IOWNは6G時代のボトルネック解消になるか 「IOWN WEEK」で見えた実力と課題:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
NTT、ドコモ、東急不動産は、東京・渋谷に完工した「渋谷サクラステージ」で、次世代コミュニケーション基盤の「IOWN」を導入。これをお披露目する「IOWN WEEK」を12月13日から15日の3日間に渡って開催した。IOWNは、次世代モバイル通信規格の6Gを支えるバックボーンとしても期待されている。
お笑いにも生きるIOWN、遅延のないボケとツッコミが可能に
ここまで遅延が少なくなると、どのようなユースケースが生まれるのか。お笑い芸人のイベントでは、全身を使ったジャンケンやラップバトル、漫才などが披露された。ジャンケンなど複数のケースでは、IOWNと一般のインターネット回線を切り替え、その差が示された。IOWNの場合、遅延がほぼリアルタイムといえるほど小さいため、同時に手を出すジャンケンが成立する一方で、ネット回線だと遅延が発生するため、どちらかが後出しになってしまい、タイミングが合わない。
圧巻だったのは、ヨネダ2000が「M-1グランプリ2022」の決勝で披露した、「餅つき」というネタだ。ヨネダ2000は、誠さんが渋谷サクラステージ、愛さんがソラスタに分かれ、漫才を行った。報道陣や関係者は、渋谷サクラステージ側でそれを見る格好になる。筆者らの視点で言うと、誠さんは目の前にいるのに対し、愛さんはモニター越しだ。こうした特殊な環境にもかかわらず、漫才が漫才として成立していた。餅つきの動きにズレはなく、あたかも愛がその場にいるかのようにぴたりと動きが合っていた。目の前に2人がそろっているのと、大きな違いは感じられなかったといっていい。
また、途中で一瞬だけ止まるといったトラブルも特に起らなかった。これは、遅延が単に小さいだけでなく、遅延の揺らぎがないからだ。IOWNを経由した漫才だからといって、現場に2人がそろったときより面白くなっているわけではないが、この“普通にできる”を実現するのが通常のネットワークだとなかなか難しい。スケジュールの都合などで、どうしてもコンビがそろわないときなどにも、これなら遠隔地から出演することができる。
漫才終了後に、感想を問われたヨネダ2000の誠は、「(普段の漫才と)あまり違いを感じなかった」と語る。愛も「触れないというのはあるが、リズムやラグに関しては、いつもやっている(のと同じ)ぐらい」と口をそろえた。トレンディエンジェルの斎藤は、記者モード(?)になって「家庭用として使える日は来るのか」と質問。ドコモのスマートライフカンパニー エンターテイメントプラットフォーム部 部長の勝亦健氏が、「30年以降に一般の人に使っていただけるようなところを目指している」と答える一幕もあった。
ビデオ会議のデモでは、双方が4Kの解像度でも遅延やゆらぎがなく、ほぼリアルタイムにコミュニケーションを取ることができた。こちらも、一般のインターネット回線に切り替えたところ、やはり途中で一瞬だけ映像が止まるなど、クオリティーは低下。IOWNの実力を発揮した格好だ。Zoomなどのビデオ会議をすると、相手の表情がよく読み取れなかったり、資料の文字が見えにくかったりした経験はあるだろう。音声がつぶれて聞こえないこともある。
IOWNのビデオ会議にはこのような欠点はなく、相手が目の前にいるかのようにコミュニケーションがスムーズに進んだ。遅延が少ないため、相手がしゃべり始めたところに発言をかぶせてしまうようなことも少なくなる。オフィス間の接続であれば、データサイズの大きなファイルを送受信したり、共同でドキュメントなどを編集したりすることもできる。離れた拠点にあるオフィス同士がつながれば、移動などの時間を削減でき、そのコストも下げることができそうだ。
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