場合は締切日必着となる(締切日以降に到着した場合は受理されない)
なお、意見が1000文字を超過する場合は、意見の要旨も添付(記載)する必要がある。また、個人のパブリックコメントは匿名で公表されるので、意見が公表された場合でも「身バレ」はないので安心しよう。
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