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新しい「iPad Pro」を手にして分かったeSIMのメリットと課題 iPhoneのeSIMオンリーは時期尚早か(3/3 ページ)

タブレット端末を「12.9型iPad Pro(第4世代)」から「13型iPad Pro(M4)」に変更した。有機ELディスプレイにより薄型かつ軽量になったが、SIMカードの抜き差しはできず、eSIM(内蔵)にしか対応しない。新型iPad Proで実感したeSIMのメリットと課題を整理したい。

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日本向けのiPhoneもeSIMに一本化か 手軽さの裏に課題も

 ここまでの内容を踏まえて分かったメリットは、SIMカードを紛失せずに済むこと、そして、Apple製品同士でOSなどの条件を満たせば、eSIMクイック転送を利用し、店頭へ出向いたり、本人確認をしたりせずに移行できることだ。

 SIMカードは基本的に抜き差しだけで移行が済むが、SIMカードを採用する端末によっては、SIMピンがなければトレイを開閉できない。iPadも同様だ。SIMカードは頻繁に差し替えないことから、SIMピンを常に持ち歩いている人は少ないだろう。その点、eSIMならSIMピンの有無に関係なく、古い端末から新しい端末へ移行できる。

eSIM iPad
SIMピンはiPhoneなどの箱に付属するが、日頃から持ち歩く人は少数だろう

 とはいえ、iPad Proでより実感したeSIMの課題は、大きく分けて2つある。

 1つは、場合によっては移行が面倒であること。先述のように、eSIM→eSIM、SIMカード→eSIMへの移行は、Appleや通信事業者が指定する条件を満たさなければならないケースがある。また、iOS/iPadOSのeSIMクイック転送を利用できるのはiPhoneとiPadに限られ、AndroidやWindowsなど他のOSのデバイスでは利用できない。逆も同じだ。

 もう1つはセキュリティの甘さを突かれる可能性があること。楽天モバイルが4月23日に「【重要】身に覚えのないeSIMの再発行にご注意ください」と題し、eSIMにまつわる注意喚起を行った。ユーザー自身が気付かない間にeSIMを再発行され、楽天モバイルの回線を乗っ取られてしまった事例があったのだ。

 悪意のある第三者が携帯電話などの利用者本人になりすまし、SIMカードやeSIMの情報を盗み取る犯罪は「SIMスワップ」や「SIMハイジャック」などと呼ばれることがあり、近年、世界各国で問題視されている。KDDIの高橋誠社長は5月10日の決算会見で、「ネットで再発行できる手続きに関して、KDDIではeKYCと2段階認証を導入しており、ある程度、強固なものになっている」と説明し、ここ最近では各社トップがeSIMに言及する場面が増えている。

eSIM iPad
楽天モバイルが掲示したお知らせはeSIMにまつわる注意喚起だった。同社は同じパスワードの使い回しにより、eSIMの情報が盗み取られることから、定期的な変更を推奨している

 総務省は、キャリア間の乗り換えを促進させるため、料金プラン変更のしやすさだけでなく、eSIMの普及にも力を入れてきた。乗り換えのハードルを取り払うことを目的に、eSIMの普及が期待されていた感はあったが、一部の事業者で手軽に発行できる点が裏目に出て、不正発行につながっている、というのが現状だ。

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総務省が公表している「eSIMサービスの促進に関するガイドライン」と題した資料。eSIMのメリットにオンラインで手続きを完結できる手軽さを挙げている

 iPad ProがeSIMオンリーの仕様になったことから、次期iPhoneもeSIMに一本化されかねないが、現状の手続きの煩雑さや、乗っ取り対策の問題も鑑みると、時期早々ではないか、とiPad Proで改めて実感した。

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